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さいごだとわかっていたなら。

もし、さいごの会話だって
分かっていたなら。


もし、さいごに顔を見る日だって
分かっていたなら。


もっと、ながく
抱きしめられていたかも。


もっと、やさしく
声をかけられていたかも。



3月11日の昨日、思い出していました。

ノーマ・コーネット・マレックさんの
If I Knew It Would Be the Last Timeという詩。

最後だとわかっていたなら



当たり前にある日常と
限られた時間の尊さを教えてくれる詩です。


あの日もきっと、

多くの方にとっては
いつもと同じように始まった朝、

…だったのだと思います。


「いってきます」と家を出て
「またあとでね」と手を振る。


いつもの会話。
いつもの時間。


でも、それが最後になるなんて…
思ってもいなかった。



最後だとわかっていたなら。


まだ若かったころ、

生きること
とても苦しくなるような出来事が

二度ほどありました。


会いたい人に会えない日々。

なのに、急に手を離され
別の場所へ。


終わることを
どうしても受け止められなくて、

置かれている
今、という時間に
深い暗闇を感じていたんです。


あの頃は、

目の前の出来事が
今あるすべてのように思えていて、

この先
どんな未来があるのかも分からなくて、

誰にも相談できず
洗濯機に携帯を放り投げて、

ただ 終わりにしてしまいたいと思っていました。


でも、

一度目の
生きることを諦めたあとに
知ったこと。



それは、

いなくなって
終わりにしてしまったら

大切な人たちを
深く悲しませてしまう
ということでした。


そのことが

二度目の時、暗闇の中にいたわたしを
踏み止まらせてくれました。




一度目の出来事から数年後。


一緒に暮らすようになった人は、

お互いの家族にも紹介して
将来の話もして

普通に…
結婚するものだと思っていました。



でも、その方は

様々な不安障害、PTSDなどを抱えていて
すべてを分かってあげられない。

理解しきれないものを
たくさん抱えているような人でした。


元気な日には、
とても優しく笑いかけてくれて

一緒にご飯を作ったり、
テレビを見ながら
同じ場面で笑い合ったり。

相談しながら
家具や家電を選んで

ささやかな時間を過ごしました。


けれど、

日によっては
別人のようになることもあって、

急にすべてを
受け入れられなくなったように

何も話さなくなったり、
何も食べたがらなくなったり。


帰ってくると
真っ青な顔をして、

寝室に閉じこもる。
ソファーに横になる。


強い言葉を
浴びせられる日もあれば

何の連絡もなく、
当たり前のように帰ってこない日も。


クローゼットの奥から
こっそりと取り出していたものは、

あとから服薬していたものだと知りました。


どう声をかけたらいいのか
分からなくて

少し距離を取りながら
ただ側に座っていることしかできない。

近くにいたいけれど、

支えたいのに、
どう支えたらいいのか分からない


分かり合えないことが
ただただ苦しかった日々でした。


どれくらい後だったかは
思い出せないけれど、

しばらくして

過去にあった出来事や、
今抱えている病のことを
少しだけ打ち明けてくれました。

けれど、その後の毎日変わらず同じでした。


夜になると
ベランダに出て

何も言わず
手すりにもたれて

空を見上げ
下を向いていて。


声をかけても返ってこないことも
あったけれど、

隣に立つと少しだけ
笑みを浮かべた顔をしてくれる日もありました。


二人で
同じ空を見上げている。

ただそれだけの夜。


別の日。

まだ彼も出ていないベランダに
一人で立ち

マンションの上の階。

夜風で
冷めていくなか

空を見上げ
小さな星を数え

手すりから下の地面を眺めていました。


遠くに見える
アスファルトに、もし… がよぎる。


怖いわけでもなくて
望んでいたわけでもないのに、

ただ終わりが
すぐ側まで来ているように
感じていました。


でも、同時に浮かんだのは
あのとき病院に駆けつけた家族友人の顔

一度目のあと
深く傷つけてしまった人たち


そのこと考えると、

力を入れた腕や指先を
手すりから離して

部屋の中へと戻れました。



これから先を
一緒に過ごすことは できない…。


その夜から
声を出さないように

肩を震わせながら
何度も責めたことを覚えています。


嫌いになったわけでもない。

けれど、

会いたいと思っても
もう会えない。



好きとか
愛しているとか。

それだけでは
言い表せない

深い出来事だったからこそ
心に残っています。



昨日の3月11日は、

そんなあの日を
思い出す一日でもありました。




時間はいつまで続くかは分からない。

だから、

今日という日を
少しでも大切に生きてみる。


大きなことばかりを並べなくても、

やわらかな言葉や気持ちも
誰かの手助けになれるかもしれない。


最後だとわかっていたなら…

そんな後悔を
少しでも減らせるように。



今のわたしには、
一緒に暮らしている娘たちがいます。


笑いながら
学校や保育園の話をしたり、

些細なことで
ケンカをしたりする毎日で、

正直…静かに過ごしたい。

そう思う日もあるけれど、

にぎやかな声を聞きながら
何気ない毎日を共に過ごしています。



あの夜…。

ベランダから
空を見上げ

下のアスファルトを
ぼんやりと眺めていたあの日。



もしも、

あの場所から
いなくなっていたら

この声を聞くことは
できなかったのかもしれない。


そう思うと、

何気ない毎日
とても尊く感じられます。


ここで出会った人も。
離ればなれになってしまった人も。

今はそばにいる人も。

それぞれの過去を過ごして
こうして繋がり合えている。


あの夜、

手すりから離した指先

今のわたしを
ここまで連れてきてくれました。


今の時間は、
ベランダには出られないけれど

隙間から見える

夜空を想像しながら
書くことができています。



最後だとわかってしまっても


本当にありがとう…。



今を生きて

今を読み
今を書いている


そのすべてに

静かな祈りと、灯火を。








このたび「灯火杯 6th 2026Spring」に
参加させていただきました。


灯火さん、
そしてアルロンさん。

企画ありがとうございます。





ここまで読んでくださって
ありがとうございます。



書くという毎日が
やさしく
やわらかくありますように。



(2423字)

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