印刷用書体の開発とデジタルフォントの未来 #33|電子媒体の世界標準
前回に引き続き、電子デバイスでの表現におけるグローバルな標準について考えてみます。
ここでいう「グローバルな標準」というのは、インターネット上に展開される「ウェブコンテンツにおける標準化」ということです。
ここでは略して「Web標準」と呼ぶことにいたします。
ここでWeb標準に関する基本的な用語を紹介しておきます。
◉WWW
World Wide Web(ワールド・ワイド・ウェブ)の略称です。ウェブとは網のことで、世界中を蜘蛛の巣のような網でつなぐという概念です。インターネットシステムを示す言葉でもあり、ウェブサイトのドメインにも記されています。
◉HTML/CSS
ウェブはウェブの世界の共通言語によって成立しています。この根幹的な言語が HTML(Hyper Text Markup Language)と CSS(Cascading Style Seat)です。
簡単に言えば、HTMLは主にウェブサイトの文書構造やレイアウトのためのプログラム言語。CSSは、ウェブサイトの装飾や見た目の体裁に関わるプログラム言語になります。
◉W3C
HTMLやCSSの記述言語は、あらゆるデバイス間で共通して利用できることが望まれるため、記述言語の世界標準化が必要です。
この標準化を取り決めているのがWorld Wide Web Consortium(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)、通称W3C(ダブリュースリーシー)という組織です。
日本語組版の標準化
実は日本語組版ルールに関して、W3Cにおける標準化がかなり進んでいます。
まず必要なこととして、日本語組版の英訳化があります。
プログラミングやタグの開発を進めるために、組版の仕組みや用語類の英訳は必須の工程です。これが2008年に行われました。
それに伴い、日本語組版に適用できるCSSのプロパティが順次勧告されています。
あわせて日本語フォントによるウェブフォントの普及も始まり、電子デバイスにおける日本語組版の環境は整いつつあると言ってよいでしょう。
図1はW3Cのウェブサイトで公開されている「日本語組版処理の要件」(2020年8月11日版)に記載された一例です。日本語組版の様々な要素が英訳されており、プログラム化の可能性が示されたということになります。

図2は、現時点で日本語組版用に使用できるCSSプロパティの一例です。
プロパティとは指示命令文のことです。ここでは簡単な紹介にとどめますが、上から「縦組み」「ぶら下がり」「改行位置」のCSSプロパティになります。「ルビ」はHTMLタグによるものです。
そのほかに「縦中横」(たてちゅうよこ)など、おなじみの組版指定をCSSで実現できるようになっています。

ウェブサイトのレイアウトデザインと文字組版
電子デバイスでの日本語組版の可能性について分かってきたところで、改めてウェブにおけるレイアウトデザインと文字組版を考えてみたいと思います。
前回述べた通り、紙媒体との決定的な違いは、規定化された判型がないということです。しかも、どのような画面サイズ、解像度、縦横比を持つデバイスであっても、快適にウェブサイトを閲覧できることが求められます。
このため電子媒体には、「フレキシビリティ」や「レスポンシブ」といった、可変的なレイアウト表示を求められるようになりました。
また、文字組版についても可変的なレイアウトにあわせて、「リフロー」と呼ばれるテキストの再流し込みにも対応する必要が出てきました。
図3はレスポンシブなレイアウトとリフローの事例です。
見ての通り、PCとスマホではレイアウトが変化しています。リフローについても、それぞれの画面サイズにあわせて行長が変化し、行末位置も自動的に変化していることが分かります。

左:PCの表示例、右:スマホの表示例。いずれもGoogleChromeを使用
ここで注目したいのは、レスポンシブやリフローであっても、それぞれの電子デバイズごとに、判型と版面などの関係を作ることは可能だということです。
また、行長に合わせた行間調整といった、基本的な文字組版も可能です。
文字組版がよくできているサイトは、どんなデバイスサイズであっても行長・行間が画面にあわせて変化し、実に読みやすいものです。
つまり、ここでも「肝心なことは文字組版」であると言えるでしょう。
【参考資料】
「文字と行間の大きさは何が良い? 読みやすさとKPI両立への挑戦」(Yahoo! JAPAN Tech Blog /2023年5月24日)
https://techblog.yahoo.co.jp/entry/2023052430423559/
スマートフォンで表示する文章組について、LINEヤフー株式会社が行った調査研究によると、文章組の読みやすさはユーザーのサイト滞在時間を伸ばすだけでなく、広告や商品リンクのクリック率向上など、さまざまな指数で有意な向上効果が見られたという。
ここまでの話をいったん整理してみます。
まずスマホの時代では、電子デバイスにおいて判型の定めがないため、デバイスサイズにあわせた可変的なレイアウトデザインであることが求められます。
これがフレキシビリティやレスポンシブ、テキストのリフローといったものです。
コンテンツはあらゆるデバイス、標準アプリ、開発ツールで制作でき、かつグローバルに配信できるようWeb標準に準拠して制作する必要があります。
そのような中で、日本語組版のWeb標準化が進められています。
今後、紙媒体の誌面デザインに近い品質のコンテンツが作られる可能性があるでしょう。
現在でも、それぞれの電子デバイスにおいて判型と版面、行長に対する適正な行間を整えることは可能です。
制限された状況においても、可能な範囲で適正な文字組版を行い、快適なコンテンツ作りを目指すべきでしょう。
【次回予告】
次回は、電子デバイスでの組版の可能性について、日本語組版標準化の取り組みを通して考えてみます。
