甲本ヒロト&真島昌利の"スポーツの躍動感が満載な曲"特集
『週刊ベースボール2月2日号』のマーシー(真島昌利)記事はもう読みましたか?
「野球文化の創り手たち」と題した不定期連載のページで、ザ・ブルーハーツの5thアルバム『HIGH KICKS』に収録されている『ホームラン』の制作意図をマーシー本人に尋ねたこの記事。
レコードとして、CDとして世に出た以上、誰かがどこかで再生し、そのたびに別の風景を立ち上げてきたはずだ。
なんてあるように、私自身も去年この映画を見たことがきっかけで一時期『ホームラン』をよく聴いていたので、めちゃくちゃタイムリーかつドンズバな記事でした。

『さよならはスローボールで』は草野球モノのアメリカ映画で、ただ草野球に没頭するだけの幸福な時間を描いた作品。
見ている時は「わりと退屈かも…」って思っちゃったりもするが、見終わった後にジワジワと余韻が増幅してくるタイプのスルメ映画である。
そんな旨み成分たっぷりな映画の余韻にマッチする曲は…?と思った時に、ブルーハーツの『ホームラン』が自然と浮かんできて、久々に聴いてみたらコレがまぁ見事に合う!
勝手に日本語吹き替え版作るならエンディングテーマはコレしかないわ!って妄想しながら何度もリピートしておりました。
21世紀の金田やONがいるぞ
ここは今なら「由伸や大谷がいるぞ」になるよな…とか、ひとつひとつが味わい深く思える曲だよね(ちなみに筆者は"由伸"といえば山本ではなく高橋世代)。
アメリカのおっさんたちか、日本の子どもたちかという点は異なるが、どちらも"草野球に没頭する幸福な時間を描いた作品"という意味では共鳴する映画と曲だなと感じているので、野球とロックンロールが好きな方はぜひセットで味わっていただきたい。
で、もうすぐWBCも始まるし、折角なので今回はこのままヒロトとマーシーが手がけてきたスポーツに関する曲について、続けて書いていくことにする。
ヒロトやマーシーにはあまりスポーティなイメージはないかもしれないが、彼らがこれまでに手がけてきた曲には『ホームラン』のようにスポーツをモチーフにしたものや、スポーツの躍動感が詰め込まれているものがたまにある。
そんな曲をブルーハーツから(『ホームラン含めて』)2曲、ハイロウズから2曲、クロマニヨンズから3曲ピックアップしたい。
※カッコ内は作詞作曲
闘う男(真島昌利)
『ホームラン』と同じく『HIGH KICKS』に収録されている『闘う男』。
冒頭から全編にわたって繰り返し印象的に鳴らされるリフと共に、ヒロトが叫ぶ
「ダーッ」。
ここがちょっとアントニオ猪木を連想させるからプロレスのことを歌っているようにも思える。
でも「最終のゴング」とあるので、12ラウンドまで闘うボクシングなどの格闘技全般のことを歌っているのかもしれない。
この曲、三沢光晴がリング上で非業の死を遂げた時に、もうめちゃくちゃ聴いていたな…(と考えていたら、昔のブログにその時のこと書いていた…)。
プロレスといえばヒロトのほうが印象が強いけど、この曲はマーシーの作詞作曲。
マーシーは他の曲でもこんなことを歌っていたりと、実は格闘技も相応に好きなんだろうね。
ジャイアント馬場みたいにやってやる
マイク・タイソンみたいにやってやる
燃えあがる情熱のままに、倒されても倒されても何度でも立ち上がり、立ち向かう男たち。
プロレスラーや格闘家のような闘いを生業とする超人たちへの尊敬の念が湧き上がってきて、五臓六腑から滾り、己が奮い立たせられてしまう魂の一曲である。
尚、この曲といえば、YouTubeで「ブルーハーツ 闘う男」とかで検索すると出てくる野外フェスのライブ映像をぜひご覧頂きたい。
この映像は92年秋ごろ、深夜にTV放送された、POP HILL'92というイベントのものである(ちなみに他出演アーティストはLUNA SEAやLINDBERGなど)。
当時、動くブルーハーツを観れるなんてライブビデオとかの映像作品を観る以外は稀なことだったので、ここぞとばかりにVHSテープに録画し、それをマジで擦り切れるぐらい何度も見た。
ブルーハーツが演奏する5曲が『情熱の薔薇』『リンダリンダ』『TRAIN-TRAIN』『僕の右手』、そしてラストに『闘う男』という、代表曲3曲と激シブな2曲という組み合わせからしてもう最高なんである。
そんな『闘う男』。
音源よりもちょっとだけBPM速め。
途中、スポットライトの逆光に照らされながらギターソロを弾きじゃくるマーシーをバックショットで捉える画がもう悶絶モンのカッコ良さ。
河ちゃんとヒロトによって畳み掛けられる
「ファイ!」
の掛け声と共に4人のグルーヴが頂点に達するアウトロは、ノーガードで打ち合う高山善廣とドン・フライの闘いを見ている時さながらの興奮を覚えてしまうのだ。
フルコート(甲本ヒロト)
ハイロウズ6枚目のアルバム『HOTEL TIKI-POTO』に収録されている『フルコート』。
もともとは『十四才』との両A面シングルとしてリリースされた曲ね。
冒頭のメロディと、そこに「ドンッドンッ」と響くリズム。
ココ、よくNBAの試合でホームチームのディフェンス時に地元ファンが一斉に
「ディ!フェンス! (ドンッドンッ)
ディ!フェンス!(ドンッドンッ)」
とコールして盛り上がる時にかかる場内BGMの雰囲気を思わせる。
サビで何度も歌われる「フルコートのD」とは、バスケのフルコートプレスディフェンス(オールコートプレスとも言う)のことである。
漫画『SLAM DUNK』を読んだり映画を見たことがある人ならピンとくるであろう、山王工業が後半開始ど頭から湘南に仕掛けるあのフルコートプレスである。
劣勢に立たされている側のチームが試合の終盤に形勢逆転を狙って繰り出す一手なのだ。
このフルコートプレスは、プレーしている側からすると、とにかくもうマジで疲れる。
でも待っていても奇跡は起こらない。
だから劣勢ならイチかバチか、流れを変えるためにやるしかないんである。
ヒロトはNBA好きだった梶くんの影響もあって、ブルーハーツ時代からずっとNBA好きを公言しているが、NBAの魅力についていつも「選手の顔が好き」と答えている。
その人の顔の気迫。ダメなときのしょんぼりした顔、がっかりした顔、つまんなそうにやってる顔、焦ってる顔、調子に乗って鼻の穴広がって、ウワー調子に乗ってるなって顔。NBAの選手の顔っておもしろいよ。すごくわかりやすい。きっと単純な人が多いんだと思う(笑)。すごい興奮できるよ。伝わってくる。
この曲は開始早々からいきなり「フルコートのD」なんで、きっとやる方はメチャクチャしんどい顔しているだろうな…と想像しているうちにどんどん楽しくなってくる曲である。
ここで超余談。
NYニックスで長きに渡りフラチャイズプレイヤーとして名を馳せたパトリック・ユーイング("NYの摩天楼"と呼ばれていた名センター)の話題を。
ユーイングが全盛期バリバリの頃、オフシーズンにイベントで来日した記事が載っている雑誌を読んでいた。
そこには日本で観光しているユーイングの姿を捉えた写真が載っていた。
それをよく見ると、なんとユーイングの手元にはザ・ブルーハーツの『STICK OUT』のCDが握られていたのだ…!
当時これを発見して1人でやたらと興奮していたことを久々に思い出した。
ちなみに梶くんもヒロトもニックスのファンだったよね。
今後このプチ情報を書くような機会は特に訪れない気がするので、無理やりここにねじ込んでおく。
青春(真島昌利)
ハイロウズ5枚目のアルバム『Relaxin' WITH THE HIGH-LOWS』のトップバッターを飾るシングル曲の『青春』。
青春期だけにしか感じとることのできない、あのビビッドな世界の輝きと、痛みと、甘酸っぱさと、高揚感のすべてを、ロックンロールという形で永遠にとどめてしまった奇跡的な一曲。
もはやわれわれ人類にとっての普遍的な名曲といっちゃっていいやつ。
そんな中に、とりわけスポーツの躍動感が溢れちゃっているフレーズがコレね。
リバウンドを取りに行くあの娘が
高く飛んでる時に
この「リバウンドを取りに行く」とは、バスケでシュートが外れた時に、リングやボードから跳ね返ったルーズボールを掴み取ろうとするアクションのことである。
電光石火のクロスオーバードリブルで切れ込みフローターショットを決める、とか、ステップバックからクイックで放つ3ポイントシュート、といったような花形のムーブではない。
戦場といわれるゴール下で身体を張り、誰よりも高く素早くボールに飛びつき絶対に離さない。
とっても泥臭い"ダーティワーク"である。
しかしSLAM DUNKでゴリが花道に
「リバウンドを制する者は 試合を制する」
と、その重要性を解いていることからも分かる通り、バスケというチームスポーツにおいて極めて貢献性の高い重要なアクションなのだ。
あの娘が泥臭くも無我夢中でがむしゃらになって高く飛んでいる刹那の躍動感と、最高潮の時である青春の青臭い高揚感を結びつけちゃう。
マーシーのソングライティングの才気が高純度で迸りまくっているじゃないか。
足のはやい無口な女子(真島昌利)
クロマニヨンズ11枚目のアルバム『LUCKY & HEAVEN』に収録されている『足のはやい無口な女子』。
物憂げなサウンドとコーラスに乗せて、散文的な歌詞を噛み締めるようにして歌うヒロト。
そこで歌われるのは中1か中2(かどうか知らんけど)の少年が想いを馳せる、今はもういない、徒競走でいつも1番だった足のはやい無口な女子のこと。
「徒競走」や「鉄棒」といった運動に関するワードは出てくるものの、曲全体に漂うどよーんとしたやるせない雰囲気によって躍動感なんてものは感じられない。
でもそこがミソなのだ。
あえて『青春』の次に並べてみたんだけど、この曲はまさしく『青春』と対になる曲だと思っていて。
『青春』に詰まっている躍動感や疾走感とは真逆の、むしろ徒競走をいつも一番で駆け抜けるあの娘と最高潮の時から、無情にも置き去りにされてしまった少年の哀歌である。
突然の喪失に困惑し、立ちすくんだまま「今もはやいか」「今も無口か」と、何の応答もない虚空の残像に向かってただ問いかける。
あの無口な女子がかってそうしていたように、少年もまた鉄棒でさがあがってみれば、さかさになる全世界。
ここで歌われるのは"裏の青春"であり、"青春のB面"なのだ(いや、むしろ両A面と思いたい…!)。
ぜひ『青春』とのコンボで味わっていただきたい。
フルスイング(真島昌利)
クロマニヨンズ20枚目の最新アルバム『JAMBO JAPAN』に収録されている『フルスイング』。
野球で打順が回ってくればバッターボックスに立つ。
でもそこで、バットを振らなきゃ当たらんし始まらんぞ、という真理を歌っている。
が、実はこの曲、
バットを思い切り振る→フルスイングで振る→フリフリフレフレ→フレー!フレー!という具合に、三三七拍子とマーチのリズムにのせてスゥイングする応援団ソングでもある。
もっといえばアルプススタンドで球児たちを応援する応援団の子たち、ブラスバンドの子たち、そしてアルプススタンドのはしの方でただ固唾を飲んで試合の行方を見守っているだけの子たちまで含めて、球場に集うみんなを応援している曲なのだと勝手に解釈している。
もちろん連想してしまうのはこの映画である。

『アルプススタンドのはしの方』は2020年公開の城定秀夫監督作品。
コロナ禍で色んな楽しみを諦めざるを得なかった学生の子たちを、前へと送ってくれる送りバント的な愛すべき応援映画である。
そして劇中、ブラスバンドがブルーハーツの『TRAIN-TRAIN』を演奏してくれたりもする。
ぜひとも『フルスイング』とセットで味わっていただきたい映画なのだ。
ナンバーワン野郎!(真島昌利)
最後はコレ。
クロマニヨンズ6枚目のアルバム『ACE ROCKER』に収録されているシングル曲の『ナンバーワン野郎!』。
この曲は別に具体的なスポーツを連想させるようなことは何も歌っていない。
にもかかわらずこの曲をチョイスしたのは、PVでクロマニヨンズの4人が演奏している場所が、鹿島アントラーズのホームスタジアムであるカシマサッカースタジアム(2026年現在のネーミングは"メルカリ スタジアム")のピッチの上だから。
クロマニヨンズとサッカースタジアムという取り合わせが、初めて見たときにかなり意外だったので、とても印象的なPVである。
あと『ナンバーワン野郎!』といえば、アントラーズではなく川崎フロンターレのチームチャントとしてもガッツリ定着している。
というか、そこから波及する形でJR南武線武蔵小杉駅の発車メロディーに使用されるまでになっており、もはや川崎市のテーマソングに位置付けられてしまっている。
武蔵小杉駅は東横線との乗り換えでたまに利用するが、発車メロディーのことなんて毎回忘れているので、『ナンバーワン野郎!』のメロディが聴こえてくるたびにテンション激アガりさせられるのである。
川崎市、すげぇ羨ましいぜ。
余談だけど、私が応援している東京ヴェルディのチームチャントにはハイロウズの『日曜日よりの使者』が使われていたりする。
他にもJリーグ内での選手個人のチャントでヒロトとマーシーの曲が使用されている例は無数にある。
彼らの生み出すシンガロングし易いポップなメロディと、スポーツが生み出す熱狂や興奮との親和性の高さがこのことからもよくわかる。
で、この『ナンバーワン野郎!』という曲では
「立ち上がる」
と、繰り返し何度も歌われる。
寒い日も雨の日も、いつまでもどこまでも、何度でも立ち上がる。
あれ?この感じ、似たようなのあったじゃん。
そうです。
さっき上で取り上げたブルーハーツの『闘う男』。
この2曲って本質的には同じようなことを歌っていると思う。
でも、誰が主体か?という視点では全く違ってもいる。
ブルーハーツの『闘う男』では、プロレスラーや格闘家という他者に感情移入して己を鼓舞する。
しかしクロマニヨンズの『ナンバーワン野郎!』では、どこまでも「立ち上がる」主体は自分自身なのだ。
それに『ナンバーワン野郎!』は悲壮感や孤独の哀愁を漂わせるのではなく、「イェー!」のコール&レスポンス然り、楽観的で自分以外に対してもあけっぴろげ。
はじめから全開で、ひらきっぱなしなんである。
いつまでも立ち上がりつづけるって時にはシンドいことかもしれないけど、そんな時にこうしてみんなで「イェー!」って言ってりゃそれすら楽しくなるじゃんって。
クロマニヨンズはそういうバンド。
ほんと人にやさしい。
以上、ヒロト&マーシーの手がけたスポーツの躍動感が満載な7曲でした。
でも「ヒロト&マーシー」なんて言ったくせに、チョイスした曲を改めて見てみると、ヒロト曲が1曲だけで、あとの6曲はマーシー曲…。
だいぶ偏りがあった…!
それならば最後のお立ち台には真島選手に登場いただき、ひと言頂戴して終わりたい。
野球とロックの共通点を問うと、真島は少し考えてから、迷いなく言葉を選んだ。
「熱狂と、興奮と、感動。それらは共通していると思います。多くの人を一気に夢中にさせる力がありますよね」
