プロジェクトにおけるスコープの管理 - - マネジメントの道具箱
はじめに
何か新しいことを始めるとき、「何をどこまでやるか」を最初に決めることが多いのではないでしょうか。
例えば、旅行の計画を立てるなら、どこへ行くのか、何をするのか、予算はいくらまでかなどを決めます。
これは、プロジェクトにおいても同じです。
プロジェクトを成功させるためには、「何を」「どこまで」行うのかを明確にして、それをきちんと管理することが非常に重要となります。
ここでは、プロジェクトにおける「スコープの管理」について解説していきます。
1.プロジェクトにおけるスコープの管理とは
1.1 PMBOKにおける定義
プロジェクトマネジメントの国際的な標準であるPMBOK(Project Management Body of Knowledge)では、スコープの管理を
「プロジェクトのスコープおよびプロダクトのスコープを定義し、妥当性を確認し、コントロールするプロセス」
と定義しています。
これは、「プロジェクトで何を作るのか、どこまでやるのかを明確にして、途中で勝手に内容が変わらないように管理すること」と考えると分かりやすいでしょう。
1.2 スコープの対象と具体的な事例
プロジェクトにおけるスコープは、いくつかのカテゴリーに分けられます。
それぞれの具体的な事例を見ていきます。
(1)プロダクトスコープ
これは、プロジェクトの最終的な成果物、つまり「何を作るのか」を指します。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。
・ITシステム開発
・新しいWebサイトの機能
→会員登録、商品検索、購入機能など
・スマートフォンアプリの性能
→動作速度、対応OSなど
・製品開発
・新しいコーヒーメーカーの仕様
→容量、抽出方法、デザインなど
・自動車の機能
→燃費、安全性能、搭載システムなど
・建設
・新しいオフィスビルの機能
→会議室数、エレベーター数、耐震性能など
・住宅の間取りや設備
(2)プロジェクトスコープ
これは、プロダクトスコープを実現するために必要な作業範囲、つまり「何をするのか」を指します。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。
・ITシステム開発
要求分析、基本設計、詳細設計、プログラミング、テスト、導入、運用保守
・製品開発
市場調査、コンセプト設計、試作品製作、評価試験、量産準備、販売戦略策定
・建設
地盤調査、設計、資材調達、基礎工事、建築工事、内装工事、引き渡し
(3)除外スコープ
これは、プロジェクトの範囲に含まれないものを明確にするものです。
「何をやらないか」を定義することで、関係者の誤解を防ぎ、不要な作業を防ぐことができます。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。
・ITシステム開発
現在のシステムのデータ移行は今回のプロジェクトの範囲外とします。
・製品開発
今回の製品には、特定の高度なセンサーは搭載しません。
・建設
外構工事(庭や駐車場など)は今回の建設プロジェクトの範囲外とします。
(4)ステークホルダー要求スコープ
これは、プロジェクトに関わる様々な利害関係者(ステークホルダー)からの要求事項をまとめたものです。
顧客、ユーザー、経営層、関連部署など、それぞれの立場からの要望を把握して、プロジェクトのスコープに反映させる必要があります。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。
・顧客からの要求の例
・「Webサイトはスマートフォンからも快適に閲覧できるようにしてほしい」
・「新しい業務システムは既存のシステムと連携できるようにしてほしい」
・ユーザーからの要求の例
・「アプリの操作は直感的で分かりやすいものにしてほしい」
・「製品は軽量で持ち運びやすいものが良い」
・経営層からの要求の例
・「プロジェクトは予算内で期日までに完了させてほしい」
・「新しいシステム導入により、業務効率を〇〇%向上させてほしい」
これらの異なる種類のスコープを明確に定義して、管理していくことが、プロジェクトの成功には不可欠となります。
2.スコープの管理の実際
スコープを適切に管理するためには、それぞれのカテゴリーに合わせた具体的な対応と注意点があります。
2.1 プロダクトスコープの管理
(1)具体的な対応
・要求定義書の作成
顧客や利用者の要求を詳細に記述した文書を作成し、合意を得ます。
・成果物仕様書の作成
プロジェクトの最終的な成果物の機能、性能、品質基準などを具体的に記述します。
・受け入れ基準の明確化
成果物が満たすべき基準を事前に定義し、関係者間で共有します。
(2)注意点
・曖昧な表現を避ける
「~できる」「~に対応する」といった曖昧な表現は避け、具体的な機能や数値で記述しましょう。
・図やモデルを活用する
テキストだけでなく、図やプロトタイプ、モックアップなどを活用することで、イメージの共有が容易になります。
2.2 プロジェクトスコープの管理
(1)具体的な対応
・WBS(Work Breakdown Structure)の作成
プロジェクトに必要な作業を階層的に分解し、タスクレベルまで落とし込みます。
・タスク定義書の作成
各タスクの具体的な作業内容、担当者、必要なリソース、期間などを明確にします。
・スコープベースラインの設定
定義されたプロジェクトスコープ、WBS、WBS辞書(各タスクの詳細な説明)を承認し、プロジェクトの基準とします。
(2)注意点
・関係者の参加を促す
WBS作成時には、実際に作業を行うチームメンバーの意見を取り入れることで、より現実的で実行可能な計画になります。
・変更管理との連携
プロジェクトスコープの変更は、WBSやスケジュール、コストに影響を与える可能性があるため、変更管理プロセスと連携して管理する必要があります。
2.3 除外スコープの管理
(1)具体的な対応
・除外リストの作成
プロジェクトの範囲に含まれないものを明確にリストアップし、関係者と共有します。
・コミュニケーションの徹底
プロジェクトの開始時や進捗報告の際に、除外スコープについて改めて説明し、誤解がないように努めます。
(2)注意点
・具体的に記述する
「~は対象外」というだけでなく、「なぜ対象外なのか」「具体的に何が含まれないのか」を明確に説明することが重要です。
・定期的な見直し
プロジェクトの進行状況やステークホルダーの状況変化に合わせて、除外スコープの見直しが必要になる場合があります。
2.4 ステークホルダー要求スコープの管理
(1)具体的な対応
・要求収集
インタビュー、アンケート、ワークショップなど、様々な手法を用いてステークホルダーからの要求を収集します。
・要求分析
収集した要求を分類、整理し、矛盾や曖昧な点を明確にします。
・要求の優先順位付け
全ての要求を満たすことが難しい場合、重要度や緊急度に基づいて優先順位をつけます。
・要求トレーサビリティマトリクスの作成
各要求がプロジェクトのどの成果物や作業に関連しているかを追跡できるようにします。
(2)注意点
・早期からの関与
プロジェクトの初期段階からステークホルダーを巻き込み、継続的にコミュニケーションを取ることが重要です。
・記録とフィードバック
収集した要求や分析結果は文書化し、ステークホルダーにフィードバックすることで、認識のずれを防ぎます。
3.PMがやるべき事、注意すべきこと
プロジェクトマネージャー(PM)は、プロジェクトの各フェーズにおいて、スコープ管理のために重要な役割を担います。
3.1 立ち上げフェーズ
(1)やるべきこと
・プロジェクトの目的、目標、成功基準を明確にし、文書化します。
・主要なステークホルダーを特定し、彼らのニーズや期待を初期段階で把握します。
・プロジェクトのハイレベルなスコープを定義し、除外スコープについても初期的な検討を行います。
・プロジェクト憲章を作成し、関係者の承認を得ることで、プロジェクトの方向性を確立します。
(2)注意点
この段階での曖昧さは、後のフェーズでの混乱を招きます。関係者との十分なコミュニケーションを通じて、共通理解を形成することが不可欠です。
3.2 計画フェーズ
(1)やるべきこと
・立ち上げフェーズで定義したハイレベルなスコープを詳細化し、プロダクトスコープ、プロジェクトスコープ、除外スコープを明確にします。
・ステークホルダーからの要求を収集、分析し、プロジェクトスコープに反映させます。
・WBSを作成し、スコープベースラインを設定します。
・スコープ管理計画書と変更管理計画書を作成し、スコープの管理方法と変更時の対応手順を明確にします。
(2)注意点
計画の不備は、プロジェクトの遅延や品質低下につながります。実現可能で詳細な計画を立てることが重要です。ステークホルダーの要求を鵜呑みにするのではなく、実現可能性やプロジェクト目標との整合性を考慮する必要があります。
3.3 実施フェーズ
(1)やるべきこと
・計画に基づいてプロジェクトを実行し、定義されたスコープからの逸脱がないか監視します。
・成果物を定期的に確認し、プロダクトスコープの妥当性を検証します。
・スコープ変更要求が発生した場合は、変更管理計画に従って適切に評価、承認、実施します。
・スコープクリープ(プロジェクトの進行中に、承認なしにスコープが徐々に拡大していくこと)を防止するための対策を講じます。
(2)注意点
実施段階では、当初のスコープを厳守することが重要です。安易な変更は、プロジェクトのスケジュール、コスト、品質に悪影響を及ぼす可能性があります。変更を行う場合は、正式な手続きを踏む必要があります。
3.4 終結フェーズ
(1)やるべきこと
・プロジェクトの成果物が、定義されたスコープを満たしていることを顧客または関係者に正式に確認してもらいます(成果物の受け入れ)。
・プロジェクトの成果物を最終的な顧客または担当者に引き渡します。
・プロジェクトの経験や教訓を文書化し、今後のプロジェクトに活用できるように整理します。スコープ管理の成功点や課題点も記録します。
・プロジェクトの完了を関係者に報告し、必要な手続きを完了させます。
(2)注意点
成果物の受け入れが完了するまで、スコープ管理の責任は残ります。最後まで気を抜かず、必要な手続きを確実に行うことが重要です。
4.書籍の紹介
・プロジェクトマネジメント知識体系ガイド
(PMBOKガイド)第7版 Kindle版
+プロジェクトマネジメント標準: PMI日本支部 監訳
プロジェクトマネジメント協会(PMI) (著)
一般社団法人 PMI日本支部 (2023/1/6)
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
・図解即戦力 PMBOK第7版の知識と手法がこれ1冊でしっかりわかる教科書 Kindle版
前⽥ 和哉 (著)
技術評論社 (2024/9/20)
プロジェクトマネジメントの世界標準として知られるPMBOK Guide 第7版の解説書です。「プロジェクトの基本」「価値実現システム」「12の原理・原則」などプロジェクトマネジメントの基礎となる知識のほか、PMBOK第7版のメインテーマともいえる「8つのパフォーマンス領域」について、要点をくわしく解説します。プロジェクトマネジメントの勉強のほか、PMP試験対策の第一歩としてもおすすめできる1冊です。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
・図解入門よくわかる 最新PMBOK第6版の基本 Kindle版
鈴木安而 (著)
秀和システム (2018/3/23)
PMBOKガイドは、米国プロジェクトマネジメント協会により、日本語を含め世界11ヶ国語に翻訳・出版されています。翻訳されても、専門用語が多い、カタカナ用語が多いなどの理由からなかなか理解が困難です。本書は、『PIMBOKガイド第6版』の翻訳・監訳チーム・リーダーでもある著者が、本来の意味をなるべくかみ砕いて解説します。イメージしやすいよう図版を豊富に使っているので、初心者からベテランまでわかりやすくなっています。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
・プロジェクトマネジメントの基本がこれ1冊でしっかり身につく本 Kindle版
前田和哉【著】
技術評論社(2022/06)
本書は、プロジェクトマネジメントについて基本から学ぶことのできる入門書です。プロジェクトマネジメントの基礎知識について解説した後、プロジェクトを「立ち上げ」「計画」「実行」「監視・コントロール」「完了」という5つの段階に分け、各段階において実施すべきこと、注意すべきポイントについて丁寧に解説しています。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
おわりに
プロジェクトにおけるスコープの管理について、その定義から具体的な管理方法、そしてプロジェクトマネージャーが各フェーズで注意すべき点までを解説してきました。
プロジェクトの成功は、まさに最初にしっかりと定義されたスコープ、そしてそれを適切に管理する手腕にかかっていると言えるでしょう。
スコープが曖昧なまま進行してしまうと、プロジェクトは方向を見失い、予期せぬ遅延やコストの増加、そして最終的な成果物の品質低下を招きかねません。
今回紹介したプロダクトスコープ、プロジェクトスコープ、除外スコープ、そしてステークホルダー要求スコープといった様々な視点からスコープを捉え、それぞれの管理に適切な対応を行うことが、プロジェクトを成功へと導く鍵となります。
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