【プロマネの生きる道】想定外の事象でも何とかする PMの「まさか」力
予想という名の「砂上の楼閣」
プロジェクトマネージャー(PM)という仕事は、しばしば「建築家」に例えられます。
納期、予算、品質。これら緻密な設計図に基づいて、予定通りに建物を完成させる。これがPMの使命です。
しかし、現実の世界で建築が進む過程では、予期せぬ地震が起きたり、資材が高騰したりすることは日常茶飯事です。
プロジェクトも例外ではありません。
IT開発の現場では「仕様変更」という名の地殻変動が起き、ビジネスの領域では「競合他社の奇襲」という名のハリケーンが吹き荒れます。
PMは、この「予期せぬ事態」、すなわち「想定外の事象」をいかにマネジメントするかに、その真価が問われるのです。
それは、あらかじめ備えるリスクマネジメントと、実際に起きたときに対処するインシデント対応との二重奏と言えるのかもしれません。
リスクマネジメントは、全てを予測する「全能の神」になれるのか
リスクマネジメントとは、プロジェクトにとってマイナスとなる可能性を事前に特定して、それらが現実のものとなる確率や影響度を評価し、対策を講じることです。
優秀なPMは、プロジェクトの初期段階で、
「このシステムはサーバーダウンする可能性がある」
「この新技術の習得には時間がかかるかもしれない」
といった、ありとあらゆる「リスク」を想定し、リストアップして、事前に対策を用意します。
しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。
「想定外の事象を、どこまで想定できるのか」と。
世の中には、「ブラック・スワン」と呼ばれる事象があります。
これは、「極めて稀で、予測が非常に困難で、ひとたび発生すれば甚大な影響を与える事象」を指します。
2008年のリーマン・ショックや、新型コロナウイルスのパンデミックなどは、まさにこれです。
どれほど緻密なリスク分析をもってしても、これらの「黒い白鳥」の出現を完璧に予測して、対策を講じることは不可能なのです。
PMは、すべてを予測できる「全能の神」ではありません。
できることは、「想定の射程距離」を可能な限り広げる努力と、その外側で何かが起きたときに「迅速に対応できる組織構造」を作ることなのです。
PMが「できること」と「できないこと」
想定し得なかった事象、すなわち「ブラック・スワン」に遭遇した場合、PMには何ができるのでしょうか。
できること、それは「戦術的撤退」と「情報の透明性」
想定外の事態に直面したとき、まずPMにできることは、「戦術的撤退」と「情報のハブ」になることです。
(1)「被害の食い止め」と「優先順位の再定義」
パニックに陥らず、現状の最悪の状況を冷静に把握して、被害が拡大しないように食い止めます。
そして、納期や予算、品質のうち、「今回は何を犠牲にして、何を最優先で守るのか」を即座に判断します。
例えば、致命的なバグが出たとき、納期を少し遅らせてでも品質を守る、という大胆な決断を下すことです。
(2)「情報の透明性の確保」
顧客、経営層、チームメンバーに対して、状況、被害、そして「これからどうするのか」を包み隠さず伝えることです。
情報の隠蔽は、事態の悪化を招く毒薬です。不安に苛まれるチームを、情報という名の「羅針盤」で導くのです。
できないこと、それは「奇跡を起こす「魔法使い」になること」
逆に、PMにはできないこともあります。
それは、「時間や資源を魔法のように増やすこと」です。
どれほど優秀なPMでも、一夜にして失われた二週間の工数を取り戻すことはできません。
また、誰も見たことのないような革新的な解決策を、プレッシャーの中で即座に生み出す「魔法使い」にもなれません。
この「できないこと」を認識して、無理をしない、無理をさせない姿勢こそが、チームを崩壊から守る最後の砦となるのです。
それでも何とかする、PMの「人間力」
では、「それでも何とかするには、どうすれば良いのか」。
それは、「チームの集合知(知恵)と、外部の力とを結集すること」、そして「信頼残高」をフル活用することに尽きます。
想定外の事象は、えてして「誰も答えを知らない」問題です。
このとき、PMが独りで悩むのではなく、開発者、デザイナー、営業、顧客といった関係者全員に「力を貸してくれ」と頭を下げる「人間力」が窮地を救います。
こんな例があります。
あるシステムのプロジェクトで、連携先の別会社が突然、仕様の前提を覆すほどの大きな方向転換を決めました。
プロジェクトは大混乱に陥り、誰もが「間に合わない」と諦めかけたのです。
このとき、PMがとった行動は、「文句」でも「説得」でもありませんでした。彼は先方の担当者に赴き、「あなたの会社が直面している本当の課題は何ですか」と、ただ真摯に耳を傾けたのです。
その結果、プロジェクトの目的を少しだけ調整して、お互いの会社の利益になる「第三の道」を見つけ出すことに成功しました。
これは、PMが日頃から培ってきた「人との信頼関係」という名の「預金」が、最も危機的な瞬間に利子をつけて返ってきたエピソードと言えるでしょう。
PMがリスクマネジメントについて心がけること
PMが「リスクマネジメント」について心がけるべきことは、次の二点に集約されます。
(1)リスクを「悪者」にしない
リスクは、プロジェクトの「影」ではなく、むしろ「成長の種」です。
リスクを洗い出すプロセスは、「我々は何を知らないのか」を知る謙虚な内省の機会であり、それに対応する対策は、チームの「筋力」を高めます。
(2)「無知の知」という心構えを持つ
ソクラテスが説いたように、「自分が何も知らないことを知っている」ことこそが知恵の始まりです。
PMは、「自分には想像もつかない事態が起こり得る」という「無知の知」を常に心の隅に留め置くことで、過信を避け、予期せぬ事態への心の準備、すなわち「回復力」を保つことができるのです。
生き残るPMの哲学
PMの生きる道とは、完璧な計画を立てる道ではありません。
それは、「想定外こそが、プロジェクトのデフォルトである」という哲学を受け入れて、「計画」という名の帆を張りながらも、「不確実性」という名の風を読んで航海を続ける道です。
ベテランのPMは知っています。
問題を起こさないことに越したことはありません。
しかし、問題が起きたときには、いかにチームを機能させ、関係者を納得させ、目標へ向かって前進し続けることができるかが、マネジメントの肝なのです。
想定外を乗り越えたとき、プロジェクトは単に成功を手にするだけではなく、チームが「想定外をも乗り越えられるチーム」へと変貌を遂げることでしょう。
予定通りに事が進まないのは世の常のことです。
タイムリーなリスクマネジメントで、柔軟に軌道修正していくことも時には必要となります。
「想定外の煙」が衆人の目に見える前に、その「気配」を察知して「さらっと対処」する。後は何事も無かったかのように涼しい顔をして淡々と進め、予定通りの結果を出すのが「一流のPM」なのかもしれません。
そんなPMに、私はなりたい。
な〜んてな・・・
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・実践・プロジェクトマネジメント[概要編] - - マネジメントの道具箱
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