実務で実際に使うPMBOK・導入で注意すべきこと - - マネジメントの道具箱
はじめに
プロジェクトマネジメントの世界では、「PMBOK」というガイドラインが広く活用されています。
これは、プロジェクトを成功に導くための標準的な知識体系をまとめたものです。
しかし、あくまでも「知識体系」であり、そのままでは実務の現場ではうまく使えません。実務に合わせたカスタマイズが必要なのです。
実際私はこのPMBOKをもとにして、社内標準としての「プロジェクト管理」の実施マニュアルを作成していました。
それは、ISO9001(品質マネジメントシステム)に則った社内規程全般の中の、ソフトウェア開発関連の実施要領のメイン部分に当たります。
まずはプロジェクトとして
・何を実施するか
・どうやるか
実施することそれぞれの
・具体的な解説(目的、概要など)
・実施手順
・標準様式
などを記載していました。
この実施要領を記述するに当たっては、PMBOKを参考にして「基本要素」を抽出しています。
あわせて、具体的な実施方法や標準様式などは、現場の様々なプロジェクトから実際にヒアリングし収集した情報に基づいて作成しています。
このPMBOKを実務の現場で使用する際に注意すべきことは多々あります。
それを含めて、ここでは解説していきたいと思います。
1.PMBOKの概要
1.1 PMBOKとは何か?
PMBOK(Project Management Body of Knowledge)は、プロジェクトマネジメント協会(PMI:Project Management Institute)が策定したプロジェクトマネジメントの知識体系です。
プロジェクトの計画、実行、監視・制御、完了といったプロセスを体系的に整理し、プロジェクトを効率的に進めるためのベストプラクティスを提供しています。
PMBOKの目的は、プロジェクトマネジメントの標準を定め、世界中のプロジェクトマネージャーが共通のフレームワークを持つことを可能にすることです。
これにより、異なる業界や企業でも一貫した手法でプロジェクトを管理できるようになります。
1.2 PMBOKの歴史と各版の特徴
PMBOKは、1987年にPMIが最初に発行したプロジェクトマネジメントの標準書です。その後、時代の変化に合わせて改訂され、現在は第7版が最新のバージョンとなっています。
(1) 第1版(1987年)
プロジェクトマネジメントの基本概念を整理
(2) 第2版(1996年)
知識エリアの追加とプロセスの明確化
(3)第3版(2004年)
プロセス間の関係性を強化
(4)第4版(2008年)
シンプルで実用的な表現へ改善
(5)第5版(2013年)
ステークホルダー・マネジメントの追加
(6)第6版(2017年)
アジャイル手法の導入
(7)第7版(2021年)
原則ベースのアプローチへ転換
1.3 PMBOK第6版の概要
PMBOK第6版は、従来のプロセス重視のアプローチを採用しています。
主な特徴
(1)10の知識エリア
統合、スコープ、スケジュール、コスト、品質、資源(リソース)、コミュニケーション、リスク、調達、ステークホルダー
(2)5つのプロセス群
立ち上げ、計画、実行、監視・制御、終結
(3)アジャイル手法の導入
従来のウォーターフォール型に加え、アジャイル型の手法にも対応
(4)プロジェクトマネージャーの役割強化
リーダーシップや戦略的な視点を重視
1.4 PMBOK第7版の概要
PMBOK第7版では、大きな方向転換が行われ、プロセス重視から原則重視へとシフトしました。
主な特徴
(1)12の原則
プロジェクトマネジメントの基本的な価値観や行動指針
(2)8つのパフォーマンス領域
ステークホルダー、チーム、価値提供など、プロジェクトの成功要因を重視
(3)アジャイルやハイブリッド手法への適応
柔軟なプロジェクト運営が可能に
(4)状況に応じた適用(Tailoring)
企業やプロジェクトの特性に合わせた管理手法の選択
1.5 PMBOK第6版と第7版の比較
【凡例 P6:第6版、P7:第7版】
・アプローチ
P6:プロセス重視
P7:原則重視
・知識体系
P6:10の知識エリア、5つのプロセス群
P7:12の原則、8つのパフォーマンス領域
・手法
P6:ウォーターフォール中心
(一部アジャイル対応)
P7:アジャイル、ハイブリッド含む多様な手法
・柔軟性
P6:比較的固定的なプロセス
P7:状況に応じた適用が可能
・主な適用対象
P6:伝統的なプロジェクト(建設、ITなど)
P7:あらゆる業界・プロジェクトに適用可能
どちらを使うべきかは、プロジェクトの性質や組織のニーズに応じて選ぶのが良いでしょう。
2.PMBOKを実務で使用する際の注意点
PMBOKを実務で使用する際の注意点を解説します。
PMBOKはプロジェクトマネジメントの標準的なガイドラインですが、そのまま適用するだけではうまく機能しないこともあります。
以下の点に注意して活用しましょう。
2.1 PMBOKはあくまでガイドラインであり、実務に合わせたカスタマイズが必要
【ポイント】
(1)PMBOKは「こうすれば必ず成功する」という絶対的な方法論ではなく、フレームワーク(枠組み)です。
(2)プロジェクトの規模、業界、組織文化によって、適用すべきプロセスや知識エリアは異なります。
(3)すべてのプロセスを厳密に適用すると、かえって非効率になることもあります。
【具体例】
(1)小規模プロジェクト
(数週間~数カ月、チーム数名)
・すべてのプロセスを適用すると過剰管理になりやすい。
・シンプルなWBS(作業分解構成)やタスク管理ツール(Trello、Asanaなど)で対応するのが現実的。
・コミュニケーション管理も文書化よりも、定期的な短いミーティングの方が効果的。
(2)大規模プロジェクト
(数カ月~数年、複数部門・ベンダー関与)
・PMBOKのプロセスを適切に組み合わせ、スコープ管理・リスク管理を重視する。
・ステークホルダー管理を適切に行い、利害関係者の期待値を調整する必要がある。
・PMBOKに準拠した文書化を行い、管理の透明性を確保する。
2.2 第6版と第7版の違いを理解し、適切に使い分ける
【ポイント】
(1)PMBOK第6版は「プロセス指向」、第7版は「原則指向」のため、どちらが適しているかを見極める。
(2)伝統的なプロジェクト(ウォーターフォール型)では第6版の考え方が有効なことが多い。
(3)変化が多く、柔軟な対応が求められるプロジェクト(アジャイル型)では第7版の考え方が適している。
【具体例】
(1)ITシステム開発(ウォーターフォール型)
・第6版の「10の知識エリア」を活用し、明確なスコープと進捗管理を行う。
・WBSやクリティカルパス分析などの手法を駆使して、プロジェクトを計画的に進める。
(2)新規事業の立ち上げ(アジャイル型)
・第7版の「12の原則」に基づき、状況に応じてマネジメント手法を柔軟に適用する。
・MVP(Minimum Viable Product)を意識し、小さなスプリント単位でプロジェクトを進める。
・ステークホルダーと密にコミュニケーションをとり、変化に素早く対応する。
2.3 組織文化やチームの成熟度に合わせた導入が必要
【ポイント】
(1)PMBOKの考え方を導入するには、組織やチームの成熟度を考慮する必要がある。
(2)プロジェクトマネジメントの知識がないメンバーに対して、過度に専門用語を使うと反発を招くことがある。
(3)いきなりPMBOKの全プロセスを導入するのではなく、少しずつ適用するのが現実的。
【具体例】
(1)プロジェクトマネジメントの知識が乏しい組織
・まずは「リスク管理」「進捗管理」「コミュニケーション管理」など、基本的なプロセスから導入する。
・会議でPMBOKのフレームワークを説明し、少しずつ馴染ませる。
・Excelや簡単な管理ツールからスタートし、徐々に高度な手法(MS ProjectやJIRAなど)に移行する。
(2)PMBOKの知識がある程度ある組織
・第6版の「プロセス」を適用しつつ、第7版の「柔軟な考え方」を組み合わせる。
・プロジェクトの特性に応じて、ウォーターフォールとアジャイルのハイブリッド型を採用する。
2.4 ステークホルダーの理解と協力を得る
【ポイント】
(1)プロジェクトマネジメントはPMだけの仕事ではなく、関係者全員の協力が必要。
(2)PMBOKに基づく管理を行う場合、ステークホルダーの理解を得ることが重要。
(3)特に、上層部(経営層・クライアント)と実務担当者との間でギャップを生じさせないようにする。
【具体例】
(1)経営層への説明
・「プロジェクトのリスク低減」「ROIの最大化」など、経営視点でのメリットを強調する。
・定例会議やレポートで、PMBOKの概念を簡単に説明し、実務に活かす方針を伝える。
(2)現場の実務担当者への説明
・過度なドキュメント作成を要求せず、実務負荷を増やさないように配慮する。
・たとえば、タスク管理ツールを使いながら、PMBOKのフレームワークを実務に適用する。
・現場の意見を聞きながら、PMBOKのプロセスをシンプル化する。
2.5 PMBOKを過信せず、実務に即したマネジメントを行う
【ポイント】
(1)PMBOKは万能ではなく、実際のプロジェクトでは臨機応変な対応が求められる。
(2)実務では「計画通りに進まないことが当たり前」という前提でプロジェクトを進めることが大切。
(3)PMBOKにこだわりすぎず、実践的な手法(リーン、スクラム、デザイン思考など)と組み合わせる。
【具体例】
・PMBOK第6版の「変更管理プロセス」に従って、変更要求を適切に処理する。
だし、実務ではスピードが求められるため、PMBOKの手続きを簡略化することも検討する。
・アジャイル的なアプローチを取り入れ、小さな変更を短期間で実装する方法を選択する。
3.関係するその他の国際規格と参考となる書籍
国際規格
(1)PRINCE2(PRojects IN Controlled Environments, 2nd version)
英国商務局(Office of Government Commerce; OGC)が開発したプロジェクトマネジメント手法。
「組織」に着目しており、「各ロールの役割と責任」を軸とした話が多いのが特徴です。特に、ユーザー・エグゼクティブ・サプライヤー・プロジェクトマネージャー・チームマネージャーなどの役割と責任範囲が明確に定義されています。
(2)ISO21500
Guidance on project management (プロジェクトマネジメントの手引き)
プロジェクトマネジメントに関するガイドラインはアメリカのPMBOKをはじめ、イギリスのBS6079、ドイツのDIN規格など、各国様々な規格が乱立しています。多くの国の技術者が協同作業を行う国際プロジェクトでは、関連する用語やプロセス概念の意味や理解が異なることが多くあります。
ISO21500はプロジェクトマネジメントに関する用語、コンセプト、プロセスの定義について、国際的な共通する理解を、基本ガイドラインとしてまとめたものです。
参考となる書籍
(1) プロジェクトマネジメント知識体系ガイド
(PMBOKガイド)第7版 Kindle版
+プロジェクトマネジメント標準: PMI日本支部 監訳
プロジェクトマネジメント協会(PMI) (著)
一般社団法人 PMI日本支部 (2023/1/6)
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
(2)図解即戦力 PMBOK第7版の知識と手法がこれ1冊でしっかりわかる教科書 Kindle版
前⽥ 和哉 (著)
技術評論社 (2024/9/20)
プロジェクトマネジメントの世界標準として知られるPMBOK Guide 第7版の解説書です。「プロジェクトの基本」「価値実現システム」「12の原理・原則」などプロジェクトマネジメントの基礎となる知識のほか、PMBOK第7版のメインテーマともいえる「8つのパフォーマンス領域」について、要点をくわしく解説します。プロジェクトマネジメントの勉強のほか、PMP試験対策の第一歩としてもおすすめできる1冊です。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
(3)図解入門よくわかる最新PMBOK第6版の基本 Kindle版
鈴木安而 (著)
秀和システム (2018/3/23)
PMBOKガイドは、米国プロジェクトマネジメント協会により、日本語を含め世界11ヶ国語に翻訳・出版されています。翻訳されても、専門用語が多い、カタカナ用語が多いなどの理由からなかなか理解が困難です。本書は、『PIMBOKガイド第6版』の翻訳・監訳チーム・リーダーでもある著者が、本来の意味をなるべくかみ砕いて解説します。イメージしやすいよう図版を豊富に使っているので、初心者からベテランまでわかりやすくなっています。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
(4) プロジェクトマネジメントの基本がこれ1冊でしっかり身につく本 Kindle版
前田和哉【著】
技術評論社(2022/06)
本書は、プロジェクトマネジメントについて基本から学ぶことのできる入門書です。プロジェクトマネジメントの基礎知識について解説した後、プロジェクトを「立ち上げ」「計画」「実行」「監視・コントロール」「完了」という5つの段階に分け、各段階において実施すべきこと、注意すべきポイントについて丁寧に解説しています。
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
(5)担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座 Kindle版
伊藤大輔 (著)
日本実業出版社 (2017/2/1)
本書は、プロジェクトマネジメントの具体的知識とツールを、「目標設定」「計画」「実行」という3つの視点を中心に解説。プロジェクトの進捗に沿って、豊富な図を使って説明しています。また著者の会社は、約2000名のプロジェクトマネージャーを育てた実績もあり、本書は現場の声を反映。ビジネスストーリーのケーススタディも掲載しています。多くの仕事や活動がプロジェクトである、と言っても過言ではありません。ビジネスマンをはじめ、プロジェクトを成功させたいすべての人、必読の一冊です!
( ※ 書籍の解説等は原則としてリンク先(Amazon)における解説をベースに記載しています。詳細内容はリンク先を参照願います。)
おわりに
プロジェクトを成功に導くためには、PMBOKの知識を理解し、状況に応じて適切に活用することが重要です。
PMBOKはプロジェクトマネジメントの強力なフレームワークですが、実務で活用する際には柔軟性が求められます。
•すべてを適用しようとせず、プロジェクトの特性に応じてカスタマイズする。
•第6版と第7版の違いを理解し、適切に使い分ける。
•ステークホルダーの理解を得ながら、実務負荷を増やさないように運用する。
これらを意識することで、プロジェクトを成功に導いていきましょう。
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