恐竜の足跡を、食べてみる?【総校②#18】/校長の挑戦―総合の力を信じて 第2章
2021年秋。
前回紹介したのは、4年生の総合的な学習の時間でした。
地域や専門家から環境について学び、最後にはみかんの皮まで学習の材料にしていった4年生。
今回は5年生です。
田んぼに描いた大きな恐竜の足跡。
その実りを刈り取ったあと、子どもたちの学習はもう1つ先へと動き始めます。
1 田んぼから消えていった恐竜の足跡
5年生が取り組んだ田んぼアートは、大成功でした。
田んぼに浮かび上がった大きな恐竜の足跡は地元新聞にも取り上げられ、町内外から多くの方が見に来てくれました。
自分たちがつくったものを、わざわざ誰かが見に来てくれる。
子どもたちにとって、それは想像していた以上にうれしい出来事だったようです。
やがて秋が深まり、田んぼは収穫の時期を迎えました。
まずは地域ボランティアの方々と一緒に普通米を刈り取り、そのあとには恒例のカレーパーティも行いました。
田んぼで育てた米を収穫し、自分たちで味わう。
ここまででも、十分に1つの学習が終わったように見えます。
けれども、田んぼにはまだ少しだけ稲が残っていました。
恐竜の足跡を描いていた古代米です。
普通米とは時期を少しずらして、いよいよ古代米の稲刈りをすることになりました。
量はそれほど多くありませんから、作業そのものにはさほど時間はかかりません。
刈り取られた古代米を前にして、今度は別の問いが残りました。

「この古代米、どうする?」
田んぼアートをつくるために植えた古代米でしたが、役目を終えたからといって、それで終わりにするのは少しもったいない。
5年生の学習は、ここからもう一度動き始めました。
2 「食べるものにできないかな」
担任の先生と私も、刈り取った古代米をどう生かすかについて話をしていました。
私の頭には、教諭時代に取り組んだ「和菓子プロジェクト」のことが浮かんでいました。
地域の和菓子屋さんと子どもたちが一緒になって、商品になる和菓子をつくった実践です。
ただ、今回は最初から教師が「これをつくろう」と決めてしまうつもりはありませんでした。
子どもマルシェというゴールはありますが、そこで何を売るのかは、できるだけ子どもたち自身が考えてほしい。
とはいえ、販売までに残された時間を考えると、1からまったく新しい商品を開発するだけの余裕があるわけでもありませんでした。
教室でも、古代米をどうするか話し合いが始まりました。
せっかく自分たちで育て、田んぼアートにも使った米なのだから、そのまま袋に入れて売るだけではなく、何か別の形にできないか。
そんな話の中から、「食べるものにできないかな」という方向が少しずつ見えてきたようです。
そこで担任の先生から、ある話が出ました。
「そういえば、このクラスにケーキ屋さんの子がいます」
その一言で、話が急に現実味を帯びてきました。
3 町のケーキ屋さんとつながった
そのケーキ屋さんは、ただケーキをつくって販売しているだけのお店ではありませんでした。
地域を盛り上げようと、町にちなんだスイーツづくりにも取り組んでいました。
その1つが、恐竜をモチーフにしたお菓子です。
町には恐竜に関係する地域資源があります。
それを生かしてつくられていたのが「恐竜の足跡クッキー」でした。
恐竜の足形をしたクッキーに、町の特産であるみかんを使ったクリームが挟まれています。
田んぼアートも恐竜の足跡。
そして、ケーキ屋さんにも恐竜の足跡をかたどったクッキーがある。
別々だったものが、子どもたちの中でつながり始めました。
「このクッキーに、古代米を使えないかな」
「クッキーの生地に入れたらどうだろう」
そんなアイデアが子どもたちから出てきました。
古代米を使った新しいお菓子を1から考えるのではなく、すでに地域で親しまれている商品に、自分たちが育てた古代米を加える。
それなら、自分たちの田んぼアートと地域のお店が、1つの商品でつながります。
教師が「古代米でクッキーをつくりなさい」と決めたわけではありません。
子どもたちが自分たちの持っているものと、地域にすでにあるものを見比べながら、「これとこれを組み合わせたら」と考え始めたのです。
4 古代米は、クッキーになるのか
とはいえ、子どもたちが「クッキーに古代米を入れてみたい」と考えたからといって、すぐに商品になるわけではありません。
古代米をどのように生地に混ぜるのか、どのくらいの量ならおいしく食べられるのか。
そこから先は、お菓子づくりのプロの力が必要でした。
子どもたちのアイデアをケーキ屋さんのご主人に伝えると、それをきちんと受け止めてくださいました。
そして、実際に古代米の配合割合を変えた2種類のクッキーを試作してくださったのです。
どちらの商品にするかを決めるためでした。
出来上がった2種類の試作品が、子どもたちの前に並びました。
見た目はよく似ています。
でも、食べてみると違います。
古代米の入り方によって、口に入れたときの食感や味わいが少しずつ違うのです。
子どもたちは2種類を食べ比べながら、「こっちの方がいい」「こっちは古代米の感じがする」など、自分なりの感想を出し合いました。

おもしろかったのは、ご主人が「こちらが完成品です」と、できあがったクッキーを持ってきたわけではなかったことです。
古代米をクッキーの生地に混ぜ込むといっても、どこまでも増やせるわけではありません。
割合を増やせば古代米らしさは出ますが、その分、生地のまとまりや食感にも影響が出てきます。
ご主人からそんな話を聞きながら、子どもたちは商品になるまでの試行錯誤にも触れていきました。
そして、ご主人が用意してくださったのは、古代米の配合を変えた2種類の試作品でした。
どちらを商品にするかまで、ご主人が決めてしまうことはありませんでした。
「どちらがいいと思う?」
最後の選択を任されたのは、実際にそのクッキーを販売する子どもたちでした。
2種類を食べ比べながら、味や食感の違いを確かめ、自分たちが売るならどちらがいいのかを考えていきます。
プロに作ってもらった商品を受け取るのではなく、商品を決めるところにまで子どもたちが関わることができたのです。
自分たちが育てた古代米を使い、自分たちが考えたアイデアをプロが形にしてくれる。
そして、その味を自分たちの舌で確かめ、自分たちで商品を選ぶ。
子どもたちはいつの間にか、単に「クッキーを作ってもらう側」ではなく、商品づくりに参加する側になっていました。
こうして、子どもたちが選んだ古代米の配合で、5年生の「恐竜の足跡クッキー」が完成しました。
田んぼに描いた恐竜の足跡が、今度は小さなクッキーになって、子どもたちの目の前に現れたのです。
5 田んぼで育てたものを、町の商品へ
春から育ててきた米でした。田んぼアートをつくるために植えた古代米が、秋には大きな恐竜の足跡を浮かび上がらせ、多くの人を田んぼへ呼びました。
そして収穫を終えると、今度は子どもたちのアイデアによって、町のケーキ屋さんのお菓子へと姿を変えました。

田んぼで終わるはずだったものが、教室へ戻り、話し合いの中から町のお店へとつながっていきました。
子どもたちにとっても、自分たちの古代米が本当に「商品」になったことは、きっとそれまでとは違った手応えがあったと思います。
もちろん、完成しただけでは終わりません。
このクッキーを、今度は自分たちの手でお客さんに届けます。
5年生の子どもマルシェに並ぶ商品が、これで決まりました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。 次回へ続く・・・
前回の話👇
◆本シリーズについて(初めて読まれる方へ)👇👇
2020年度、私は中山間地にある小学校へ校長として赴任しました。
その直後から、コロナ禍という正解の見えない状況の中で学校運営が始まりました。
行事は止まり、人との距離が求められる中で、何を優先し、何をあきらめ、何を工夫すればよいのか。
日々、判断を迫られる学校経営が続きました。
▶第1章は、こちら👇
「マガジン 校長の挑戦—総合の力を信じて 第1章」**
本シリーズは、そうした試行錯誤の中で、子どもたちの自己肯定感を育てることを軸に、総合的な学習の時間を学校経営の中心に据えて進めてきた、小学校校長としての実践記録です。
シリーズ第2章(校長2年目)では、全校での総合的な学習の時間への取組を綴っています。
※本文中の一部地名や商品名等は、必要に応じて仮名またはイニシャルを用いています。
これまでの経過は「校長の挑戦 総合の力を信じて 第2章 マガジン」で👇👇
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