「個別の技能」から「中核的な概念の深い理解」へ導く授業デザイン
2030年度の学習指導要領では「階層化≒知識の構造化」がキーワードになっています。以下の図について、一度は目にしたことがある人もいるのではないでしょうか?
なかなかこの掴みづらい図について、私なりに学習指導要領や本を参考にしながら、現場での実践と紐づけて言語化していきます。

次期学習指導要領の「知識の階層化」を紐解くシリーズ<全4回>
・「個別の知識・技能」と「個別の思考力・表現力・判断力」の関係(リンク)
・「個別の知識」と「中核的な概念の深い理解」の関係(リンク)
・「個別の技能」と「中核的な概念の深い理解」の関係<今回>
・「個別の思考力・判断力・表現力」と「複雑な問題の解決」の関係
今回のnoteでは、「個別の技能」と「中核的な概念の深い理解」の関係について考えていきます。
「できる」から「わかる」そして「使える」へ
まずは、「なぜ、技能だけでなく、技能の先まで考えるようになったのか?」の背景についてまとめてみます。
これは教科書に書かれている算数の平均の問題を解くことが「できる」では終わるのではなく、その先が大事であるということです。
まず、この「知識・技能」というのは、『学⼒・学習の質的レベルと「知の構造」(出典:⽯井英真「授業づくりの深め⽅」』によると、第一段階にあたります。いわゆる「知っている・できる」という知識の獲得と定着の段階になります。その知識の意味理解が進み、洗練されると「わかる」段階になり、「使える」段階に入ってきます。つまり、知識の獲得と定着は土台にあるため、軽視してはいけないことはこの図からも分かります。

『教育新聞「【徹底図解】次期学習指導要領の「構造化」 ゼロから聞いてきた」』にも、知識・技能を「持っている」状態から、「分かる」、そして「使える」過程の先に思考力・判断力・表現力等があることが分かります。

具体例を挙げると、最初の段階は、「平均の求め方」という「手続き的な知識」は持っているので、教科書や問題集で聞かれたときは計算「できる」状態です。次の段階は、日常生活の現象を分析するときに、平均という考え方を使う場面と理由が「分かる」段階。最後は、それを実際の生活の中で平均という考え方を自由に取り出して「使える」状態を目指していくことが求められているのだと思います。
Point❶ 「個別の技能とは何か?」
そもそもの「技能」という概念は、人によって様々な解釈が生まれるので、一度定義づけてから説明をしていきます。
「技能とはどのようなものか?」
『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説』には次のように書かれています。
技能についても同様に,一定の手順や段階を追っていく過程を通して個別の技能を身に付けながら,そうした新たな技能が既得の技能等と関連付けられ,他の学習や生活の場面でも活用できるように習熟・熟達した技能として習得されるようにしていくことが重要となる。
この情報から読み取れるのは、「技能」にも2種類の技能があることが分かります。「個別の技能」と複数の連続する技能の知識を関連づけて生まれる「習熟・熟達した技能」です。
「田村学氏『「ゴール→導入→展開」で考える「単元づくり・授業づくり」』小学館、2022年、p.39)」の本の中で「技能」について以下のように整理されており、「手続き的知識」と呼ばれると書かれています。

「この「手続き的な知識」とはどのようなものなのか?」
手続き的知識は、文章で説明することはできますが、その説明を聞いてもすぐに実行できない知識です。例としてよく挙げられるのは、車の運転です。車の運転の方法は、教習所の教本に書いてあるので、それを読めばやり方は分かるのですが、ではすぐ運転できるかと言えば、そうではありません。何度も練習して体で覚えないとできないものです。そして、一度覚えると考えなくても体が自然に動いていきます。
このような「手続き的知識」について、教科学習の文脈でも説明をしてみます。
⚫︎数学の場合
『生徒の知識の形成過程を捉えるための手続き的知識と概念的知識という視点について』の教育研究では、数学を事例に以下のように定義されています。
⚫︎手続き的知識とは
二つの異なる部分によって構成されている。一つの部分は、数学における記号表現システム、または形式的な言葉から成り立っている。もう一つの部分は、数学的な作業を遂行するための規則やアルゴリズムからなる。(p.6)
例えば、掛け算九九を例にすると、数学における記号表現システムは、「3×4=12」というような数学の言語であり、規則やアリゴリズムでいうと「九九の暗唱や繰り返し加法といった規則・手順に従って、正しく計算を実行できる」知識のようなものです。掛け算九九も、始めは意味を考えて覚えますが、一度覚えて使うようになると、あまり意識せずに計算に使えるようになった経験はしたことがあるのではないでしょうか?
⚫︎語学学習の場合
次に、「News Picks「宣言的知識」と「手続き的知識」を意識することで語学学習が変わる!?」では語学学習において次のように述べられています。
効果的な言語学習のためには、知識のための学習と運用のための学習をバランスよく組み合わせることが重要です。例えば、新しい語彙を覚えたり文法を学んだりすることは、宣言的知識を増やすために有効です。言い換えれば、言語"について"学ぶ性質の学習は、宣言的知識のための学習と言えるでしょう。逆に言語"で"内容を扱う性質の学習は、手続き的知識のための学習です。たとえば、記事を読んで問題を解く、リスニングをして内容について感想を書く、英会話の講師と話してみる、Chat GPTのプロンプトを英語で書いてみるなど。言語で内容を扱う手続き的知識のための学習を組み合わせて、両輪で回していきましょう。
どの教科においても、宣言的知識と手続き的知識の両輪を回していくことが重要そうと言えそうです。
Point❷ 「中核的な概念の深い理解とは何か?」
「個別の技能」の先にある「中核的な概念の深い理解」を学習指導要領の言葉を引用し「習熟・熟達した技能」と定義してみます。この「習熟・熟達した技能」とは「個別の技能」と何が異なるのか?
以下の図(⽯井英真「授業づくりの深め⽅」)を参考にすると、個別の技能は、知識の獲得と定着(知っている・できる)段階と捉えると、習熟・熟達した技能とは、知識の意味理解と洗練(わかる)段階と言えそうです。
また、図の右側に視点を移すと、個別の技能(スキル)の先に「方略(複合的プロセス)」があります。このことからも、「方略」段階になると、単に「できる」だけでなく、その技能をどの場面で使えるのか、その理由についても「分かる」段階だからこそ、方略を適用できることになっていると考えられます。

例えば、理科の実験のプロセスを例に考えてみます。理科の実験においては、条件を揃えて比べることが重要になります。最初の段階では、条件を揃えて比べることについて、教師が「何を揃えて、何を変えるのか」をサポートします。それが、学年が上がるにつれて、子どもたちは調べたいことを明らかにするために、それ以外の条件を揃えることの重要性を「分かる」段階にきます。この段階では、条件を揃えることの意味を理解しているので、自分たちで実験のプロセスをデザインできるようになっています。これが、方略を適用できる段階になっていると考えられます。
Point❸「個別の技能」と「中核的な概念の深い理解」の関係
最後に、「個別の技能」を「中核的な概念の深い理解≒習熟・熟達した技能≒分かる段階≒方略」に引き上げていくにはどうしたらいいのかについて考察していきます。
これは方法知ベースの教科(体育、音楽、アート、言語等)で多くみられると思うのですが、内容知ベースの教科(数学の問題解決の課題、理科の実験のプロセス、社会科の資料の分析等)でも必要なデザインになります。
「個別の技能」を「中核的な概念の深い理解」に引き上げる方法として、今回は「問いのデザイン」に着目してみます。
ここでは、『「逆向き設計」実践ガイドブック』の事例をあげて説明します。
Q:たし算の筆算やとび箱のとび方など、「技能」が重要な単元の場合には、どのように「本質的な問い」を考えればよいのでしょうか?
A:ウィギンズらは、表1-3-5のように、技能の「本質的な問い」を考える視点を4つ示しています(『UBD訳本』p.136)。1つめは「カギとなる概念」であり、技能の基礎にある物理的な法則などを問う視点です。2つめは「目的、価値」であり、その技能がなぜ重要なのかを問う視点です。3つめは「方略・方策」であり、どうやってうまく技能を行うかを問う視点です。4つめは「文脈」であり、その技能がいつ重要になるのかを問う視点です。このように技能の重要性や必要となる場面を問うことで「本質的な問い」をつくることができます。
これは、「知識を使う場面と理由がわかる」知識の活用フェーズ(教育新聞)とも重なります。
鍵になるのは、「ただ早く、正確にできるにはどうしたら良いのか?」だけを問うだけでなく、この技能はなぜ重要で、どうやってうまくできるのか、さらにはどんな場面で重要になるのかを、カギとなる概念を軸に言語化することで、個別の技能が(本当に少しずつ…少しずつ…)中核的な概念に引き上げられていくのではないかと思いました。
今回のnoteでは「技能」に着目してまとめてみました。
誰かの明日からの授業実践のヒントになれば嬉しいです。
参考
・『学⼒・学習の質的レベルと「知の構造」(出典:⽯井英真「授業づくりの深め⽅」』
・『教育新聞「【徹底図解】次期学習指導要領の「構造化」 ゼロから聞いてきた」』
・「田村学氏『「ゴール→導入→展開」で考える「単元づくり・授業づくり」』小学館、2022年、p.39)」
・News Picks「宣言的知識」と「手続き的知識」を意識することで語学学習が変わる!?
(リンク)
・「市川伸一・伊東祐司編著「認知心理学を知る」ブレーン出版/1987年」
・:Hiebert &Lefevre(1986)における手続き的知識
・『「逆向き設計」実践ガイドブック』pg.33
