【Neuropsychiatric Disease and Treatment 2025】日本人は認知症ではあまり死なないは本当か?日本の精神科病院の死因を調査したところ衝撃の結果。

「日本では認知症で亡くなる人は少ない」は本当なのか?
厚生労働省の人口動態統計を見ると、日本では認知症(アルツハイマー病を含む)が死因として占める割合は非常に低くなっています。

一方で、
イギリスでは認知症は主要な死因
フランスでも主要な死因
アメリカでも上位の死因
となっています。
世界有数の超高齢社会である日本だけ、認知症による死亡が極端に少ない。
「本当にそうなのだろうか?」
この疑問に真正面から挑んだのが、2025年に発表された佐藤らの論文です。
論文
Accuracy of Death Certificates in Attributing Mortality to Alzheimer's Disease and Other Dementias in Japanese Psychiatric Hospitals
Neuropsychiatric Disease and Treatment(2025)
この研究は何を調べたの?
研究者は、
死亡診断書に書かれた死因
だけではなく、
実際の診療録(カルテ)
まで一件一件読み直しました。
対象は
日本の精神科病院11施設
2010〜2020年
死亡653例
です。
なぜ精神科病院なの?
精神科病院には、認知症患者さんが非常に多く入院しています(それもどうかと思いますが)。
実際、日本で精神科病院に入院している認知症患者は約5.8万人。
これは
入院中認知症患者の約76%
を占めます。
つまり、「認知症の終末期」を見るには最もcommonな場所なのです(それもどうかと思いますが)。
認知症死と判断した基準
研究者は単に
「認知症があった」
というだけではありません。
以下のような終末期状態を満たした場合のみ、認知症が直接死因
と判定しています。
例えば
嚥下障害
誤嚥性肺炎
尿路感染
褥瘡感染
全身衰弱
など、認知症が進行した結果として亡くなったケースです。
結果① 死亡診断書では認知症はほとんど書かれていなかった
死亡診断書だけを見ると、アルツハイマー病が死因とされていたのは
34人(5.2%) しかいませんでした。
しかし、カルテを精査すると…なんと
134人(20.5%)
がアルツハイマー病死亡でした。
つまり 本当は
約4倍
だったのです。
結果② 認知症全体では31%
アルツハイマー病だけでなく、その他の認知症も含めると死亡診断書では
45人(6.9%)
しかしカルテを見直すと
203人(31.1%)
でした。
実に
約4.5倍
です。
なぜこんなことが起きるの?
多くの死亡診断書には
例えば
肺炎
誤嚥性肺炎
心不全
尿路感染
老衰
だけが書かれていました。
しかし実際には
認知症が進行
↓
嚥下障害
↓
誤嚥性肺炎
↓
死亡
という経過です。
つまり、肺炎は「最後の出来事」であり、根本原因は認知症だった可能性が高いのです。
WHOではどう考える?
WHOの死亡統計ルールでは、
死亡統計として採用すべきなのは
死亡へ至る一連の原因の出発点
です。
そのため、認知症による嚥下障害から誤嚥性肺炎で死亡した場合には、
認知症を原因として扱う国も多くあります。
論文でもカナダやイギリスではこのような扱いが一般的と紹介されています。
日本特有の「老衰」
日本には
老衰
という死因があります。
本研究でも
認知症患者なのに
老衰
だけが記載されている例が多数ありました。
論文では
こうしたケースの多くは
認知症を記載すべき可能性がある
と指摘しています。
もし全国で同じことが起きているなら…
研究者は慎重に
「全国へ単純に外挿はできない」
と述べています。
一方で、仮に同じ傾向が全国でも見られるなら
公式統計では約2万5千人程度とされるアルツハイマー病死亡は
約10万人規模、
認知症全体では
約22万人になる可能性もある
と推計しています。
もしそうなら、
認知症は日本でも
第3位レベルの死因
になる可能性があります。
この研究の限界
もちろん、この研究にも限界があります。
精神科病院のみを対象
北関東地域のみ
一般病院や在宅医療は含まれていない
全国代表性はない
そのため、
「日本全体で必ず4倍」
とは結論づけられません。
しかし、死亡診断書で認知症が十分記載されていない可能性を具体的なデータで示した点は、大きな意義があります。
私が特に興味深いと感じた点
この論文は「認知症による死亡が過小評価されている可能性」を示した重要な研究ですが、一方で日本の死亡診断書作成マニュアルとの関係も考える必要があります。
現在のマニュアルでは、認知症患者が加齢に伴って徐々に衰弱し、他に明確な基礎疾患がない場合に、
「認知症と書くべきか」「老衰と書くべきか」
について明確な指示はありません。

つまり、この点は医師の判断に委ねられている部分が大きいのです。
実際、私自身が複数の臨床医に尋ねたところ、「認知症があれば老衰ではなく認知症を書く」という運用をしている医師はいませんでした。
もちろんこれは個人的な聞き取りに過ぎず、全国調査ではありません。
しかし、今回の研究結果とも整合的であり、日本の死亡統計を考えるうえで非常に興味深い論点だと感じます。
まとめ
この研究から分かることは、
日本では認知症死亡が過小評価されている可能性が高い
多くは肺炎・心不全・老衰として記載されている
カルテまで確認すると認知症死亡は約4〜4.5倍に増えた
日本の死亡統計は認知症の実態を十分反映していない可能性がある
今後は一般病院や在宅医療を含めた全国規模の検証が必要
ということです。
認知症は「記憶の病気」ではなく、「全身機能が徐々に失われ、最終的には命に関わる終末期疾患」です。
死亡診断書に何を書くかは単なる書類作成ではありません。日本の死亡統計、医療政策、さらには認知症に対する社会の理解そのものに影響する重要な問題なのです。
この論文を書いた研究費は以下のようです


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