【人生の栞】光の射す場所へ —— 21歳の脱出と、一台のカメラが教えてくれたこ
前回のお話はコチラです。
はじめに:あの日の「通帳」が教えてくれたこと
こんにちは、てるてるです。
私にとって「お金」とは長い間、いくら手を伸ばしても超えられない、高くそびえる分厚い曇りガラスのような存在でした。
母子家庭で育ち、経済的な厳しさを幼い心に刻みながらも、私は「教員になりたい」という夢を大切に抱き続けてきました。
不登校という長いトンネルを抜けた先に待っていたのは、都会の大学へ進む友人たちの眩しい声と、私の前で静かに閉じられた進学の扉。
それでも諦めきれず、3年間、自分の時間を一滴も残さず差し出すように、アルバイトを掛け持ちしました。
一円一円に祈りを込めるようにして積み上げた大切な通帳。
その重みだけが、私の未来を繋ぎ止める唯一の「栞」でした。
けれど21歳のとき、家庭の風景は一変します。
新しく手にした幸福のまぶしさの中で、母の耳には、娘たちの切実な声はもう届かなくなっていました。
自分の居場所がじわじわと濁っていくような息苦しさの中で、私は決断します。
夢のための貯金を、今を生き抜くための「自由」へと変えること。
3年間の汗の結晶を切り崩し、わずか一週間で家を飛び出しました。
通帳の残高は大きく減ってしまったけれど、誰に気兼ねすることなく灯りを消せるアパートの静寂。
それは、大切な何かを差し出してようやく手に入れた、私にとって初めての「自分の人生」の始まりでした。
差し出された「時間」という贈り物
あのアパートの静寂の中で、私はもう一度、自分との約束を書き直しました。
生きるために働き、削り取られた貯金を少しずつ埋め戻す日々。
それから数年、私の停滞していた時間を動かしたのは、後に夫となる一人の男性との出会いでした。
「応援するよ。一緒に住む?」
私の胸の奥に澱(おり)のように溜まっていた後悔をこぼしたとき、彼は驚くほどあっさりと言ってくれました。
常に「食べること」を優先し、自分一人の力で立つことだけを考えてきた私にとって、誰かに生活を支えてもらうことは想像もつかないことでした。
けれど、彼が差し出してくれたのは、単なる金銭的な助けではありません。
それは、私が再び夢を追いかけるための「時間」と「安心」という、何より尊い心の余白だったのです。
彼の支えに背中を押され、私はついに、一度は諦めた大学の門をくぐりました。
初任給、一円の重みが変わった日
春、念願の教壇に立った私は、人生で初めて「教員としての初任給」を手にしました。
かつて21歳の私が、生きるために切り崩したあの貯金。
あの時の一円は、逃げ場のない荒波のような日常から、自分を守り抜くための「盾」でした。
けれど今、私の手にある一円は、大切な誰かへ感謝を届けるための「光」に変わっていました。
「何が欲しい? 何でも言って」
支え続けてくれた彼に、精一杯の感謝を込めて尋ねました。
時計や財布、何か形に残るブランド物だろうか。
そう予想していた私に、彼が返したのは意外な言葉でした。
「カメラ、かな」
何を撮るのだろうと不思議に思いながら買った、一台のデジタルカメラ。
それが、私の人生で最も意味のある買い物になりました。
10年、同じ光の中で
「毎週日曜日、同じアングルで写真を撮り続けよう」
彼の提案で始まった、ささやかな習慣。
場所は、自宅の一角。
窓から差し込むやわらかな自然光の中で、私たちはシャッターを切り続けました。
恋人から夫婦になり、やがて子どもが生まれ、家族のカタチは少しずつ変わっていきました。
気づけば10年。
古くなったデジタルカメラの中には、とんでもない枚数の記憶が積み重なっています。
今のスマホの方が、きっと綺麗に撮れるでしょう。
それでも、私たちはこのカメラを手放しません。
そこには、私を支えてくれた彼の献身と、彼が何より大切に残したかった「家族の軌跡」が、すべて詰まっているからです。
おわりに:本当の豊かさの正体
夫はよく「軌跡を残したいんだ」と言います。
あの時、もし彼に私を支える心のゆとりがなかったら。
そして、もし私が初めて手にした対価を、自分のためだけに使い果たしていたら。
この10年の景色は、存在していなかったはずです。
私にとって、お金を使うこと。
それは、単に物を所有することではありません。
誰かを支え、大切な人との時間を「記録」という形に変えて、未来へ橋を架けていくこと。
シャッターを切るたび、私は思い出します。
豊かさとは、口座の数字ではなく、積み重ねてきた「思い出の重さ」そのものなのだということを。
▶今日の旅のページ、いっしょにそっと閉じましょう。
また次のページも、ゆっくりめくりに来てください。
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最後まで読んで頂きありがとうございます💐頂いたチップは、祖母へのお花のプレゼントに変えて、そっと想いを届けたいと思います🌼温かなお気持ち、本当にありがとうございます。