7月32日|♯風まかせ文芸部
ショートショート:
題「7月32日」
7月31日午後11時32分、俺は海浜幕張のオーシャンブルーホテルの裏口で、特殊金融詐欺師、俗称『お金人間』の張り込み中だ。俺は俗にいうデカだが、あそこもデカいかどうかは神とカミさんのみぞ知る。ちなみにデカは、ワルたちの隠語だったクソデカの省略形だ。
俺はいろいろやらかしまくるから、監督員が同行している。今夜の監督員は3児の母の関東第三監査局局長代理、同期の奈美ちゃんだ。奈美ちゃんは余裕をコキまくり、10分前からスリープモードに入っている。しゃあないぜ、育児タスクとの並列処理中だしな。
ちょいと缶コーヒー買ってくるかちゅうことで、車から出た。俺は自販機で、サントリーBOSS無糖ブラックと、ボス微糖史上最高峰のプレミアムBOSS微糖を買った。ブラジル最高等級豆使用のプレミアムなやつは、同期の出世頭のボス・奈美ちゃんの冷却水代わりだ。サラリーマンはこうやって韻を踏む。常に上を立てるということだ。
車に視線をもどすと、助手席の奈美ちゃんが排熱ファンを回すように大口を開けてあくびしている。のんきなもんさキャリアさんたちは。ウン?俺は奈美ちゃんの大口の先のフロントガラスに、黄色いポストイットが貼られているのを見つけた。いつの間に?
お金人間は、いつも犯行現場に黄色いポストイットを残す。
俺は素早く周りを見渡した。人影はない。俺が缶コーヒーの選択に要した時間は約2秒×2。わずかその4秒の隙にフロントガラスへ貼る神業。俺はポストイットをはがし、極細油性マジックで書かれたようなメモに目を走らせた。
『7月32日7時32分。人並みな言葉だが、助けてくれ。ホテルで待つーーーbyお金人間』
なるほどな、7月32日という架空の日付けは、このメモの中に何か隠されているということだ。センサーで俺の気配を察知し、奈美ちゃんは瞬時に起動したので、ポストイットを見せた。 そうなのねと、奈美ちゃんは独り言をこぼし、レンズの焦点を合わせるように瞬きをすると、盗聴不可能の特殊警察携帯を取り出した。
「第1突撃隊、オーシャンブルーホテル5732号室突撃準備。指示を待て」 奈美ちゃんは暗号化したデータ通信で指示を出した後、俺の処理能力に合わせて早口で話し出す。
「7月32日、7時32分。人並みに(732)。ここまでで3つ。さらに、デカ定番の七三分け(73)のキミに(2)、そして奈美(73)に(2)向けたメッセージ。つまり合計5つの732で、5732!」
最後の5732は、二人でハモった。育児兼任ロボの奈美ちゃんがウインクし、俺がうなずいた。お金人間は何者かに追われているので、まず確保だ。俺たちは風林火山。風のように移動して、第1突撃隊と共に、5732号室のドアをノックした。
奈美ちゃんは、流血反応を感知したと俺の耳元で呟いた。
に参加します。
メモ:
他の方のお題「7月32日」の投稿を読んで書きたくなった。ネトフリの『ガス人間』の張り込みシーンから、妄想して書いた。
