見出し画像

月までドライブ

 今年の盆休みは、12日の火曜日を除き9日(土)から17日まで8日となったが、例年通り遠出する計画もなく、予定と言えば11日に菩提寺で行われる盆供養に出かけることと、多分子供たち夫婦とそれぞれ一度会う程度だ。

 このところ読書三昧の日々を続けている妻が、難しい本の合間に何故か伊予原新の作品を立て続けに読み始め、その最初の一冊が「月まで三キロ」を含む短編集だった。

 この本は、2018年に単行本で出版され、その後文庫本でも販売されており、「寝ながら読むには単行本は重た過ぎ」という妻の考えで、文庫本になったのを見計らって購入したのだが、それは我が家のリビングルームの本棚に収まり切れずに小さなテーブルに積まれた本の山に、「八月の銀の雪」「おおるり流星群」「ルカの方舟」などの伊予原作品と共に怒涛のように積み重ねられていた。

 私の方も、盆休み前から読んでいた外尾悦著「ガウディの伝言」を読み終え、ちょっと軽い本を読みたい気分になったので、山に積まれた文庫本から「月まで三キロ」を取り出して読みだした。

 この「月まで三キロ」の話は、以前SNS上で知ったのだが、浜松市天竜区の船明(ふなぎら)ダム沿いの国道152号線から分岐した県道360号線の路肩に「月 3km」と書かれた表示板でちょっと有名になった場所(もしかしたら、この小説で有名になった?)を題材とした短編小説だが、読み始めたらなかなか面白く、以後休み中に伊予原作品を3冊読破して今4冊目の「ルカの方舟」に及んでいる。

 盆休み後半に入り、さすがに少しは外の空気も吸いたくなったのだが、連日の炎暑にめげてなかなか食指も伸びなかったところに、「そうだ『月』に行ってみようか」ということで妻と意気投合して、14日に車で行くことになった。

 「一つ目的が出来たら、後は野となれ山となれ」という私たち二人の毎年同じような行動パターンではあるが、当日は朝の仕事を手早く済ませて10時前に出発して、ナビにも「月」を設定したら、新東名高速道路で70キロ、約1時間で到着と表示された。

 取り敢えず「月まで70キロ」という目標が出来て、新東名高速道路を西に走らせれば、45分ほどで浜北ICに到着し、以前「秋野不矩美術館」に一度と「本田宗一郎ものづくり伝承館」と「二俣城址」にも再度二俣のまちを訪れていたので、見覚えのある街並みを抜けて国道152号線を北上した。

 しばらくすると、360号線との分岐点に差し掛かったが、152号線側はトンネルとなり、その入り口がバウムクーヘンの切り口のような面白いデザインがちょっと微笑ましい。

 360号線に入ると、そこからは天竜川がダムでせき止められ、満々と水が蓄えられているのが見えてきた。勿論そのダム湖は、遥か上流まで続くのだが、一ヶ所大きく屈曲する他は5㎞ほど直線状の長細いダム湖になっていた。

 分岐から30mほど先にその標識が湖岸とは反対側の路肩にポツンと立っていた。確かに「↑360 月 Tsuki  3km」と書かれているが、これはあくまで一般的な道路標識なので他に何の演出もない。

 そこに大型バイクに跨った黒づくめのバイクウェアを身にまとったオニイサンが表れた。やはりこの標識を見に来たようで、スマホで写真を撮っていた。

 オニイサンの邪魔になるといけないと思い、車を動かしてその場を立ち去ったのだが、「今日の目的を果たしちゃったし、さてどうしようか」と逡巡し、一旦二俣のまちに戻りかけたところを思い直して、「折角だから『月』まで行ってみよう」という話になり、Uターンして細く続く道を走り出した。

 100mほど進み「伊佐橋」で天竜川(船明ダム湖)を対岸に渡り、その先を右折して大きな鼻を左に回り込むと、そこからは鬱蒼とした道となるが、そこをしばらく進むと右に湖面が見える拓けた道になり、目の前に「天竜ボート場 艇庫」という看板が目に飛び込んできた。

 この「天竜ボート場」は、2000メートルのコースを持つ全国有数のボート場で、この周辺はボートやカヌーなどを楽しむことができる水上スポーツのフィールドとのことだ。

 この艇庫の先に小さな橋があるが、この橋の手前に、「県道360静岡」の青い標識の下に、「渡ケ島横山線/浜松市 月」の小さな標識が添えられている。ここから月の集落に入るのだなと思いつつも、「果たして、この細長い湖畔の道路沿いに集落なんてあるのだろうか」という思いも同時に沸き上がった。

 その懸念は半分当たりつつ、また懸念を打ち消すように、3戸ほどの住居や製茶工場が見えてきた。それにしても、なぜこんな不便な場所にという思いは打ち消すことはできないまま、3㎞ほど走って上流部の横山という集落に出た。

 今では、東北地方などで冬の祭りに若い人が足りないので、盆の時期に若者が帰郷する時期に変更した話をテレビで見たばかりだったが、二俣周辺でも軒並み八幡様の祭りが催され、山車の姿も何か所かで目にした。

 この横山の集落でも、若者が集まってお祭りの準備をしているところが目に入って来た。寂しい湖岸を走った後で、このような若い人たちの姿をみるとホッとする。

 ここまで来たところで、「まだ11時だ、さてどうするか?」ということになり、このまま南下して、取り敢えず浜松市の中心部に移動することに決めた。

 152号線を船明ダムまで下り、そこからダムのうえを対岸にわたって360号線を下り、塩見橋で二俣のまちに渡り戻して、以後二俣のまちを通り抜けて遠鉄線沿いに152号線を辿った。

 以前訪れたことがあった、四ツ池公園近くの「洋食 宏浜本店」を目指したのだったが、ちょうど昼時ということもあって、既に駐車場も満杯という有様だった。

 しかたなくGoogleで検索し、同じような洋食店が森田町にあることが判ったが、森田町がどこかも判らずナビにセットしたら、なんとそこは宏浜から6kmも先ということが判った。

 「月より遠いじゃん」と軽口を飛ばしつつ、他に選択肢もないので、この辺の昔から知っているルートを辿り、森田町の「お食事処十平次」に辿り着いたが、どうも様子が変だ。目を凝らすと、入り口に「本日臨時休業」という張り紙が…万事休す!

 またまたGoogleに頼ることになったが、同じような洋食屋風を探ると、今度は浜松駅南側で馬込川東側の、揚子江みたいな名前の「揚子町」に「お食事処さや」という店名が表示された。

 迷うことなく「さや」をナビにセットして走り出したが、駅の南を西から東にほぼ一直線で3㎞弱のところなので、時間を要すことなくさやに到着した。

 そこは住宅街の真ん中で、ちょっと場違いの感もあったが、広い駐車場に車を止めて店内に入ると、そこは女性ばかり7人ほどがいる活気のある店だった。

 ひとつだけ気になったことは、そんなに大勢スタッフがいるのになぜか「できたら、QRコードのセルフオーダーシステムを使ってネ」とのことだったが、注文した「コロ唐定食(1,500円)」は、なかなか美味しく、この店を選んで正解だった。

 「さや」を出て、「さてこのあとどうするか」とちょっと考えて、ここから150号線が近いので、今回天竜川は掛塚橋を渡って、150号線沿いに西遠から掛川あたりを走ることにして、そのまま車を東に向けた。

 そこからは、これまで掛川の友人が毎年開催している「ゆるゆる遠州ガイドライド」などの自転車イベントで何度となく走り回っているので、知っている道も多いエリアを適当に走って法多山からエコパに抜けて、掛川城周辺を走ったあたりでちょうど「お茶」の時間になった。

 どこか良い店はないかと頭を巡らしたものの、ここはという場所は思い浮かばず、またまたネット検索したら「つま恋」近くにカフェがあるということで直行したところ、ここもなんと駐車場が満車でアウト!

 ここまで来るともう何もないと諦めかけたが、そこで以前自転車で仲間たちと訪れたことにある、牧之原台地の上の諏訪原城址近くのカフェ「こもれび」のことをふと思い出し、そこに行ってみようということになり更に13km程車を走らせた。

 これもまた結果として正解で、客も少ない店内で香り立つアールグレイでドライブの疲れを癒し、そのあとは下道を走って5時前に帰宅した。
 こうして、今年の夏の行き当たりばったりのドライブも無事終わった。

 今日は、結局240kmほどの「月までの日帰りショートトリップ」となった。

いいなと思ったら応援しよう!