今日のワイン|食事に合わないのに67点。おたるナイヤガラが教えてくれたこと
食事に合わないのに、なぜか印象に残るワインがある
ワインを選ぶとき、私はいつも夕食のことを考えています。
今夜は鶏肉を焼くから白かな、パスタだから軽めの赤かな。そうやって料理から逆算して選ぶのが、私なりのワインとの向き合い方でした。ワインは食事を引き立てるもの。そういう前提が、気づかないうちに染みついていたのだと思います。
だから、おたるナイヤガラを初めて手に取ったときも、同じように考えていました。
スーパーのワインコーナーで、緑色のラベルが目に入りました。北海道ワイン、おたるナイヤガラ。1,479円。棚の中ではやや高めの価格帯ですが、日本ワインということで気になって手に取りました。ナイヤガラという品種は聞いたことがある。ぶどうっぽい甘い香りがするやつだ、と朧げに記憶していました。
その日の夕食は、ほうれん草と豚肉の炒め物でした。
特別なわけでもなく、でも悪くない、いつもの食卓です。白ワインだし合うだろうと思いながら、グラスに注いで、一口飲みました。
口に広がったのは、マスカットのような甘くて華やかな香りでした。フレッシュで、みずみずしくて、アルコールの重さをほとんど感じない。思わず「あ、おいしい」と声が出るほどでした。
ところが次の瞬間、箸でほうれん草を一口食べて、またワインを飲んだとき、何かがずれる感覚がありました。
おかしいな、と思いました。ワインはおいしい。料理もおいしい。でも一緒に飲むと、何かお互いが干渉し合っているような、微妙な引っかかりがあるのです。味噌の風味がワインの甘さと競い合って、どちらも主張しすぎているような印象。料理を食べてワインを飲むたびに、その引っかかりが積み重なっていきました。
飲み終わったあと、私はしばらく考えました。このワイン、おいしかった。でも食事と合っていたかというと、正直そうでもなかった。不思議な体験でした。
記録をつけているので、その夜のスコアを入力しました。味・飲みやすさ:34点(40点満点)。気分との相性:25点(30点満点)。食事との相性:2点(20点満点)。値段への納得感:6点(10点満点)。合計67点。
改めて数字を見て、自分でも驚きました。食事との相性が2点。20点満点中の2点です。ほぼゼロに近い。でも合計は67点ある。味と気分のスコアが高かったから、全体としては中位に収まっていたのです。
この矛盾した数字が、ずっと引っかかっていました。食事に合わないのに、なぜ67点なのか。そしてそれは、果たして問題なのか。この記事はそこを考えてみた記録です。
データの公開——17本のスコア表
私が記録をつけ始めたのは、自分のワインの好みをちゃんと把握したいと思ったからでした。
おいしいと感じても、なぜおいしいのかがよくわからない。値段が高ければおいしいのか、産地で変わるのか、品種で違うのか。感覚だけで飲んでいると、そういうことが見えてこない。だから4つの軸を決めて、毎本スコアをつけることにしました。
軸は4つです。味・飲みやすさ(40点満点)、気分との相性(30点満点)、食事との相性(20点満点)、値段への納得感(10点満点)。合計100点満点。配点は、日常的に飲む自分の優先順位を反映しています。味が一番大事で、気分や場の空気も無視できない。食事との相性も大切だけど、絶対ではない。そういう考えが数字に出ています。
現在17本のデータが溜まりました。以下が全記録です。

この表を眺めると、あることに気づきます。
食事との相性の列を見てください。
最下位以外の16本は、12点〜18点の間に収まっています。最高が18点、最低でも12点。ばらつきはあっても、似たような水準です。ところがおたるナイヤガラだけが、2点という突出した低さを記録しています。16本の最低値が12点なのに、ナイヤガラだけが2点。この孤立した数字が、表の中でひとつだけ浮いて見えます。
合計点では17本中12位。下から6番目です。ただ最下位ではなく、中位から下の境界あたりに位置している。これが不思議なところで、食事軸だけを見ると圧倒的な最下位なのに、合計ではそこまで沈んでいない。味と気分のスコアが、食事軸の低さを補っているからです。
世間の評判と照らし合わせてみた
データを眺めながら、ふと気になりました。この食事との相性2点という評価、私だけが感じたことなのか。それとも世間的にもそういう認識なのか。
おたるナイヤガラについてのレビューや商品説明を読んでいくと、一つの言葉が繰り返し出てきます。
デザートワイン。食前酒。甘口。
「食事よりデザートのほうが相性がいいと思います」
チーズケーキやフルーツタルトとの組み合わせが推奨されていて、食事のおかずと合わせる飲み方はあまり前提にされていないようです。
さらに驚いたのは、メーカー自身の説明でした。似た品種のナイヤガラを扱うワイナリーの商品ページには、
「食前酒として、またはデザートと合わせてお楽しみください」
と書かれています。つまりメーカーも、食事との相性ではなく、食前やデザートとしての飲み方を前提にして売っているのです。
私の食事合わせ2点という評価。これは私の舌が特別にナイヤガラに合わなかったのではなく、そもそもナイヤガラというワインは食事に合わせて飲む種類のものではない、ということを意味していたのかもしれません。
考えてみれば、ナイヤガラはやや甘口の白ワインです。甘みの強いワインは、塩気や旨味の強い料理と一緒に飲むと、互いに干渉しあってどちらも美味しく感じにくくなることがあります。
つまり私のスコア2点は、ナイヤガラの欠点を表しているのではなく、飲み方の問題を正確に記録していたのだと思いました。
データと一般的な評価を並べると、そういう結論が導かれます。
ここからは私の考察です。
では、食事に合わないとわかっていても67点という数字は何を意味しているのか?
考察|なぜ食事に合わないのに67点なのか
データと一般評価を眺めながら、ぼんやり感じていたことをまとめてみます。
まず、仕組みとして説明できることがあります。
私のスコアは4軸で構成されていて、食事との相性は20点満点、全体の20%を占めるに過ぎない。
残りの80%は味・飲みやすさ(40点)、気分との相性(30点)、値段への納得感(10点)で決まります。
おたるナイヤガラは食事軸で2点しか取れませんでしたが、味で34点、気分で25点、値段で6点を稼いでいました。合計67点は、この3軸の合算がしっかり機能した結果です。
構造上そうなるのは当然かもしれません。ただ私がおもしろいと思うのは、その設計自体が自分の無意識の優先順位を反映しているということです。
私がワインを飲むとき、一番大切にしているのは「おいしいかどうか」です。
この基準は一般的な評価項目とは違っていると思われます。
実際、ソムリエの方やエキスパートの方はアタック、酸味、甘味、渋み、コク、バランス、余韻、香り、色調、粘性など、様々な項目を評価すると思います。
口に含んだときの満足感、飲み続けたいと思えるかどうか。次に「今の気分に合っているか」。疲れた夜に飲みたいワインと、気分が上がっているときに飲みたいワインは違います。食事との相性は確かに大事ですが、それは全部ではない。私のスコア設計は、そういう感覚を正直に数値化したものでした。
仮説1: おたるナイヤガラは食事と相性がよくない
当たり前に聞こえるかもしれませんが、意外と見落としがちなことだと思います。私は最初に評価した夜、炒め物のそばにナイヤガラを置いてしまいました。笑
白ワインだから合うだろうという思い込みで。でも本来このワインは、何も食べずに一杯目として楽しむか、食後にチーズケーキやフルーツと一緒に飲むものでした。使い方を間違えたのかもしれません。
仮説2: 食事との相性がなくても「体験として十分」なワインがある
おたるナイヤガラは、抜栓した瞬間にふわっと広がったマスカットの香りがします。
口に入れたときのフレッシュな甘み、アルコールを感じさせない軽さ。食事と合わなかったことは確かでしたが、そのワイン単体の体験は印象的でした。67点という数字は、その印象の重さがちゃんと反映された結果だったのかもしれません。
仮説3: 食事に合わせること自体が、ワインの楽しみ方のひとつに過ぎない
17本のデータを眺めると、食事軸の平均は約13点(20点満点)です。おたるナイヤガラの2点は明らかに外れ値ですが、それを除いても残りの16本の平均は14点前後。全員が高得点というわけでもありません。そもそも食事との相性は、飲み方や料理の組み合わせ次第で大きく変わる軸です。料理が変われば評価も変わる。完全に固定できる数字ではない。だとすれば、食事との相性が低いことは「そのワインが悪い」ということではなく「その飲み方で合わなかった」ということに過ぎないのかもしれません。
3つの仮説はどれも確信ではありませんが、共通して言えるのは、ワインを評価するときに「食事に合うか」を唯一の基準にするのは、少し視野が狭いかもしれません。
あなたのワイン選びに使えるヒント
この考察から、自分のワイン選びに使えそうなことを3つまとめてみます。
ひとつ目: 今夜の「ゴール」を決めてから選ぶ
スーパーのワインコーナーに立つとき、多くの人は何となく料理との相性で選ぼうとすると思います。私もずっとそうでした。でも実は、その前に決めるべきことがあります。今夜ワインを飲む目的は何か、ということです。食事をもっとおいしく飲みたいのか、食後にゆっくり一杯楽しみたいのか、疲れた気分を切り替えたいのか。ゴールが決まれば、選ぶべきワインが変わります。おたるナイヤガラのような甘口ワインは、食事と合わせる用途では力を発揮しにくいですが、デザートに添えたり、食前に一杯飲んで気分を上げたりする用途では抜群の存在感を発揮します。
ふたつ目: ラベルの甘口・辛口表示を食事選びの最初のフィルターにする
甘口ワインと塩気の強いおかずを合わせると、私が経験したように「干渉し合う」感覚が生まれやすくなります。ペアリングに慣れないうちは、食事に合わせるなら辛口、デザートや食前酒なら甘口、という大まかな区分けを持っておくだけで失敗が減ります。ラベルにやや甘口・甘口と書いてあるワインを手に取ったら、今夜の夕食に合うかを一度立ち止まって考えてみてください。次にスーパーでナイヤガラを見かけたら、週末の夜にチーズケーキを買ってくる口実にするのがいいかもしれません。
みっつ目: 気分や香りでワインを選んでいい、という許可を自分に与える
料理との相性ばかりを考えていると、ワインを選ぶことが義務みたいになってきます。合わなかったらどうしよう、という不安が先に立つ。でも17本飲んできて思うのは、ワインの楽しさの大部分は「今夜これを飲んでみたい」という単純な気持ちから始まっているということです。おたるナイヤガラのあの夜、食事には合いませんでしたが、抜栓した瞬間の香りは本当に良かったです。笑
そういう体験も立派なワインの記憶です。完璧なペアリングを目指さなくていいし、合わなかったとしても、それは次の選び方を教えてくれる経験になります。
ワインは正解を求めなくていい
炒め物のそばに、甘口の白ワインを置いて飲んだ夜。
食事との相性は2点しかつけられませんでしたが、グラスに注いだときのマスカットの香りは、ちゃんと記憶の中に残っています。数字は正直で、でも数字だけでは語れないものもある。67点という記録は、そのワインとの夜の総体でした。
スコアをつけ始めた頃、私は数字に答えを求めていたような気がします。何点以上なら買い、何点以下なら次はいい。そうやって基準を持てば迷わなくなると思っていました。でも17本飲み続けてわかったのは、数字は手がかりであって、答えではないということです。同じワインでも、飲む料理が違えば評価が変わる。気分が違えば感じ方が変わりますし、食事と相性が悪くても、印象に残る夜はあります。
おたるナイヤガラは、私の評価軸の外側にあるおいしさを持っているワインでした。デザートに添えて飲んでみたら、また別のスコアがつくかもしれません。そのときは、今夜の食事ではなく、食後の静かな時間のゴールを持って選んでみようと思います。
ワインを選ぶことに、完璧な正解はないのかもしれません。でも次の1本を開けるのが少し楽しみになる、そういう感覚は確かにあります。
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