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スコアが崩れた日に、いちばん残るもの

『余裕がない時ほど、人柄が出る』

余裕をなくすことは、決して悪いことではありません。
苦しい時に、どんな言葉や表情を選ぶか。
そこに、その人らしさが静かに表れるのだと思います。


夕暮れの練習場で

夕方の練習場は、少しずつ音が減っていきます。

昼間の賑やかさが引いて、聞こえてくるのは乾いたインパクト音と、隣の打席から漏れる小さなため息。
照明に照らされた白いボールが、暗くなり始めた空へ吸い込まれていきます。

芝の匂いは夜露を含んで少し重くなり、グリップを握る手のひらには、じんわりと汗がにじむ。

そんな時間、一人で黙々と球を打ち続ける生徒さんの背中を見ることがあります。

うまくいかない日の背中は、なぜかいつもより少し丸く見えます。


誰にでもある、「崩れる日」

ゴルフを始めたばかりの頃は特に、うまくいかない一日が、自分のすべてを否定されたように感じることがあります。

ドライバーが右へ曲がる。
アイアンは地面を叩く。
短いパットまでカップをすり抜けていく。

「なんで自分だけ」
「今日はもうダメだ」

そんな声が頭の中で大きくなり、気づけば返事が短くなっている。クラブをバッグへ戻す音も、少しだけ強くなっている。

崩れているのはスコアだけのはずなのに、表情や言葉まで崩れてしまう。

それがゴルフの、少し意地悪なところかもしれません。


私も、余裕をなくします

正直に言うと、私もよく崩れます。

レッスンのお手本では、「力を抜いて」「あそこに落とせば転がって寄りますよ」と言って上手く見せているのに、自分のラウンドになると同じことができません。

「ここは寄せたい」
「ボギーをとめたい」
「OBを出したくない」

そんな気持ちが重なると、グリップを強く握り、呼吸まで浅くなっていきます。

余裕がなくなっていると自分で分かっているのに悪い方へ考えて、うまく止められない。
長くゴルフを続けていても、そういう日はあります。

教える側だから、いつも落ち着いていられるわけではありません。

余裕は、生まれつき持っている性格ではなく、何度も重圧プレッシャーを経験して小さな成功体験を積み重ねながら育てていくしかないと、今でも何度も思い知らされます。


Nさんの言葉が変えた空気

先日、コースレッスンでご一緒したNさんも、そんな一日を過ごしていました。

朝は奥様と楽しそうに話していたのですが、前半でOBが続き、短いパットも外してしまいました。

後半に入る頃には言葉数が減り、奥様が「次はきっと大丈夫」と声をかけても、返事は「うん」「そう」だけ。

奥様も、だんだん声をかけづらそうになっていました。

ティーショットを待つ間、私はNさんの隣に立ち、聞いてみました。

「今、一緒に回っている人へ、どんな言葉をかけたいですか」

Nさんは少し驚いた顔をしました。

遠くのグリーンを見つめたまま、しばらく黙り、それから小さな声で答えました。

「……ありがとう、かな」
「今日、付き合ってくれてありがとう」

その言葉を奥様へ伝えた瞬間、二人の間にあった張りつめた空気が、ふっと緩みました。

奥様は笑って、「こちらこそ」と答えました。

そのあとのショットが急によくなったわけではありません。
スコアも、大きくは変わりませんでした。

それでもNさんは、その日いちばん穏やかな表情でクラブハウスへ戻ってこられました。


スコアには残らないもの

『余裕がない時ほど、人柄が出る』
これは、余裕をなくしてはいけない、という意味ではないと思います。

誰にでも、苦しくなる瞬間はあります。
笑えない時も、話したくない時もあります。

大切なのは、そんな自分を無理に立派に見せることではありません。

余裕がない時に、相手へぶつける言葉を一つ減らせるか。
短くても「ありがとう」と伝えられるか。

ゴルフは自分との戦いだと言われますが、実際には多くの場合、一緒に歩いてくれる人がいます。

苦しい場面で出た言葉や表情は、スコアカードには書かれません。

けれど、その日一緒にいた人の記憶には、意外なほど長く残ります。


今日から試せる二つのこと

スコアが崩れ、気持ちに余裕がなくなった時は、次のショットへ急ぐ前に、隣にいる人の顔を一度だけ見てみてください。

言葉はなくても大丈夫です。

視線を合わせるだけで、自分一人の世界から少し外へ戻れます。
すると、止まりかけていた呼吸が、ゆっくり動き始めます。

もう一つは、短い言葉を一つだけ選ぶことです。

「ありがとう」
「ナイスショット」
「待ってくれて助かりました」

長く話そうとしなくて構いません。

たった一言でも、周りの空気だけでなく、自分の心にも小さな余白を作ってくれます。


崩れた日に見える景色

夕方のフェアウェイに、やわらかい光が差し込む時間があります。

足元では、少し湿った芝がスパイクの下で静かに沈む。遠くから鳥の声が聞こえ、カート道には長い影が伸びている。

そんな景色の中で、私たちはスコア以上に大切なものと、何度もすれ違っています。

崩れた日があってもいい。
不機嫌になりかける日も、言葉が出なくなる日もあります。

それでも最後に、誰かを思う言葉を一つ選べたなら、その日は悪い一日だけでは終わりません。

余裕がなかった日に見せた小さな優しさは、ナイスショットよりも長く、誰かの心に残ることがあります。


あなたはゴルフで苦しくなった時、一緒にいる人へ、どんな言葉をかけたいですか。


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