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「10 DANCE」1~8巻 感想  その1


また素晴らしい作品に出会えた!!


「10 DANCE」は社交ダンスの世界を舞台に、タイプの異なる二人の美形、杉木信也と鈴木信也が切磋琢磨し、愛し合いながら成長していく物語だ。

 私は電子書籍で1、2巻が無料配信されているのをきっかけに「10 DANCE」を読み始め、すぐに夢中になって既刊全8巻、まだ単行本化されていない#44まで1日で読了した。

 出会ってから1週間、寝ても覚めてもこの作品が頭から離れない。
 毎晩大好きなシーンを読み返しては「はーっ❤️」と幸せな気持ちになって眠る。

 こんなにエロくて、切なくて、見事に構成されたBLに出会えて本当によかった!!

青年誌に掲載されたBL


 まず、「ヤンマガ」(現在はヤンマガwebで連載中)からこんなにエロいBL漫画が出版されていることに驚いた。

 調べたら、もとは2011年から竹書房のBL雑誌「麗人」に掲載されていた作品で、2016年から「ヤングマガジンサード」に移籍されたのだった。

 このことを知って、よしながふみ先生が「『きのう何食べた』を最初はBL誌で連載したかったけれど結局青年誌(モーニング)になった」、と話されていたことを思い出した。(BL進化論[対話篇]溝口彰子より)

 よしなが先生は「結果的には青年誌に載ったために、違う方向性で多くの方に読んでいただけた」ともおっしゃっていて、確かにBL誌に掲載されていた場合よりも幅広い読者の目に作品が触れ、ファン層が広がるきっかけになったと思う。

「きのう何食べた」の実写ドラマ、映画は本当に素晴らしく、大好きな人とともに暮らし、一緒にご飯を食べる、そんな何気ない日常の中に幸せがあることを漫画とは違った形で教えてくれた。

「10 DANCE」も2025年12月からNetflixで実写映画の配信が予定されている。映像化を機に原作ファンが増えてくれたら嬉しい。

「10 DANCE」の2巻のあとがきに「BLでは女子を目立たせないようにとずっと注意されていた」書かれていたことにもハッとした。

 これは作品が「麗人」に掲載されていた2013年頃の風潮なのか、それともBL誌には今でもそういう注意はあるのだろうか。
 
 この点についても、よしながふみ先生が「主要キャラクターに女性がいると『どういう扱いになりますか』と担当さんの警戒心が強まりました」とおっしゃっていたこと思い出した。(「あの頃のBLの話をしよう」)

 BL漫画はなぜそんなに女性キャラに対して排他的なのだろうか。

 人類の半分は女性で、BL読者の大半も女性なのに「女は見たくない」と?

 主役二人の邪魔をする女性キャラの場合は読者のヘイトを集めるだろうが、それはそれでストーリーの構成要素としては使えるし、私は女性キャラをうまく使った方が物語の厚みが増すと思う。

「10 DANCE」では杉木、鈴木それぞれのパートナーである房子とアキ、それから杉木のコーチャーであるマーサが物語の鍵となる役を担う。

 杉木のパートナーである房子がラテンダンスの表情を作るのに苦労し、結局鈴木を自分に憑依させることで「悪い顔」を手に入れるエピソードが可愛くて私は好きだ。

 作品ごとに事情は異なると思うが、もしもBL誌ならではの制約があるのならば、青年誌に掲載の場を移したことで作者様がより自由に創作できるようになったことを願うばかりである。

「やおい」の系譜

 
「10 DANCE」を読み始めてすぐ、初めて読む物語なのになぜか懐かしく、しっくり馴染むものを感じた。
 その正体は「やおい」感だった。

「10 DANCE」には、まだBL(ボーイズラブ)という言葉が存在せず「やおい」(元はヤマなし、オチなし、意味なしの略)と呼ばれていた頃の(多くは少年漫画の)二次創作に通じるものがある。

 スポーツや戦闘の世界で生きる男性キャラ達が、ライバルとして互いに反目し合ったり仲間として協力し合ったりしながら、強固な絆によって結ばれていく関係性に、私たち腐女子は「愛」を見出す。
 こんなにも真摯で強い結びつきがただの友情であるはずがない、と。

 こういう関係は少年漫画以外にもあって、「ガラスの仮面」の北島マヤと姫川亜弓、「のだめカンタービレ」ののだめと千秋先輩も同様に演劇、音楽という世界で生きるライバルであり、誰よりもわかり合える同志だ。
 のだめと千秋のように性別が異なる二人の場合、そこに恋愛要素が入り込んでも一般読者は少しも違和感を覚えないだろう。

 同じ分野に人生を捧げる同志かつライバルかつ恋人、という関係は私にとって理想の絆の極北で、その意味で「10 DANCE」は好みど真ん中でもあった。

 読み進めていくと、杉木と鈴木の関係性は当初の予想以上に複雑化していき、「初めて男性を愛する」ことに対する二人の戸惑いと混乱が私を悩ませた。
 出会ってから3巻までのイチャイチャから一転、相手への想いの違いから5巻末では愛し合っているのに苦しみながら別れ、それでもどうしても求め合ってしまう二人の愛に私は翻弄され、すっかり夢中になった。
 
「やおい」の核心を受け継ぎつつ、緻密に構成されたストーリー、圧倒的な画力、繊細な心理描写を併せ持つ「10 DANCE」は紛うことなき現代BLの傑作だ。

「10 DANCE 」には2つの重要なテーマがある。
 ひとつ目は彼らの仕事であり、人生の中心であるダンスの世界、そしてもうひとつは男同士のラブストーリーだ。

なぜ杉木と鈴木は10DANCEを目指すのか

 
 社交ダンスには2種類のダンスがある。
 一方はスタンダード(S)でワルツ、タンゴ、ヴェニーズワルツ、スローフォックス、トロット、クイックステップの5種、もう一方のラテンアメリカン(L)はチャチャチャ、サンバ、ルンバ、パソ・ドブレ、ジャイブの5種で競う。
 このSとLのダンサーは普段は競い合わないが、唯一「10 ダンス」の大会においてのみ全10種類のダンスで競い合う。

 物語は、Sの帝王杉木信也がLの日本チャンピオン鈴木信也を10ダンスに誘うことから始まる。

 しかし、この時の鈴木には世界に出たいという野心がない。
 鈴木はキューバに残してきた母と妹に仕送りするお金を得るために競技ダンスをしていたのだった。

 渋る鈴木を杉木は煽り、闘争心に火をつけることで半ば強引に10ダンスの世界に誘っていく。

 互いのパートナーを含めた4人での練習の後、杉木と鈴木は深夜二人きりでダンスの特訓をするようになる。

 一文字違いの名前と同じような体格を持ちながら、性格とダンスのスタイルは真逆の二人は、初めは反発し合うもののやがて強く惹かれ合っていく。

 まだ原作中で明言はされていないが、杉木の目的は自分が「10ダンス」で優勝することではない。

 杉木は鈴木を育て、「10ダンス」で優勝させようとしている。

 この物語の中心は、天才的なダンスの才能を持ちながらも本気でダンスと向き合わず、世界に挑戦する意志のなかった鈴木が、杉木の導きによって成長し「10ダンス」の頂点に立ち、ひいては社交ダンスに興味のない一般の人々にも広く認知されるスーパースター、「ダンスの神」になっていく過程にある。

 杉木はダンス教師の母のもとに生まれ、5歳からイギリスのダンスコーチャーであるマーサの家で育てられ、競技ダンサーとしてのエリートコースを辿ってきた。

 その力強くエレガントな踊りは人々を魅了し、イギリスで開催される主要な3大会を制し、「ブラックプールの帝王」の異名を取っている。

 しかし、そんな杉木が世界大会でだけは優勝することができない。

 叔父をダンス界の有力者として持つジュリオにどうしても勝つことができないのだ。

 杉木は自分を取り巻くダンス界の不条理を知りながら、それでも1位を取ることを諦めない。
 かつ、その不撓不屈の姿勢こそが観客を魅了し、自分のダンスをエンターテイメントとして成り立たせていることも理解している。

 杉木が引退を考えていた時、まだアマチュアだった鈴木のラテンダンスを偶然垣間見て杉木は救われる。

 杉木にとって鈴木は「僕の憧れ」、畏怖すべき「ダンスの神様」だったのだ。

 杉木は鈴木にスタンダードを教え、自分の持つコネクションを利用して、かつてライバルだったノーマン、元ラテンチャンピオンのニーノ、デザイナーのファビオスらのバックアップを得て、鈴木をチャンピオンに押し上げるチームを作り上げる。

 そんな中、アメリカの富豪マックスは杉木を気に入り、鈴木のパトロンになる代わりに杉木を自分の側に置き、ついには後継者として帝王学を伝える気になった。

 賢い杉木はマックスの支援を得て、ダンス界を裏側から変えていく力を得るだろう。
 今後「ダンスの神様」として君臨する鈴木を支えるために。

 杉木はロンドンインター8連覇中のスタンダードの帝王だが、業界の停滞を懸念するダンス業界のお偉方や尊敬するコーチャーマーサから引退を勧告される時期にきており、両膝の痛みも抱えている。

 体力的に「10ダンス」に耐えられるのか、途中で膝が傷むのではないか私は心配している。

 杉木はマーサに「引退は待ってください。まだやり残したことがあるんです」と言う。
 
 それは自分が極めたスタンダードを鈴木の体の中に残し、彼をチャンピオンにしてから引退することなのだろう。

 一方の鈴木は、ダンスに全てを捧げる杉木の情熱に触れ、ラテンの現・世界チャンピオン、アルベルトとの対決を通して、ダンスへの情熱を掻き立てられていく。

 ラテンの元・チャンピオンであるニーノ、スタンダードの元・チャンピオンノーマンという最強コーチャーの指導を受け、鈴木は持って生まれた才能を開花させて、これから世界に羽ばたいていくのだろう。
 
 #40で鈴木のダンスに惚れこんだニーノが「スタンダードD級でも10ダンスに出られるようにする」と断言していて、これで杉木と鈴木が10ダンスに出場する土台は整った。

 公式戦では互いのパートナーと踊って競い合い、おそらく鈴木が優勝、杉木が2位になるのだろうけど、優勝者によるオナーダンスでは、杉木と鈴木がペアを組んで、男性同士のダイナミックで美しい愛に溢れた踊りを披露してくれるのではないかと期待している。

 きっとその場面にはマーサの

ダンスは技術でも体力勝負でもない 愛をもって完成します

3巻特別編「夜のタンゴ」

という言葉が浮かぶのだろう。

 私自身、人生の半分以上バレエをやっていて、舞台を観るのも大好きなバレエファンだからよくわかる。

 技術や演技はとても大切だけど、結局人を感動させるのはダンサーの情熱、鍛え上げられた肉体の内側から溢れる心なのだ。

 特にペアで踊る場合、相手への信頼と理解がなければ最高のダンスは生まれない。

 愛によって強く結ばれた二人のダンスが、観客の心に生涯忘れられない感動を刻み込むのが見えるような気がする。

 10ダンス大会後、おそらく杉木は引退し、鈴木はダンスの神様としてCMなどにも出演し、広く一般市民にも知られる存在となるだろう。
(大会後の二人については、1巻ラストの特別編「Samba de men’s love」に描かれている)

 スタンダードの帝王として一世を風靡した杉木が、一般人には「そっちは知らない」などと言われてしまうのは残念だが、ダンスファン以外の人からしたらこんなものだろうな、と理解はできる。

 それから、二人は鈴木の故郷・キューバに行って、鈴木の母や9人の妹に温かく迎えられるに違いない。

 太陽と澄み渡った青空、透き通るような紺碧の海、真っ白い砂浜できっと二人は手を取り合い、すべてから解放されて心の底から楽しんでダンスを踊ることだろう。

 そんなシーンを夢見ながら、物語の続きを追いかけたい。


次回、「感想その2」では、最重要テーマである「愛」について書きます。


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