忘れられない一打より、崩れない一打を選ぶ日
『一度の成功より、続く安定』
会心の一打は、ずっと心に残ります。
でも、スコアを静かに支えてくれるのは、派手な一打よりも「大きく崩れない一打」なのかもしれません。
忘れられない、あの一打
20代のころ、大事な試合で忘れられない一打がありました。
後半6ホール目あたり。
その日は朝から流れがよく、スコアも順調でした。足元の芝の感触まで、いつもよりはっきり感じられるような日でした。
セカンド地点に立つと、残り150ヤード。
手にしたのは8番アイアン。
風はほとんどなく、空は高く、グリーンが少し近く見えました。
構えた瞬間、不思議なくらい体が静かになりました。
余計なことを考えていない。
手にも肩にも、変な力が入っていない。
ただ、ピンまでの空間に一本の線がすっと見えたような感覚がありました。
「このまま打てばいいんだな」
そう思って振った瞬間、いつもと違う感触がありました。
クラブがボールを芯でとらえた音。
手に残る、少し重たいような気持ちいい感触。
ボールは空に描いたラインに乗るように飛び出し、軽いドローでピンに向かっていきました。
グリーンに落ちて、少し転がって、カップのすぐ近くで止まる。
バーディー。
当時は、バーディー自体はそれなりに取れていました。
でも、あの一打は今でも覚えています。
バーディーだったからではなく、空にラインを描けたこと。
そして、そのラインに本当にボールを乗せられたように感じたこと。
あの集中力。
あの静けさ。
あの不思議な確信。
ゴルフをしていると、たまにそういう一打に出会います。
そして困ったことに、その一打はなかなか忘れられません。
「あの感覚」を追いかけてしまう気持ち
一度でも会心の当たりを経験すると、次のショットでも、その次のラウンドでも、無意識に「あの感覚」を探してしまいます。
「あの時みたいに打ちたい」
「あの球をもう一度出したい」
「今ならまたできるかもしれない」
この気持ち、きっと多くのゴルファーが分かってくれると思います。
たった一球が、何年も心に残る。
悔しい一日でも、その一球があっただけで「また行こう」と思わせてくれる。
それがゴルフの面白さでもあります。
でも同時に、その一球を追いかけすぎることで、ラウンドの流れを崩してしまうこともあります。
正直に言うと、あの感覚は毎回来ません。
100回振って、1回出ればいい方かもしれない。
出ない日の方が普通です。
それなのに、私たちはつい求めてしまいます。
「もっといい球を」
「もっと気持ちよく」
「もっと完璧に」
私自身、今でもあります。
ラウンド中に少しいい当たりが出ると、次のショットで欲が出る。
さっきの感触を再現したくなって、知らないうちにクラブを強く握っている。
本当はフェアウェイに置ければ十分なのに、少しでも遠くへ飛ばそうとする。
グリーン手前でいい場面なのに、ピンを真っすぐ狙いたくなる。
そうして、体は少しずつ硬くなります。
リズムが速くなる。
フィニッシュが取れなくなる。
打つ前から、結果を欲しがってしまう。
そしてミスをしたあとに、こう思うのです。
「あれ、さっきまではよかったのに」
「いい球」を求めすぎた日
生徒さんのMさんも、同じようなタイプでした。
練習場では安定して打てるのに、ラウンドになるとスコアがまとまらない。
ある日、レッスンの時に聞いてみました。
「この前のラウンド、どうでしたか?」
するとMさんは、少し照れたように笑って言いました。
「3発くらい、すごくいい当たりが出たんです。でも、それ以外が大きく崩れて、スコアはボロボロでした」
その言葉を聞いて、私はすごく分かるなと思いました。
会心の一打が3回。
それは素晴らしいことです。
でも、それ以外のホールで大きなミスが続くと、スコアは安定しません。
ゴルフは、最高の一球を競う競技ではありません。
18ホールをどうつなぐか。
良い時も、悪い時も、どれだけ大崩れせずに進めるか。
そこに、スコアの土台があります。
『一度の成功より、続く安定』が伝えたいこと
奇跡の一打は、確かに気持ちがいいです。
芯を食ったアイアン。
真っすぐ伸びるドライバー。
ピンに向かっていくウェッジ。
あの気持ちよさは、ゴルフを続ける大きな理由になります。
でも、スコアを作るのは、その一打だけではありません。
少し芯を外しても、グリーン手前に残る球。
曲がっても、林までは行かない球。
狙い通りではなくても、次が打てる場所にある球。
そういう「70点の球」が、ラウンドを支えてくれます。
100点の一打を1回打つより、70点の一打を続ける。
これができると、ゴルフは少し落ち着いてきます。
「いい球」を狙うより、「崩れない球」を選ぶ。
これは少し地味です。
でも実際のラウンドでは、この地味な選択が本当に強い。
たとえば、、グリーン中央を狙う。
少し手前でもいいと決める。
番手を無理せず選ぶ。
それは逃げではなく、ラウンドを整えるための判断です。
練習場でも同じです。
「今日の最高の一球はどれか」ではなく、
「大きく崩れなかった球は何球あったか」
10球打って、7球がそこそこ前に飛んだ。
少し芯を外しても、方向は大きくズレなかった。
フィニッシュまでバランスよく立てた球が増えた。
それは、派手ではないけれど、とても大事な感覚です。
今日からできること
練習場で、自分が安定して打てる力加減はどこか。
飛距離や方向が大きく散らばらない振り幅はどれくらいか。
それを知っておくことは、ラウンドで大きな助けになります。
今できる100点のショットを目指す練習も、もちろんありです。
ゴルフは楽しむものですから、気持ちよくチャレンジする時間もあっていい。
でも、スコアを整えるには、18ホールのほとんどで「崩れないショット」が大切です。
簡単に言えば、10球打って7球うまくいけば十分。
そう考えるだけで、体の力みが少し抜けます。ミスしても大きなケガにならない70点のショットを把握しておきたいのです。
それだけで、1ラウンドの中の大たたきは少しずつ減っていきます。
安定の先にある景色
会心の一打を追いかける気持ちは、なくさなくていいと思います。
あの気持ちよさがあるから、また練習場に行きたくなる。
あの感触をもう一度味わいたくて、クラブを握る。
それは、ゴルフの大切な楽しさです。
でも、ラウンドの中では、安定を選ぶ勇気も必要です。
今日は会心の当たりが出なかった。
でも、大きく崩れた球も少なかった。
そんな日も、ちゃんと前に進んでいます。
派手な一打ではなく、崩れない一打。
忘れられない成功ではなく、続いていく安定。
そこに目を向けられた時、ゴルフの見え方は少し変わります。
あなたは次のラウンドで、100点の一打と70点で収まる一打、どちらを選びたいですか?

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