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リスニング行動が描き出す音楽地図:73カ国の類似度ネットワークから見える5つの「音楽圏」

前回の分析では、Spotifyの世界73カ国のWeekly Top 200チャートを6年分追跡し、各国チャートが着実に「ローカル化」していることを確認しました。

ローカル率は37%から52%へ上昇し、1曲あたりの平均チャートイン国数は18.2カ国から10.1カ国へとほぼ半減していました。

ここで自然に浮かぶ疑問があります。

ローカル化が進む中で、国と国の間にはどんなつながりが残っているのか。そのつながりは、地理や言語で予測できるものなのか。それとも、もっと意外な構造が潜んでいるのでしょうか。

その問いを深めてみたくなり、今回は73カ国の 類似度ネットワーク を可視化してみました。各国のチャートで「どの曲がどれくらい聴かれているか」のパターンを比較し、似ている国同士を線で結んだネットワークです。

結果として見えてきた世界地図は、地理の教科書とはずいぶん異なるもののようなのです。

3カ国の類似度ネットワーク全体図。5つのコミュニティが色分けされ、ノード=国旗、エッジ=類似度、破線=コミュニティ間接続。

各国の「チャート特性」を数値化して比較する

まず、各国のチャートを「どの曲が何週間ランクインしたか」のリストとして数値化します。たとえば日本なら「曲Aが12週、曲Bが3週、曲Cは0週...」というように、分析対象の約24,000曲すべてについて週数を並べた長い数列を作ります。これがその国の「チャート特性」です。

73カ国ぶんのチャート特性ができたら、国のペアごとにコサイン類似度を計算します。コサイン類似度とは、2つの数列のパターンがどれくらい似ているかを0(まったく違う)から1(完全に一致)のスコアで表す指標です。

スコアが高い国ペア、つまり「同じ曲を同じような頻度で聴いている国」を線で結び、ネットワークを構築します。さらにLouvain法というアルゴリズムでコミュニティ検出を行いました。これは、ネットワークの中で互いに密につながっている国のグループを自動的に見つけ出す手法です。

また、異なるコミュニティに属する国の間を結ぶ線に注目しました。たとえばラテン圏の国と欧州圏の国が同じ曲を聴いている場合、その曲は2つの音楽圏の「接点」になっているといえます。こうした楽曲を「ブリッジソング(橋渡し楽曲)」と呼び、文化圏の境界を越える音楽とは何かを特定する試みです。

さて、この方法で73カ国を分類してみると、何が見えてくるでしょうか。


世界は5つの音楽圏に分かれていた

ネットワークのコミュニティ検出の結果、世界は5つの音楽圏に分かれました。

1つ目は 「レゲトン・ラテン圏」(18カ国) 。メキシコ、コロンビア、アルゼンチンからスペインまで、スペイン語圏が一枚岩のコミュニティを形成しています。Bad Bunny、Fuerza Regida、KAROL Gが圧倒的な存在感を示し、コミュニティ内の類似度は全5圏の中で最も高い。言語による結束力が最も明確に表れている圏域です。

2つ目は 「欧州ローカル & グローバルPop圏」(18カ国) 。ドイツ、フランス、イタリアなど西欧各国に加え、ブラジル、モロッコ、イスラエルといった一見すると雑多な国々で構成されています。各国のチャート上位はそれぞれの母国語アーティストが占めていますが、Billie EilishやAlex Warrenといったグローバルポップを「共通の下敷き」として共有しているという構造です。

3つ目は 「英語Pop / カントリー圏」(11カ国) 。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの英語圏コアに、北欧(デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド)と南アフリカが加わっています。Sabrina Carpenter、Morgan Wallen、Taylor Swiftが共通項で、特にカントリーミュージックの存在感が目を引きます。

4つ目は 「K-pop & ローカルヒット圏」(14カ国) 。これが今回最も興味深いコミュニティでした。日本、韓国、台湾、香港の東アジアに、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポールの東南アジア、さらにインド、パキスタン、UAE、そしてナイジェリアまでが含まれています。地理的には世界で最も分散したコミュニティです。なぜこれらの国が同じグループに? その答えは、後ほど詳しく見ていきます。

5つ目は 「トルコPop & アラブPop圏」(11カ国) 。トルコ、エジプト、サウジアラビアに加え、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナといった旧ソ連圏、バルト三国、ルーマニア、ブルガリアが含まれています。

ブラジルがラテン圏ではなく欧州圏に? ナイジェリアとUAEが東アジアと同じグループに? バルト三国がトルコ・アラブ圏に? 違和感のある組み合わせがいくつも目に入ります。その一つひとつを掘り下げてみると、地理や言語だけでは説明できない音楽消費の実態が浮かび上がってきます。


地図ではわからないことが、チャートからは見える

UAE — 複数の音楽圏にまたがる「結節点」

UAEとその接続先をハイライト。

上の図で、UAEの国旗から四方に伸びる線に注目してください。異なるコミュニティの色をまたいで、多くの国と接続しているのが見て取れます。

UAEは「K-pop & ローカルヒット圏」に所属していますが、英語Pop / カントリー圏との類似度も極めて高く、 カナダとの類似度は0.54 に達しています。 391曲をカナダと共有 しており、これは同一コミュニティ内の多くの国ペアを上回る数字です。

つまりUAEは、アジア圏にも英語圏にも多くの接続を持ち、異なる音楽圏をまたいで多方面につながっている「結節点」のような存在です。

UAEの人口構成を考えれば、これは不思議ではないのかもしれません。人口の約9割を外国人居住者が占めるこの国のチャートは、南アジア系、東南アジア系、欧米系の駐在員が持ち込むリスニング習慣の総和として成立しています。音楽チャートは「その国に住む人々の総体」を映す鏡であり、UAEのチャートは「世界の縮図」を映しているのだとも言えそうです。

ブラジル — 「ラテン」ではなかった

ブラジルの欧州圏所属をハイライト。ラテン圏との対比。

上の図では、ブラジル(赤いアノテーション)がラテン圏の国々の塊から離れ、欧州各国のグループの中に位置していることが確認できます。メキシコ(黄色のアノテーション)を含むラテン圏の塊とは、別のコミュニティに分類されています。

ポルトガル語を話し、南米大陸に位置するブラジルは、直感的にはレゲトン・ラテン圏に入りそうに思えます。しかし 実際に分類されたのは、欧州ローカル & グローバルPop圏 でした。

ブラジルのチャートを支配しているのはSertanejo(セルタネージョ)と呼ばれるブラジル固有のカントリーミュージックで、Henrique & JulianoやDiego & Victor Hugoが上位を独占しています。レゲトンを中心としたスペイン語圏のラテン文化とは、同じ「ラテンアメリカ」でありながら音楽的にはまったく別の世界です。

「ラテン」というひとつの言葉が覆い隠していた多様性が、ネットワーク構造を通じて見えてきます。

モロッコ — アラブではなくフランス

地理的にも言語的にもアラブ圏に見えるモロッコですが、トルコPop & アラブPop圏ではなく、欧州ローカル & グローバルPop圏に分類されました。

チャート上位をElGrandeToToやStormyといったフランス語ラップのアーティストが占めており、フランスとの類似度が高いためです。 旧宗主国との言語的な紐帯が、アラブ諸国とのつながりよりも、音楽消費においては強く作用している ということになります。

南アフリカとナイジェリア — 同じアフリカ、まったく別の世界

南アフリカ(英語圏)とナイジェリア(アジア圏)のハイライト。

上の図で、南アフリカ(青いアノテーション)とナイジェリア(赤いアノテーション)を探してみてください。同じアフリカの国でありながら、まったく異なるコミュニティに位置し、2国間の接続線もほとんど見えないことがわかります。

両国はともにアフリカ大陸に位置し、英語が公用語に含まれています。しかしネットワーク上では、南アフリカは英語Pop / カントリー圏に、ナイジェリアはK-pop & ローカルヒット圏に分類され、 両国が共有している楽曲はわずか72曲 にすぎません。

南アフリカのチャートはAmapiano系のローカル楽曲が強い一方で、Kendrick Lamarの「luther」やBillie Eilishの「BIRDS OF A FEATHER」をアメリカやオーストラリアと共有しており、英語圏との接続が保たれています。

対するナイジェリアはAfrobeats一色で、Seyi VibezやAsakeが圧倒的。他の国との接続線はわずか2本(南アフリカとUAE)しかなく、最も類似度の高い南アフリカとも0.056にすぎません。 73カ国のネットワークの中で、最も他国とのつながりが薄い国 です。

Afrobeatsは近年グローバルな注目を集めていますが、データで見る限りナイジェリアの「外」にはほとんど出ていない。前回の分析で見た「ローカル化」の最も極端な形が、ここに表れています。

バルト三国がトルコ・アラブ圏に

リトアニア、ラトビア、エストニアは地理的には北欧・東欧に位置していますが、トルコPop & アラブPop圏に分類されました。

これらの国はSpotifyの市場規模が小さく、データの大部分を各国のローカル楽曲が占めています。その中で、K-pop(特にJimin)とトルコPop(BLOK3, Ati242)が共通して聴かれていることが、欧米ポップよりも強い結びつきを生んでいます。

小さな市場においては、少数の共有楽曲がネットワーク構造を大きく左右する。このこと自体も、ひとつの発見です。


日本 — 先進国で最も「閉じた」チャート

日本の孤立をハイライト。韓国・台湾への2本のエッジ。

上の図で、日本の国旗を見つけてください。韓国と台湾に向かう細い線が2本伸びているだけで、他の国との接続がほぼ存在しないことが一目でわかります。同じコミュニティ内の他の国々が互いに密に接続されているのと対照的です。

日本の位置づけは、今回の分析で特に目を引く結果のひとつでした。

日本はK-pop & ローカルヒット圏に属していますが、ネットワーク上ではほぼ孤立しています。 他国との接続線はわずか2本 で、最も近い韓国との類似度は0.135、次に近い台湾でも0.100しかありません。2025年にランクインした楽曲658曲のうち、他国と共有されている曲はごくわずかです。

前回の分析で示された「日本のローカル率80〜90%」という数値が、ネットワーク上ではこのように可視化されます。

Mrs. GREEN APPLE、back number、米津玄師といったJ-popアーティストが上位を独占する日本のデータは、隣国の韓国や台湾とすら大きく異なっています。

ただし、これは「日本の音楽が世界で聴かれていない」ということとは必ずしも同義ではありません。前回のジャンル分析で見たように、J-popはグローバル曲ではわずか0.4%のシェアしかありませんが、チャートの「外側」での静かな浸透はまた別の話です。以前の分析でLampさんの事例として示したように、チャートには入らないけれど海外で大きく聴かれているアーティストは存在します。

もうひとつ注目すべきは、日本と韓国の距離感です。

K-pop & ローカルヒット圏という同じコミュニティに属しながらも、 類似度はわずか0.135。共有している楽曲は84曲 にすぎません。韓国のチャート上位はJiminやJin、Lim Young Woongで、日本のそれはMrs. GREEN APPLEやback number。K-popが日本で一定のチャートプレゼンスを持つことが両国を同じコミュニティに引き寄せてはいるものの、その紐帯は薄い。「近くて遠い」という両国の文化的関係が、チャートデータの上にも映し出されています。

さらに興味深いのは、日本のこの孤立が、市場規模の大きさとは無関係だという点です。

インドもローカル率が極めて高い国ですが、14カ国のコミュニティメンバーとして複数の接続線を持っています。ブラジルもデータの大半がSertanejoですが、欧州各国と多くの楽曲を共有しています。日本だけが、ここまで「閉じて」いるのです。

この閉じ方は、日本の音楽産業の構造とも関係しているのかもしれません。日本はストリーミング以前から独自の音楽流通・消費構造を持ち、レコード協会の統計によればフィジカル売上比率が依然として高い国です。データに反映される楽曲の構成が、ストリーミングネイティブな他国とは異なる可能性があります。

あるいは単純に、J-popというジャンルが持つ音楽的・言語的な独自性が、他のどの国の音楽とも似ていないということなのかもしれません。いずれにしても、73カ国のネットワークの中で日本がここまで際立って孤立しているという事実は、数字で見るとあらためて印象深いものがあります。


「どこでも聴かれる曲」と「2つの世界を結ぶ曲」は違う

コミュニティ間の破線エッジのみ強調。各エッジに橋渡し曲名を表示。

上の図では、コミュニティ間を結ぶ破線のエッジだけを強調しています。各破線の近くに小さく表示されているのが、そのエッジ上で最も特徴的な橋渡し楽曲の名前です。コミュニティの塊と塊の間に、楽曲の名前が散りばめられている様子が見えるでしょうか。

5つの音楽圏はそれぞれ独立しているわけではなく、いくつかの楽曲が圏域の境界を越えて浸透しています。こうした「ブリッジソング」の顔ぶれを見ていくと、グローバルヒットとは異なる論理で動いている音楽の流れが見えてきます。

Lady Gaga & Bruno Marsの「Die With A Smile」は、3つのコミュニティ間の接点に登場しています。レゲトン・ラテン圏と欧州圏(score18)、アジア圏と欧州圏(score14)、アジア圏とトルコ・アラブ圏(score10)。 5つのコミュニティのうち4つに浸透 しており、2025年で最も境界を越えた楽曲と言えそうです。

興味深いのは、BLACKPINKの「JUMP」の存在です。

この曲はレゲトン・ラテン圏と欧州圏をscore18で結びつけると同時に、K-pop & ローカルヒット圏とトルコ・アラブ圏もscore10でつないでいます。 K-popグループの楽曲が4つの音楽圏にまたがってチャートインする のは稀有なことで、K-popのグローバルリーチの特異な性質を物語っています。

実は、K-popアーティストの橋渡し機能には方向性がありました。

BLACKPINK、JENNIE、LISA、ROSEは、アジア圏から欧州圏、トルコ・アラブ圏、英語圏へと橋渡ししていますが、逆方向、つまりレゲトン・ラテン圏からK-pop & ローカルヒット圏へは、K-popを経由した接続がほとんど見られません。K-popの浸透には、特定の圏域に向かう「方角」があるということです。

もうひとつ目を引いたのが、ATLXSの「PASSO BEM SOLTO」です。

欧州圏とトルコ・アラブ圏をハイライト。

ブラジル発のこの楽曲が、欧州ローカル & グローバルPop圏とトルコPop & アラブPop圏の接点になっています。ブラジル音楽がアラブ・東欧圏に届いているという、従来の文化的距離からは予想しにくいつながりです。文化的距離の常識を裏切るこうしたつながりが、データの中にはまだ眠っているのかもしれません。

そしてここに、今回の分析で最も示唆的な発見がありました。

Billie EilishやSabrina Carpenterはどの国でも聴かれていますが、「どの圏域でもまんべんなく聴かれている」ために、特定の2つの圏域を結びつける力としてはスコアが高くありません。むしろBLACKPINKの「JUMP」やATLXSの「PASSO BEM SOLTO」のように、ある2つの圏域の両方で深く聴かれている楽曲のほうが、文化的な接点として強く機能しています。

「どこでも少しずつ聴かれる曲」と「2つの世界を結びつけている曲」は、違う存在 なのです。

この区別は、グローバルヒットの価値を考える上でも示唆的ではないでしょうか。


ローカル化した世界の「地図」

K-pop & ローカルヒット圏の14カ国をハイライト。他の4圏への接続も表示。

上の図では、K-pop & ローカルヒット圏の14カ国をハイライトしています。東アジア、東南アジア、南アジア、中東、アフリカと、地理的にまったくバラバラな国々がひとつのコミュニティを形成していることが視覚的に確認できます。

前回の分析では、世界の音楽チャートが「バラバラ」になりつつあることを確認しました。今回の類似度ネットワーク分析は、そのバラバラになった先に、 5つの音楽圏 という構造が存在することを示しています。

しかし、その5つの圏域の境界線は、地図の上に定規で引けるようなものではありませんでした。

言語が最も強い結束力を発揮していたのはスペイン語圏のみ でした。フランス語(フランスとモロッコ)やポルトガル語(ブラジルとポルトガル)は同じコミュニティに入ってはいますが、それは言語の力というよりも、グローバルPopの共有パターンが似ていたからにすぎません。

K-popは、異なる音楽圏をゆるやかにつなぐ独特の役割を果たしていました。

K-pop & ローカルヒット圏の14カ国は、互いのローカル楽曲がまったく異なります。日本のMrs. GREEN APPLEとインドネシアのHindia、インドのShubhに音楽的な接点はありません。それにもかかわらず、K-popという薄い共有層がこれらの国々を同じグループに引き寄せています。

さらにK-popアーティストの楽曲は、他の4つの音楽圏すべてとの接点にもなっていました。前回のジャンル分析では「国境を越えるローカルジャンルはほぼレゲトンだけ」という結果が出ていましたが、今回の分析ではK-popがそれとは異なる形で、方向性を持ちながら圏域間をつないでいる姿が見えてきます。

ラテンが圧倒的なボリュームで国境を越え、K-popが特定の方向に向かって圏域間を結びつける。この2つのジャンルが、ローカル化が進む世界の音楽チャートにおける、数少ない「横糸」になっているように見えます。

そして、UAEのようにその国に住む人々の構成がリスニングデータを決定づけるケース、南アフリカとナイジェリアのように同じ大陸でもまったく異なるケース、日本のように先進国でありながらネットワーク上ではほぼ孤立しているケース。

これらの事例が教えてくれるのは、 音楽の地図は地理の地図と一致しない ということです。

ローカル化とは、単に「自国の音楽ばかり聴くようになった」ということではないようです。類似度ネットワークが示しているのは、同じ大陸にあっても聴いている音楽がまったく違う国があり(南アフリカとナイジェリア)、遠く離れていても同じ曲がチャートに入る国がある(UAEとカナダ)という現実です。

国境や距離よりも、「実際に何を聴いているか」が国と国の近さを決めている。その結果として生まれた5つの音楽圏は、従来の地域区分とも言語圏とも異なる、リスニング行動が描き出す新しい世界地図なのかもしれません。

グローバルチャートからこぼれ落ちるもの

今回の分析を通じて、あらためて感じたことがあります。それは、SpotifyやBillboardが提供する「グローバルチャート」という概念そのものが、世界の音楽の実態をどこまで映せているのか、という問いです。

Spotifyのグローバルチャート(2025年)を実際に確認してみると、Top 200に入っている楽曲のうち、英語Pop / カントリー圏の国々のチャートにも登場している曲は 72.0% 、アジア圏でも 68.5% に達しています。一方で、同じTop 200の楽曲が日本のチャートにも登場しているケースは わずか5.0%(200曲中10曲) 、ナイジェリアにいたっては 1.5%(200曲中3曲) にすぎません。

つまりグローバルチャートは、英語圏と欧州圏を中心とした「最大公約数」を映す仕組みになっていて、日本やナイジェリアのように独自性の強いチャートを持つ国のリスニング実態はほぼ反映されていないということになります。日本のMrs. GREEN APPLEやインドネシアのHindiaは自国では圧倒的な存在でありながら、グローバルチャートにはほぼ姿を見せない。各国の音楽シーンが豊かに育つほど、グローバルチャートという単一のランキングとの乖離は大きくなっていくわけです。

ブリッジソングの分析からも、似たことが見えてきます。Billie EilishやSabrina Carpenterのようにグローバルチャートの常連である楽曲よりも、BLACKPINKの「JUMP」やATLXSの「PASSO BEM SOLTO」のほうが、実際に異なる音楽圏をつなぐ力としては強く機能していました。 グローバルチャートの順位が高い曲が、必ずしも文化的な架け橋になっているわけではない のです。

グローバルチャートは便利な指標ですが、今回のネットワーク分析は、それが5つの音楽圏の複雑な実態を単一のランキングに圧縮してしまうことで、多くのものをこぼれ落としていることを示唆しています。世界の音楽の豊かさを捉えるには、グローバルチャートという一枚の鏡だけでは足りないのかもしれません。

「バラバラ」の先にある可能性

ここで一歩引いて、このローカル化とネットワーク構造が持つ意味を考えてみたいと思います。

当研究室では以前、Spotifyのリスニングデータから「文化的雑食性(オムニボア)」を可視化し、サブスク時代のリスナーが時代もジャンルも言語も軽々と越えて音楽を楽しんでいることを報告しました。

かつてCDショップで一度も同じ棚に並べられなかったであろうアーティスト同士が、リスナーの選択の積み重ねによって結びつけられている。その構造を目の当たりにしたとき、当研究室は強くワクワクしたことを覚えています。

今回の類似度ネットワークは、その雑食性を国レベルのマクロな視点から捉え直したものだと言えるかもしれません。

5つの音楽圏は確かに存在しますが、それらは壁で隔てられた閉じた空間ではありません。BLACKPINKの「JUMP」は4つの圏域をまたいでいましたし、ATLXSの「PASSO BEM SOLTO」はブラジルと東欧・アラブ圏という思いもよらない組み合わせを結んでいました。UAEはアジア圏に属しながらカナダと391曲を共有している。圏域の境界は、確かにあるけれど、常に音楽によって越えられてもいるのです。

安宅和人さんは、都市集中でも過疎でもない、自然と共存する小規模コミュニティのあり方を構想した『「風の谷」という希望――残すに値する未来をつくる』の中で、社会が細分化していく時代だからこそ、異質なものが自然に出会い共存する「混ざり」の仕組みが必要だと説いています。

今回のネットワークが描き出した風景は、音楽の世界においてその「混ざり」がすでに自発的に機能しているように見えて、興味深く感じます。各国がそれぞれのローカル音楽を深く楽しむようになった結果、5つの圏域は確かに分かれた。しかしその圏域の間を、K-popやラテンやグローバルPopの楽曲が横断し、日常的に異なる文化圏の音楽が一人ひとりのプレイリストの中で隣り合わせになっている…

前回の分析で徒然研究室は、チャートレベルでのローカル化と個人レベルでの雑食性は矛盾しないと書きました。今回のネットワーク分析は、その仮説にもうひとつの層を付け加えてくれます。ローカル化によって生まれた5つの圏域は、「分断」ではなく、「それぞれの個性を持った上で、ゆるやかにつながっている状態」として捉えることもできる。ブリッジソングという存在は、その「ゆるやかなつながり」を楽曲単位で可視化したものです。

音楽の世界地図がバラバラになりつつあることは、必ずしもネガティブな現象ではないのかもしれません。それは各国の音楽シーンが豊かに育ちつつあることの反映であり、その豊かさの中を、リスナーの好奇心と少数の特別な楽曲が自由に横断している。データが描き出すこの風景を、当研究室は静かな希望ももって眺めています。

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