本雑綱目 101 柳生宗矩 兵法家伝書 付 新陰流兵法目録事
今回は渡辺一郎校注、柳生宗矩『兵法家伝書 付 新陰流兵法目録事』です。
岩波文庫 緑 26-1、ISBN-13 : 978-4003302613。
NDC分類では789。芸術. 美術>武術
前提知識必要度(古い文章):★★☆☆☆
注釈がある(あまり役にたたないかもしれない)から古語辞典がいるほどではないけど、古文が苦手なら嫌かも。というか武術が芸術・美術カテゴリに入っていた驚き。
これは乱数メーカーを用いて手元にある約6000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。時々恣意的に選んでいることもあります。
★図書分類順索引
1.読前印象:柳生宗矩 兵法家伝書 付 新陰流兵法目録事
柳生宗矩は将軍家の剣術指南役、柳生新陰流を確立した。いろいろ小説や映画になってはいるけれど、僕は本当に江戸時代の知識がないのだ。前から手元にあるけれど改めて読むのは初めてな薄い本。
とりあえず開いてみよう~。
2.目次と前書きチェック
前書きはない。
目次は『兵法家伝書』の中に進履橋、殺人刀、活人剣、『新陰流兵法目録事』となっている。目録事は絵巻で構え等がついている。現代語ではないけれど行間がすごい広いんだよな。だから『兵法家伝書』を全部読むことにする。
いつも通り前段はまとめ、後段は感想・雑感。
3.中身
『進履橋』について
上泉伊勢守秀綱の伝による新陰流兵法の書の概要。初めに三学として身構、手足、太刀から学ぶ。身構は敵に切られないようにする。心の中で様々に思考を巡らし、心に油断なく、敵の動きを見て裏をかく。対個人と対軍の心得は同じだ。その他この書を写して授け、門弟の証拠とする。進履橋と名付けるのは張良が石公との出会いで兵道を伝えられて後、高祖劉邦が天下をおさめ漢王朝が四百年保った故事からきている。
張良というとなんとなく張来来と子どもを脅して寝かしつけるイメージが一番大きかったりするけれど、漢も前漢後漢があってわりと早々に……とかは本旨じゃないから脇に置く。基本的に上記の理念的なところ以外は技名(?)が羅列され、立ち合いで教えるとしている。書面に書き難いと書いているけれど、そらそうよって感じはする。心に油断なく敵を観察するというのは対個人でも対軍でも共通はするものの、基本的に武道の動きは用軍とはまた違う気がする。詳しくはWEB(道場)でのノリなので、柳生新陰流をやってみないとわからない内容と思う。
『殺人刀』について
ーまとめ
生きているものを殺すといった、本来の性質を損なう兵や争いを天は憎む。しかし一人の悪によって万人が苦しむ等の非道を倒すなどやむを得ない場合に用いることは逆に多くを生かすことになり、天道に従う生かす剣である。
兵の一対一の戦いは小さな兵法で、勝ち負けがあっても損失は少ない。大将戦では一人が負ければ天下が変わるため、大きな兵法である。大将が心の中で大軍を率い、国の政治が乱れないように治めるのも兵法であり、受領や国司に遠方を治めさせて国を守るのも兵法であり、これを見誤ると国が亡ぶ。
上の者と下の者に対応が異なる佞臣を見破ることは大切で、近い者に親しくしがちであるが遠方も近方も等しく扱わなければならない。この機を見るのも兵法である。人との交わりで機を見るのも兵法だ。
また、学問をよくすること。物事の道理をわきまえなければ大事をなすことはできない。知らないということは不安になりずっと気にかかるが、道理が明らかになればこのつかえがとれる。これを知を尽くし物を尽くすという。
兵法も同様で、あらゆる技を会得すれば無心となり、何事も自由となる。これが極意である。思いつめた心を志といい、外に発すると従たる気となる。はかりごとを行い敵を吊り上げて勝つ。吊られない場合はこちらから仕掛ける。見難き気を制して機先を取る。
懸待の懸とは立ち会えば即座に切りかかる先の太刀であり、待とは敵の先の太刀を待つ。自身の太刀を待にして敵の先を引き出して勝つ。心を待、身を懸とし、或いは心を懸、身を待として敵に先に攻撃させて勝つ。敵の引っかけ方、間合いやタイミングの取り方、動静の把握の方法、その具体的方法について記載。勝とうとする心は病で、弓でも射ろうとする心があれば乱れて弓先が定まらないとおなじで、常の心で行うのがよく、胸に何もなければ簡単にできるものだ。名人の心は鏡のように澄んで無心である。他、仏教的な何かについて。
ー感想
基本的に剣術としては後の先(カウンター)の話で、心を落ち着かせて体は敏とし(時には心は逸らせ体はどっしりと構える)、相手をよく観察して勝つを良しとする。また、学びというものは重要で全て学んで心を平常に保てばすべてのことを成し遂げられる。
ええと、この『自然に体が動く』という概念は武道をやっていると感得しやすい概念ではあるものの、これを自由に行うにはまさにその動きが体に染みつくというか多分息をするのと同じ概念で使いこなせる域に至らなければ何の意味もないものだ。つまり狂ったように修行しないとスタートラインにも立てないやつ。確かに文章であっさり書いてしまうとこうなのだろうけれど、これが免許皆伝書、つまり修行の全てを治めた者に対して配布されるものであることを努々忘れてはいけない。
後半の仏教のあたりは僕の知識が足りなくていまいちピンとこないのだけれど、逆説的にこの中辺りの剣術についても武道をやったことがなければピンとこないんだろうなとは思う。
さて、戦国時代で殺人を目的として発展を始めた剣術が江戸となって花開き、そして後世までには残るためにはその人を殺すための技術以上に平和の世での存在理由というか理念というものが必要だったことは想像に難くない。基本的に全ての物事や統治システムを兵法に結び付けようとするのがテンプレ的ではあるものの、全ての見方は全ての事象に拡大解釈できるよなと思った。
『活人剣』について
ーまとめ
世に様々な構えはあるが、最終的に敵の動きを察知することが最も大切だ。秘伝で説明できないので手字種利剣と書く。現れるときは有、隠れるときは無という有無の妙技であり、有無いずれも体は一つで表裏一体である。有の時は有をみて有を打ち、無の時は無をみて無を打つ。間合いを見て忍び込んで打つ様を月を見ずに影を差すのに例えて水月という。
どのように構えても剣の座を離れないことに剣の心があり、神妙剣という。この座をみて切りこむことが大切だ。神を内にして心を外へ使わせ一所にとどめないことが肝要だが、兵法だけでなく全てにわたる心得である。
水月、神妙剣、病気、身手足の四別があり、水月は立ち合い時、神妙剣は身中、身手足は敵と自身の観測、去病は有無の見定めに用いる。病とは心が留まらないことを言い、心を捨てて捨てないことだ。水月とは場に心を月のように映し、心が動けば身が動くように立ち合い、鏡に影が映るように場に身を写し、場を水月、身を神妙剣とする。
打ったところに意識を残せば(悔しいとか思っていれば)打たれるので、打ったらとどめずに敵の様子を観測せよ。一の太刀と二の太刀は間髪入れず続けて打つ。空、つまり動かぬところを打て。
無刀(刀を手で取る)は人を切ろうとしている相手から取るべきで、取らせないと思っている相手の剣はあたらないから取らなくてよい。物事にはその本体たる躰とその効果である用がある。他、仏教や禅との対比。
ー感想
文に出てくる流れででまとめてみたけれど、様々な中心的な極意をしめす単語が前後問わずでてきて文章の流れ的にわかりづらい。神妙剣の話は先に出て真ん中で水月と神妙剣を含んだまとめ、その後に水月の話が出たりする。これは秘伝で極まった人向けの書なので、極まった人が読めばすんなり頭に入るのかもしれないが、或いは初心者小説書きによくいわれる文の前後が行ったり来たりしてわからなくなっている状態なのか、判別がつかないな。
僕は有無の境地に全然達してないので、言いたいことはわからなくもないけど、有無と懸待の違いがピンときてない。それにしても二元論が好きだな。確かに対比というのはわかりやすくはあるが、結局のところ視点を固定せず平常を保ち他人をよく観察すると自然と身体が動き敵を倒せる、ということなんだろうなと思う。チェスト―ッ。
まとめ
全体的に、禅と仏教の例えが入り混じったところは確とはわからなかったけれど、同じことを様々な角度で言い方を変えて何度も言っている感じはした。秘伝というものはそういうものなのかなとは思う。いずれ極まった人のための本なので、極まってないとピンとこないと思われる。男色にふければいずれ人にバレるとか、ちょくちょくどこ向きにかいてるのかよくわからないワードがあった。なんつか、全然武術の素養がない人がこれを読んでどう感じるか知りたい。
小説に使えるかというと、悩ましい。わりに本格的に剣豪をかくならこれは比較的共通する心持だとは思うのでざっと読んでも面白いかもしれないが、武術をちょっとでも齧ってないとまるで意味はわからない気はする。剣豪を書くためだけなら古語(さほど読みにくくはない程度)だしWEB記事で事足りる気はする。具体的な剣術作法については今回読んでいない新陰流兵法目録事に天狗のイラスト付きで乗っているので、そっちのほうがわかりよいかも。
4.結び
そういえば天狗って剣術を教える役目をよく担いますね。源義経は鞍馬山の天狗に色々習ったし、能でもそんな話はよくある。ところで『禅はなまかじりで似て非なるものが多く、全てが禅者ではない』的なことを書いてるんだけどさ。柳生宗矩って能狂いすぎて大名の家に押しかけて勝手に舞ったのを沢庵和尚にマジかよって言われる逸話があるんだが、すげえブーメランだなって思った。
次回は山本成之助『川柳医療風俗史』です。
ではまた明日! 多分!
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