米国によるイラン攻撃~核不拡散に逆効果
核兵器というのは、人類が作り出してしまった最悪のものかもしれません。しかしながら、作り出してしまった以上は、それを無くすことができるまで、適切に管理し、着実に減らしていかねばなりません。
今回、米国(およびイスラエル)がイランに対する軍事攻撃に出たことは、明らかに自衛権行使の範囲を逸脱しており、国際法違反であることは確実だと思います。また、イランによる反撃も含めて、中東情勢が極度に悪化し、多くの市民が犠牲になることが懸念されます。
攻撃にあたって、トランプ大統領は、イランによる核兵器保有を阻止するとしていましたが、これはかえって世界における核不拡散に逆行しかねない誤った判断であったと思います。
(見出し画像は、米イスラエル首脳会談時のもの。ホワイトハウスHPより)
核兵器は安全保障の手段
核兵器保有にかかる当面の理想は、NPT(核不拡散条約)体制によって核兵器国とされている国のみに核兵器保有を限定することです。しかしながら、すでにNPT体制の外で核兵器を保有している国、保有していると疑われる国、そして保有を目指していると疑われる国があります。
核兵器を保有する国があるのは、それがその国の安全保障のために不可欠と考えるからです。例えば、インド、パキスタンはNPT非加盟であり、核兵器を保有しています。しかし、核兵器保有国である中国と一定の緊張関係にあるインド、そしてそのインドと緊張関係にあるパキスタンが、核兵器保有を必要と考えることは、理解はできます。
イランにとっても同様の状況があるわけです。イスラエルは核兵器を保有していることが確実視されています。それを踏まえれば、イスラエルと敵対するイランが核兵器を保有しようとしていたとしてもおかしくありません。2002年にイランに未申告核施設があることが発覚し、「やはりそうだったか」と国際社会は思ったわけです。
しかし、イランが核兵器開発をしていた(いる)という明確な証拠はありません。IAEAによる調査でも、過去に「可能性調査」「科学的研究」の範囲内の活動が行われていたものの、核物質の軍事転用を示す兆候はないと結論づけています(15年12月)。結局のところ、「核兵器開発をしていないなら、なぜIAEAに施設を申告しなかったんだ」という「疑念」にとどまっています。イラン自身は、平和利用のための「核開発」は行っているが、「核兵器開発」は行っていないとしています。
イラン核合意
その状況において、国際社会の疑念・懸念を解消ないし低減させるとともに、イランによる原子力の平和利用の権利を確保するためのものが、2015年のいわゆる「イラン核合意」だったわけです。
2002年の未申告施設発覚以降、国連安保理によるイラン非難や制裁が累次にわたって決議され、イラン経済は大打撃を受けました。しかし、核疑惑については状況が改善しませんでした。その後、米国で09年にオバマ大統領が就任し、イランとの対話姿勢をとってから、外交による解決の機運が高まりました。特に13年にイランで穏健派のローハニ大統領が選出されると、交渉プロセスが前進しました。
それまで、イランの技術及び濃縮ウランの貯蔵状況から、2~3か月あれば核兵器の製造が可能と見られていました。そこで、ウラン濃縮活動等に制限をかけるなどして、「たとえイランが核兵器製造に踏み切ったとしても完成までに1年以上を要するような状況」にしておくことで、国際社会の懸念に対応することが目標とされました。
専門家も含めた詳細な協議を繰り返し、合意後15年間にわたり、ウラン濃縮は3.67%までの低濃縮とされ、その貯蔵量・場所、濃縮のための遠心分離機の型や数、使用済み燃料の国外処理、これらのIAEAによる査察など、細かに条件を設定することで、合意が成立しました。この内容はイランと米国政府の間の微妙なバランスの上にどうにか合意したものでした。この内容でも米国議会では反対が過半数でしたが、大統領権限によって議会を通し、本当にぎりぎりのところでどうにか実現しました。
トランプ大統領による合意の破壊
外交交渉というのは、どちらか一方が100%満足するということはあり得ません。関係国それぞれがある程度譲り合うことで合意が成立し、そしてそのような合意こそが長続きする合意なのです。
イラン核合意に盛り込まれた細かい数字や期間が、どのような交渉によってその最終形に落ち着いたのかは明らかになっていませんが、「3.67%」という数字からも伺えるように、本当にぎりぎりのところで調整がなされて合意されたものであることは確かです。
イランに対し一定の核関連活動は認めているわけで、核兵器製造の可能性をすべて根絶するものではありませんでした。また核兵器の運搬手段であるミサイル開発は対象となっていませんでした。しかし、核兵器製造を著しく困難にするものであったことは確かです。そうすることで、イランをNPT体制にとどめ、またIAEAの査察下に置くことができる。そのメリットは大きいでしょう。
それに対して、トランプ大統領は「(イラン核合意は)一方的で最悪の合意で国辱もの」と非難しました。トランプ大統領も第一次政権の1年目では、周囲の「まともな」閣僚らの尽力もあって、しぶしぶ核合意を認めていましたが、18年5月についに合意からの離脱を表明します。トランプ大統領が親イスラエル政策の度合いを強めていった時期と重なります。(イスラエルは、当初よりイラン核合意に強く反対していました。)
再び不安定化するイラン核問題
米国の離脱前においては、イラン側はおおむね核合意を順守していました。わずかに重水の保有量が短期間基準を超えたことはありましたが、IAEAも他の当事国も大きく問題視するほどの違反ではありませんでした。
しかしながら、米国の離脱によって米国の対イラン制裁が復活し、イラン経済はまたも打撃を受けます。イランはその後もしばらくは合意順守を継続していましたが、徐々に濃縮活動の制限を超えるようになり、20年には濃縮活動の制限撤廃を宣言。さらにはNPTからの離脱もほのめかすなど、再びイラン核問題は不安定になりました。
トランプ第一次政権後、21年のバイデン大統領の就任を受け、イランとの間の交渉が模索されましたが、同年、それまでイランで核合意を主導してきたローハニ大統領が任期を終えて退陣したこともあり、具体的進展はありませんでした。
そして迎えたトランプ第二次政権。トランプ大統領は、一応交渉姿勢を見せましたが、軍事力をちらつかせながらの威圧的な交渉を行い、それが奏功しないと見るや軍事攻撃に出て、ハメネイ最高指導者ら主要なイラン指導層を排除したのです。
15年の核合意成立までにきわめて微妙で精緻な交渉が行われていたことを踏まえれば、勝手に離脱したトランプ大統領が脅迫まがいの姿勢で再交渉を迫るのは、明らかに不当です。そのようにして仮に合意が成立したとしても、それは決して長続きするものではありません。そもそも米側に交渉によって解決する意図などなく、軍事力を中東に集結させるための時間稼ぎであった可能性さえあります。
言ってみれば、関係国の間の精緻な設計によってつくられた微妙な核合意を、トランプ大統領が事実上破壊し、それによって不安定化した状況を打開するために軍事攻撃に出たわけです。
核武装のインセンティブに
核兵器を放棄したウクライナは核兵器国ロシアに侵略され、核兵器を未だ持たないイランは核兵器国米国と核兵器保有を確実視されているイスラエルによって軍事攻撃されています。つまり、今世界では核兵器国が核兵器非保有国を攻撃しているのです。
トランプ大統領は、イランのようなテロ支援国家に核兵器を持たせるわけにいかないと主張しています。ハメネイ氏を排除して、イラン国民が立ち上がるチャンスを与えるのだそうです。
では、プーチン氏や金正恩氏はいいのですか? よっぽど、そっちを何とかしてほしいと思っている人は多いのではないでしょうか。
核兵器を持たない国は攻撃され、持っている国(ロシア、北朝鮮のように)は、どんなにひどい国でも攻撃されない。これでは、どこの国も自らの安全保障のために核兵器を持たねばならないと思ってしまいます。北朝鮮は、自らの核兵器保有とその能力強化の方針の「正しさ」を改めて認識したと思います。
米国らによる今回のイラン攻撃が、本当にイランの核問題の解決につながるのかよくわかりません。新たなイランの政治体制がどのようなものになろうと、国としての安全保障が必要です。そのために核兵器が必要ということになれば、核兵器保有の誘因は残るわけです。困難な課題ですが、イスラエルとイランの双方が核兵器(開発)を放棄することを追求すべきなのだと思います。
ロシアによるウクライナ侵略につづき、今回の米国・イスラエルの行動は、安全保障のために核兵器が重要な役割をになうことを、むしろ世界に強く印象づけ、皮肉にも核兵器の存在意義を高めてしまいました。
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