【第四話】んちゅう人、食べ比べてみました。
(前回からの続き)
んちゅうでの通信手段である『大声』の出し過ぎによるバルサルバ現象で失神してしまった主人公。いったいどうなるんだろうね?
第四話
「ベヴォペリョのこと!!!!」
“ちきゅう”から来たという彼の大声が届いたことで、タコんちゅはジャガイモがベヴォペリョのことだと理解した。
地球人の彼は「ジャガイモに記憶バターを乗せて食べよう」と言った。おそらく熱したベヴォペリョを割って、そこに記憶バターの塊を置いて、溶かしながら食べるのだろう。タコんちゅの口から、ヨダレか墨かわからない液体がタラリと垂れた。
「いいね!!!お腹空いてきた!!!いつ食べる!!??」
タコんちゅはすぐに大声した。今日はカラリと晴れた良い天気。大声が通りやすくて助かる。
返事を待つ間、タコんちゅは、なぜ人は生まれてきて、そして死んでいくのかを考えた。
祖先たちが繋いできた命に意味はあるのか。それともただの偶然の積み重ねなのか。
…あれ?生まれるのはともかく、ボクたちって死ぬんだっけ?食べられても元に戻るし、食べられることも苦ではない。むしろゾクゾクする。死なないのか、それとも死んだ後に復活するのか。どちらかわからない。

珍しく考え事をしたせいか、タコんちゅのスッペポピーが鳴った。そういえば朝から何も食べていない。確か食ザブがまだ残っていたはず。いや、どうせならベヴォペリョに記憶バターを乗せて食べたい。タコんちゅのスッペポピーが再び鳴った。
…彼からの返事が遅い。タコんちゅは腹をさすりながら思った。
もしかして寝落ち?昨日遅くまで起きていたしな…。
タコんちゅは彼と出会った頃のことを思い出していた。あの頃に比べると彼もんちゅうに馴染んだものである。地球人だという彼は、食べられたはずのんちゅう人が復活することにずいぶん驚いていた。地球人は食べられると復活しないらしい。彼はか弱い存在なのだ。最初の頃は大声で通信するだけでフラフラしていたものだ。
その時、タコんちゅの脳裏に不安がよぎった。
大声が返ってこない理由が、もし気絶だったら…
廃棄された食材だと勘違いしたナメ郎たちが彼を食べ始めたら…
地球人である彼が肉体を失うということは…
タコんちゅの不安が的中すれば、彼はもう復活しないということになる。
タコんちゅはすぐに部屋を飛び出した。
彼を──友を救出するために。

タコんちゅは走った。ナセムログンチョよりも速く。途中で朝から何も食べていないことを何度か思い出したけど、走り続けた。少しずつブュチョチョするメロピンの10倍も速く走った。
気がつくとそこは広場で、いつもキッチンカーが並んでいる場所だった。
今日も数台のキッチンカーが営業していて、そのどれもに行列ができていた。
たまらない匂いが漂っている。朝から何も食べていないという事実を、もはや無視することはできなかった。

タコんちゅは特に興味を惹かれたニョセフォス屋の行列に並んだ。
慣れていないのか、やたら手際の悪い店員に苛立ちを覚える。
こっちは急いでるんだよ…!タコんちゅは喉まで出かけたその言葉を飲み込んだ。
数分後、ようやくニョセフォスを購入できたタコんちゅは、その足でヴォジュルジョッパのキッチンカーにも並んだ。ニョセフォスを待つ間にどうしても食べたくなったのである。
ヴォジュルジョッパ屋の店員はスピーディーに作業していたし、行列も順調に減っていった。それでもタコんちゅは焦っていた。急がねばならない理由があるから──。
(早くしてくれ…!ニョセフォスが冷めちまう…!!)
ようやくヴォジュルジョッパを受け取ると、タコんちゅは駆け足で広場を後にした。
あの地球人の元へと向かう道中で、先ほど買ったニョセフォスとヴォジュルジョッパを食べ比べることにした。タコんちゅは別に友情より食い意地を優先したわけではない。何故かそうしなければならない気がしたのだ。タイトル的に。
『ニョセフォス(ウオんちゅのシュペイヌ焼き包み)』
走りながらでお行儀は良くないが、タコんちゅはさっそく食べ比べを始めた。
まずはニョセフォスから。包みを開くと中には焼き目のついたビチョメーホグリュに、ほぐしたウオんちゅの白身とチョメチョ、オニョン、ネチャスが包まれていた。赤いソースが湯気と合わせて食欲を刺激してくる。

『実食』
大きな口でひとくち齧ると、ビチョメーホグリュの香ばしさとウオんちゅの脂が一気に広がる。
シュペイヌの辛味が旨みを引き上げ、チョメチョとオニョン、ネチャスがちょうどよく調整役になっている。後味のホポチョが濃さをすっと流してくれて、次のひとくちへと誘う。食べるのが止まらない。走るのは止まりかけた。
『ウオんちゅ』
メインの具材となっているウオんちゅは、丸くてふわふわ浮く愛らしいフォルムのんちゅう人。しかし、話に尾ヒレをつけるクセがあるので信用すると痛い目を見る。特にセンシティブな悩みなどは話さないほうがいい。
食材としては、年中脂が乗っていて美味だが、噛むたびに右乳首と左乳首が入れ替わるという特徴がある。害はないが、なんかちょっとだけヘンな感じがする。
ニョセフォスを平らげたタコんちゅ。続いてヴォジュルジョッパの包みを開いた。
『ヴォジュルジョッパ(ブタんちゅゲリュピュリューのザブ挟み)』
ザブの切れ目から、太いゲリュピュリューが堂々と顔を出している。ネチャスとチョメチョが彩りを添え、ペチョッビとチャズラダの二色のソースが食欲をそそる波を描いている。ホポチョはお好みで絞るといい。
余談だが、好きな女子が食べていたら自分のナニかを重ねてしまう人がいるとかいないとか。私(筆者)にはよくわかりません。まったく。ほんとに。いやはや。

『実食』
ひとくち齧るとザブがふわりと沈み、ゲリュピュリューの皮がプツッとはじける。
ブタんちゅの肉汁が口の中へと流れ込めば、それは次のひとくちへのプレリュード。ネチャスのシャキシャキ感、チョメチョのさっぱりした酸味、過ぎ去って初めて気づく青春の日々のかけがえのなさ、金曜日だと思っていたけど実は木曜日だった時のやり場のない激情。そのすべてのピースが合わさって、ひとつのヴォジュルジョッパを形成している。ソースの甘辛とスパイシーさが、すでに完成されたはずの一本をさらに仕上げてくる。
『ブタんちゅ』
ピンク色でぽっちゃり体型のんちゅう人。学校で生徒が先生を「おかあさん」と呼んでしまうたびに誕生するという説や、パパとママがキスをしたら赤ちゃんができるという説があるが、真相は不明。
“ブタ”は悪口として使われることがある一方、一部の店(館?)ではご褒美として浴びせられることもある。悪口が反転してご褒美になる価値観は実に深い。あるいは浅い。どっちでもいいか。
ブタんちゅは食用として家畜にされることも多い。バランスの取れた豊富な食事、そしてストレスのない解放的な生活環境。それは彼らにとって憧れの暮らし。何せ食べられても復活するのだから。待遇が良いから家畜募集が告知されると応募が殺到する。ちなみに採用試験の内容は、なぞなぞの筆記試験と圧迫面接。
「ご馳走様でした」
ニョセフォスとヴォジュルジョッパを食べ終えたタコんちゅは腹が満たされて大地を蹴る脚にも力が入り走る速度が増した──と、言いたいところだが、食べ過ぎにより気持ち悪くなった。
ナメ郎たちが数匹寄ってきて、「吐く?吐くなら食べるけど…」と申し出てきた。
吐くもんか。タコんちゅは思った。あんなに美味しかったニョセフォスとヴォジュルジョッパを吐くのは勿体ない。特にヴォジュルジョッパは美味すぎだった。あんなに太いゲリュピュリューなら何本でも食べたい。いや、ヘンな意味ではなく。ほんとに。
そんなことを思いながら走り続けていると、ようやく彼の家が見えてきた。
「大丈夫!?」
タコんちゅが呼びかけながら家の中を探していくと、テラスの椅子の脚元ですでにナメ郎たちに群がられている彼らしき塊を発見した。
慌てて駆け寄ったタコんちゅは、ナメ郎たちの隙間から彼の顔を見つけてゾッとした。最悪の状況が頭をよぎる。タコんちゅはナメ郎の群れの中で1番大きな体のボスに、その肉塊は地球人であり食べてしまうと死んでしまい二度と復活しないのだと伝えた。
「そうなの?まいったなぁ…」
そう言ってナメ郎たちはモゾモゾと家具と家具の隙間の暗がりへと帰っていった。

「…よかった…生きてる…!」
体の一部を食べられただけで、彼はちゃんと生きている。タコんちゅが体を揺すり声をかけ続けると彼の意識が戻った。
「…タコんちゅ…?私はいったい…」
徐々に意識がはっきりしていく彼に、タコんちゅは事情を説明し、救出が遅れて体の一部が食べられてしまったことを謝罪した。寄り道して買い食いしたことは隠したままで。
私はまだぼんやりしていた。目の前でタコんちゅが間に合わずに体を食べられたことを謝っている。私が地球人であり、欠損した肉体はもう元に戻らないことを理解してくれている。だからこそ私の危機に全速力で駆けつけてくれたのだ。命の恩人であるタコんちゅに謝られるようなことなど何ひとつない。

それにしてもやたらと謝る。それだけ友情に厚いのだろう。
「タコんちゅ…顔を上げるんだ。君が謝ることなんて何もないじゃないか」
現にこうしてすぐに駆けつけてくれたのだから…。そう言った時に一瞬タコんちゅの目が泳いだような気がしたがきっと気のせいだろう。
「再生しないのに、食べられても許してくれるのかい…?なんて心が広いんだ…」
タコんちゅはそう言って泣き出したが、実を言うと私は別に心が広くて怒らないでいるわけではなかった。
なぜなら、ナメ郎たちに食われた私の体の一部というのが、以前から切除手術を考えていた“あの”部分の包皮だったからである。むしろ手間が省けて得をした気分だ。これで自信を持って女性を口説けるし、銭湯にも行ける。興味があったデッサンのヌードモデルのバイトもできる。

(画像は、かつて被っていた頃の私)
その日は、嬉しさのあまり夜遅くまで飲んで食べて語り合った。
私は、前から気になっていたキッチンカーのニョセフォスとヴォジュルジョッパをデリバリーしてタコんちゅにも振る舞った。私の包皮がナメ郎に食われたことをまだ気にしているのか、タコんちゅはあまり食が進まないようだった。気にしなくていいのに…優しいやつなんだなと、改めて思った。
こうして、九死に一生を得たうえに、棚ぼた的に包茎手術を済ませられた不思議な1日が幕を閉じた。
翌朝。目が覚めた私は驚愕した。
昨日、晴れてズル剥けになったはずの包皮が元に戻っていたからだ。
私の体は、んちゅうに馴染みつつあるようだった。
それが嬉しさなのか戸惑いなのか──その時の私にはわからなかった。
私の胸にあったのは、もっと早く手術していればよかったという後悔と、もう手術しても意味がないのだという絶望だった。

失ったのは包皮ではなく、希望なのだ。
─── 続く?
私が切っては生やし切っては生やしで集めた自分の包皮を、甘辛い味噌を絡めて焼いた「ホルモン焼き風包皮」として、みんなに振る舞うのはまた別の話。

#このお話はフィクションです
#作者は包茎ではございません
#本当なんです
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