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3年生、レコーディングします!【総校②#16】/校長の挑戦―総合の力を信じて 第2章

2021年の秋も深まった頃、前回、3年生の子どもたちは、みかん農家を訪ね、産直市ではみかんを買いに来た人たちの声を聞きました。
そこで知ったのは、おいしいみかんの向こうにある、つくる人の苦労や喜び、そして毎年楽しみに待っている人たちの思いでした。

そんな出会いを重ねた子どもたちは、自分たちが知ったみかんのよさを、どうすれば多くの人に伝えられるのかを考え始めます。


1.「歌を作ろう」と言わない

3年生のみかん学習を進めるにあたって、私は担任の先生に1つだけお願いしていたことがありました。

それは、教師の側から「歌を作ろう」とは絶対に言わないことです。

最終的には、みかんのよさを伝えるCDを作るという構想を私自身は持っていました。
しかし、最初から教師が「みかんの歌を作ります」とゴールを決めてしまえば、子どもたちにとっては、どうしてもやらされている学習になってしまいます。

前回、子どもたちはみかん農家を訪ね、みかんを育てる苦労や喜びを聞きました。
産直市では、みかんを買いに来たお客さんにもインタビューし、遠くから毎年楽しみに買いに来ている人がいることも知りました。

そうやって地域のみかんについて知った上で、

自分たちは、このみかんのよさをどうやって伝えたいのか」

そこを子どもたち自身に考えてほしかったのです。

やがて、担任の先生と子どもたちの話合いの中から、「みかんのよさを伝える歌を作ろう」という声が出てきたようでした。

そうか。
そこへたどり着いたか。

私が待っていたのは、その瞬間でした。

2.言葉を集めて、歌にしていく

「みかんのよさを伝える歌を作ろう」

子どもたちの中からゴールが見えてくると、担任の先生と一緒に、歌に入れたい言葉を考えるようになりました。

これまで自分たちが見たり、聞いたり、体験したりしたことを振り返っていきます。
春に見たみかんの花、暑い夏の日差しを浴びて育つ小さな実、秋になって黄色く色づいたみかん。
農家さんから聞いた収穫までの苦労や、貯蔵することでさらに甘くなることも知っていました。

「つるつる、ぴかぴか」
「あまずっぱい」
「緑の赤ちゃん」

3年生らしい言葉も、次々と出てきました。

ただ、言葉を並べただけでは歌にはなりません。
どの言葉を使うのか、どんな順番にすればみかんのよさが伝わるのか。
そして、それをどんなメロディーに乗せるのか。

そこで力を貸してくださったのが、事務長さんから紹介していただいた地域の声楽家の方でした。
事務長さんと同じ地域の合唱サークルに所属されている方で、お願いすると、子どもたちと一緒に歌を作ってくださることになりました。

3.歌いながら、歌が生まれた

声楽家の先生を迎えてからは、紙の上だけで歌を作るのではありませんでした。

子どもたちが考えてきた言葉を声に出してみる。そこにメロディーをつけて歌ってみる。
うまく乗らなければ言葉を変えたり、リズムを考えたりして、また歌ってみる。

教室には、まだ名前もない歌が何度も響きました。

「ここは、こんな感じかな」
「もう1回、歌ってみようか」

歌ってみると、紙に書いているだけでは分からなかったことも見えてきます。
言葉とメロディーが行ったり来たりしながら、少しずつ歌の形が整っていきました。

そして出来上がったのが、「柑川みかんのうた」でした。(※柑川は仮名)

「柑川みかんのうた」

1番
つるつるぴかぴか あまずっぱい 柑川みかん
春のみかんの 花のかおり 柑川みかん
あつ~い夏に たっぷりと 日をあびて
緑の赤ちゃん ぐんぐんと 育ってく
柑川(トトン) みかんは(トトン) 王様よ

2番
つるつるぴかぴか あまずっぱい 柑川みかん
黄色く色づき しゅうかくだ 柑川みかん
もっとあまく なってねと ちょぞうこへ
あまさがぎゅぎゅっと ちょぞうみかん どれもおいし
柑川(トトン) みかんは(トトン) 人気者

柑川みかんの歌(地名は仮名)

出来上がった歌をあらためて見ると、それまでの学習が随所に顔を出していました。

みかんの花を見たこと。
緑色の小さな実が育っていく様子。農家さんから教えてもらった収穫や貯蔵のこと。
そして、「つるつるぴかぴか」「あまさがぎゅぎゅっと」という、子どもたちらしい言葉もあります。

農家さんを訪ね、産直市でお客さんの声を聞いた経験が、少しずつ言葉になり、その言葉が声楽家の先生とのやり取りの中でメロディーに乗っていったのです。

こうして、教室で1つの歌が生まれました。

CDには、メインとなるこの「柑川みかんのうた」に加えて、ラップ調の「柑川みかんは人気者」、さらに昨年度の6年生がゆるキャラとして考案し、この年にリニューアルした「カイくん」の絵描き歌も収録することになりました。

4.もう1つの歌には、裏話がある

実を言うと、このリニューアルしたカイくんには、ちょっとした裏話があります。

ある日、たまたま帰省していた身近な者が、テーブルの上に置いてあったカイくんの元イラストを見つけました。
芸術系の大学を出て、昔からポケモンなどのキャラクターが好きだったこともあり、どうやら気になったのでしょう。
頼まれたわけでもないのに、自分なりにカイくんをアレンジして描いていたのです。

そして今度は、その描き直されたイラストを私がたまたま見つけました。

「あれ? こっちの方がええやん」

元の姿を生かしながらも、ずいぶんキャラクターらしくなっていました。
しかも、ただ立っているだけではなく、みかんを食べたり、コーヒーを飲んだりと、いろいろなポーズまで考えられていました。

それなら、このカイくんを使わせてもらおうということになりました。
さらに、絵描き歌の歌詞まで考えてくれたのです。

そんなふうに、ほんの偶然から生まれたリニューアル版のカイくんですが、その後、町内のゆるキャラとして正式に認定され、現在も使われています。

こうして、CDに入れる3曲がそろいました。

5.本物のスタジオへ

歌詞ができ、曲も完成しました。

次に考えたのは、この歌をどうやってCDにするかということでした。

学校で録音する方法もあります。
それなら、ずっと簡単です。
しかし、私はそれでは少し物足りないように感じていました。

せっかく子どもたちが、農家さんやお客さんと実際に出会い、自分たちの言葉で歌詞をつくり、地域の声楽家の方と一緒に曲までつくったのです。
最後の録音だけを学校の中で済ませるのではなく、そこにも「本物」を用意してやりたいと思いました。

本物の音楽スタジオへ行く。
本物のマイクの前に立つ。
ヘッドホンから流れる音を聴きながら、自分たちの声を録音してもらう。

3年生にとっては、きっと初めての経験です。

総合的な学習だからこそ、できるだけ本物の人と出会い、本物の場所へ行き、本物の仕事に触れてほしい。
そうした経験の一つ一つが、子どもたちにとって忘れられない学びになると、私はずっと考えていました。

そこで、学校からスクールバスで30分ほど離れた市にある音楽スタジオで、実際にレコーディングをすることにしました。

ただし、当時はまだコロナ禍の真っただ中です。
マスクの着用が必要で、感染対策にも十分な注意を払わなければなりませんでした。

スタジオに入ると、そこには学校とはまったく違う光景がありました。
マイクが立ち、ヘッドホンが並び、録音のための機材が置かれています。

子どもたちは5人ほどの小グループに分かれました。

担任、声楽家の先生、事務長さん、そして私。
4人が見守る中、子どもたちはヘッドホンをつけ、マイクの前に立ちました。

しかし、のんびり練習している時間はありません。

「子どもマルシェ」まで、もうあまり時間が残されていなかったのです。

リハーサルもそこそこに、本番です。

緊張しながらマイクの前に立つ子どもたち。
ヘッドホンから流れてくる音を聞きながら、覚えたばかりの歌を一生懸命歌います。

学校の教室で生まれた歌が、本物のスタジオで録音されていきました。

6.届いた「自分たちのCD」

録音が終わると、今度はCDジャケットづくりです。

子どもたちと担任でアイデアを出し合い、一人一人がポーズを考えて写真を撮っていきました。
カメラマンは事務長さんです。

小道具にはみかんを使い、地域の風景写真なども組み合わせました。
こういったことが大好きな事務長さんには、本当に助けてもらいました。

撮影した写真を使って、少しずつCDらしいジャケットが出来上がっていきます。

CDそのものの制作発注も、事務長さんが引き受けてくれました。

ただ、日程はかなりぎりぎりでした。
子どもマルシェの販売日までに、本当に間に合うのか。
あとは待つしかありません。

そして、ようやく学校にCDが届きました。

キャラメルパッケージに収められた、本物のCDです。

実物を元に再構成。CDのオレンジと緑色はみかんの実をイメージした事務長さんのアイデア

それを初めて目にしたときの子どもたちの驚いた顔を、私は今でも忘れられません。

みかん畑を歩き、農家さんの話を聞き、産直市で勇気を出してお客さんに声を掛けました。
そこで知ったことや感じたことが歌詞になり、地域の方の力を借りながら曲になり、スタジオで自分たちの声を吹き込みました。

そうやって、3年生の「みかんCD」は完成しました。

あとは、子どもマルシェでのお披露目を待つばかりです。


ここまで読んでいただきありがとうございました。
次回へ続く・・・👇

前回の話👇

◆本シリーズについて(初めて読まれる方へ)👇👇

2020年度、私は中山間地にある小学校へ校長として赴任しました。
その直後から、コロナ禍という正解の見えない状況の中で学校運営が始まりました。

行事は止まり、人との距離が求められる中で、何を優先し、何をあきらめ、何を工夫すればよいのか。
日々、判断を迫られる学校経営が続きました。
▶第1章は、こちら👇
マガジン 校長の挑戦—総合の力を信じて 第1章」**

本シリーズは、そうした試行錯誤の中で、子どもたちの自己肯定感を育てることを軸に、総合的な学習の時間を学校経営の中心に据えて進めてきた、小学校校長としての実践記録です。

シリーズ第2章(校長2年目)では、全校での総合的な学習の時間への取組を綴っています。

※本文中の一部地名や商品名等は、必要に応じて仮名またはイニシャルを用いています。

これまでの経過は「校長の挑戦 総合の力を信じて 第2章 マガジン」で👇👇


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