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ダイソン掃除機のバッテリー交換(2)

前回の記事の続きである(下の埋め込み)。

10年ほど利用してきたダイソン掃除機のバッテリーが寿命を迎え、その交換を試みたが、純正品が在庫切れだったため、迷った挙句に互換バッテリーを買う決断をした。が、発火事故が怖くなって色々調べた結果、「互換バッテリー.com」というウェブサイトが見つかった。このサイトの情報に基づき、既にamazonで注文してしまった”日本企業”、エネライフ製のダイソン互換バッテリーも「怪しくなってきた」というところまでが前回の内容である。

怪しい「互換バッテリー.com」の内容

頼りにしていた「互換バッテリー.com」であるが、よくよく読んでみると辻褄が合わない、整合性がとれない記事が複数見つかった。よくみたら記事中の挿絵自体も生成AIの合成図のように見えなくもない。「このサイト、自分で書いてないな」という感じが強まってきたので、その内容を鵜呑みにすることは止めて、自分で確認しながら先に進むことにした。

まずは、エネライフという会社について調べてみた。

エネライフという会社

エネライフの会社概要は下の埋め込みリンクから参照できる。

一応、日本人による、日本人の会社のように見える。ところが、このHPの下の方にスクロールしていき、「沿革」の部分まで来た時に、なにやら見覚えのあるバッテリーパックの写真が掲載されていたのである。「これって、AWANFIのバッテリーパックと瓜二つじゃないか!」という驚きが次にやってきた。模様などの詳細を見比べてみると「まったく同一」であることが判明した。

エネライフ社のHPに掲載されているV6用バッテリーパックの写真
前回の記事のAWANFIと同じに見える)

amazonで現在購入が可能なエネライフ社のV7用互換バッテリーは、この写真とは違うものであるが、AWANFIのV7用互換バッテリーと比較すると(細かい模様の違いはあるが)ほぼ同じに見える。もしかしたらエネライフ社自体が中国の企業と密接な関係があるのではないか、という疑いが出てきた。本当に「日本製」なのであろうか、ますます「怪しさ」が増してきたのである。

Google AI(たぶんGemini)のコメントを見ると、エネライフの互換バッテリーは「全セル+単セル検知方式」という保護回路を採用しており、これだけでは過電流を防ぎきれない、という解説がされている(下のスクリーンショット参照)。しかし、その内容には誤りがあるから要注意である。

Google AIによるコメント

まず「過去に発火事故が報告されており」とあるが、これは嘘である。さきほどの「互換バッテリー.com」の記事が誤解を招くようなタイトルをつけた記事を発表しているからで、この情報を元にAIが誤解しただけである。AIの参照元の文献のタイトルは下の埋め込み、その具体的な内容は埋め込みの下の引用画像である。

上の埋め込みリンクの中身をスクリーンショットしたもの

記事のタイトルやその扉絵が「発火」になっているため、AIが誤解してしまったと思われるが、その記事の中身には「発火事例の具体的な報告はない」とちゃんと記されている。AIの言うことを鵜呑みにすると「危ない」というのは、こういうことである。

ということで、実際に文献の中身を見ながら判断してみることにした。

全セル+単セル検知方式とは

Google AIのコメントにあった「全セル+単セル検知方式」についてまずは調べてみることにする。

AIが示す参考文献を閲覧してみると、この結論に至ったのは次の文献を「AIが喰った」からだと思われる。

エネライフが販売する互換バッテリーには大きく分けて2種類あり、一つがダイソン互換、もう一つがマキタ互換である。マキタというのは愛知の大手電動工具メーカーのことである。マキタの工具は世界的に人気があり、電動工具の世界シェアは25%で第二位、日本シェアは60%で第一位、とwikipediaにある。(ちなみに、私が保有する電動草刈機(いわゆる「ビーバー」)と電動チェインソーがマキタ製品である。もちろん、駆動用のリチウムイオンバッテリーはマキタ純正を利用している。購入してまだ5年目程度であり、劣化の気配すらない。)

さて、AIが利用した解説記事の中身であるが、それはダイソンではなく、マキタ互換のバッテリーを分解して検証している記事であった。しかし、AIは、ダイソン互換のバッテリーについても同じような設計/構造になっていると見なしてコメントを生成している。これに関しては私も(最初)同意見であった。

解説記事で取り扱っているのはマキタ互換の18Vリチウムイオンバッテリーである。その内容は、バッテリーを分解し、構造分析した結果を報告している。まずはケースを外してみると、円筒型のリチウムイオン電池が5本連結された構造になっていることが写真で示されている。この電池の表面にはなにも記載されておらず、どこの国で作ったものか、どのメーカーの作ったものか、などといった基本情報が確認できなかった、とレポートされている。ただ、エネライフのHPで同色のリチウムイオン電池が使用されていることが紹介されている(下図参照)。

エネライフ社が利用しているリチウムイオン電池各種
解説記事で現れた電池は右のEve Energy社のものと思われる。

色合いから、不明のバッテリーセルはEve Energy社(中国)のものだと思われる。予想通り、電池本体は日本製ではなく中国製であった。まずはここですでに「裏切られた」感じがする。しかし、上で「バッテリーパックの形状が、エネライフとAWANFIのものとでよく似ている」という印象を私もすでに感じていた。エネライフと中国企業との密接な関連を疑っていたという観点からすれば、「裏切られた」というよりは「予想通り」というべきなのかもしれない。

重要点「保護回路使用を調べた結果」については次のように書かれていた。

保護回路仕様を確認すると「全セル+単セル検知方式」でした。このバッテリー保護仕様は特定条件下のセルアンバランス状態を見逃してしまうため、直列多セル構成のリチウムイオンバッテリー機器としては推奨されない保護方式です。

この説明はAIがコメントで使っていた表現とまさに同じである。全セル+単セル検知方式については、この解説記事の最初の部分に詳しい説明があったので、それを以下では参考にする。

円筒形のバッテリーセルの場合、シート状の正極と負極の間に、同じくシート状の絶縁セパレータが挟まれ、これら全体を丸く巻いた構造になっている。電極の間には電解質が染み込ませてあり、リチウムイオンだけが絶縁セパレータを突き抜けて移動できるようになっている(電極同士の接触がセパレータによって防がれている)。バームクーヘンのように、何重にも巻き込まれており、それぞれを直列で繋げば高電圧が実現できるし、並列に繋げば大容量電池が実現できる(現実的には両者の混合であろう)。

解説記事では5本のバッテリーセルが利用されており、これら一つ一つの電圧をすべてのセルでチェックするのが「全セル検知」、一つのセルだけを選んでチェックするのが「単セル検知」と呼ばれるそうである。

例として、5本のセルが直列で繋がれている場合を考える(解説記事の冒頭でも同じ例が引かれている)。

単セル検知というのは、5本のセルのうち、1本だけ代表して電圧測定し(たとえばそれが3.5Vだったとする)、それを5倍して3.5x5=17.5Vがバッテリー全体の電圧とみなす検知方法である。バッテリー全体の電圧も同時に測定しておき、それが例えば18.5Vだとすると、18.5-17.5 = 1.0Vという差が検知される。理想的にはこの差が0となるときに限り「使用可能」と判断するのが単セル検知である。今考えている例では、差が1Vもあるので「使用不可能」という判定が保護回路によって下され、このバッテリーパックは「使用不可」となる。

もちろん、現実には多少の誤差が出るはずなので、ある程度の閾値をおいて、その範囲内で使用可能とする判断基準が設定される。例えば、判断基準を0.1Vに設定すると、差が1Vと検出されたバッテリーは「使用不可」となるが、1.2Vに設定すると「使用可能」となる。基準が厳しいほど「安全」になるが、「使用不可」が出やすくなる、つまりバッテリーの寿命が短く感じられ、消費者から嫌われるだろう。かといって、緩く設定してしまうと発火事故を起こしてしまう可能性が高まってしまう。したがって、緩くするか厳しくするかは、消費者の好みによって最適化されることになる(安全志向か、経済志向か)。

単セル検知の問題点は、判断基準を厳しくしても発生することにある。つまり、今の例の場合にあてはめると、5本のセル全てを測らず、一本だけの値を「平均値」とみなし全体の電圧を算出してしまうことにある。たとえば、単セル検知用のセルの電圧が(先ほどと同じ)3.5Vだと仮定すれば、残りのセルの電圧の和は18.5-3.5=15.0Vになっているはずである。しかし15Vを4本のセル電圧で作る方法は、(a) 4.0, 4.0, 3.5, 3.5Vでもよいし、(b)3.75, 3.75, 3.75, 3.75でもよい。(a)は各セルが異なる電圧を持っているが、(b)は均一になっている(とはいえ、単セル検出用のセル電圧と0.25Vの差があるものの、それは”小さい”差とみなせるだろう)。

リチウムイオンバッテリーは「セル間の電圧バランスがよい」ほど安全性が高いらしい。つまり、各セルが均一に充電され、また均一に放電されている状態が「正常」だということである。逆に、特定のセルの充電が高かったり、特定のセルの放電が早かったりするのが「異常」つまり「粗悪品」なのだそうだ。つまり、「セルアンバランス」(cell unbalance)という症状は、リチウムイオンバッテリーの粗悪品がもっている状態であり、各セルの電圧がまちまちの値をもっている状態のことである。

セルアンバランスが発生する状況には色々あるだろう。たとえば、バッテリーセルの電極間の絶縁シートの性能が落ちてしまい、勝手に放電してしまうことで発生することもあるだろうし、電極の性能が落ちてリチウムイオンを蓄えたり、放出する能力が低下して生じる場合もあるだろう。要は、セルの電池としての物理化学的な劣化が引き起こす症状である。

セルアンバランスが安全性に関係する主な理由は、充電時にどの程度電圧を上昇させるべきかの判断が難しくなるからだ。仮に、セル一つあたりの充電に対する耐久電圧が4.0Vまでだとすると、3.0Vや3.5Vの状態にあるセルを
+0.5Vだけ電圧上昇させて充電することは可能である。ところが、すでに4.0Vのセルは充電によって少しでも電圧上昇させると過負荷状態になってしまう。この状態では最悪の場合、絶縁破壊が起きて過電流が発生してしまう。もちろん、これが発火の原因になる。

セルごとに電圧上昇をコントロールできれば安全性を確保できるだろうが、複雑な回路を導入することになるだろうから、おそらく価格が上がってしまうはずだ(1万円の純正品が1万3000円になったら、消費者は嫌がるだろう)。安く、かつ効率的に充電するなら、各セルを共通の値で充電すべきである。そうだとすると、充電前のセルの電圧が均一になっていないと、充電幅が決められなくなる。これが「セルアンバランス」が嫌われる理由である。

仮に、アンバランスがあったとしても安全性を考えて、最高電圧をもつセルに合わせた充電を行うように設定したらいいだろう、と思うかもしれない。しかし、耐久電圧ギリギリになっているセルのせいで、耐久電圧のはるか下の値をもっているセルは、ほんの僅かしか電圧をあげることができなくなってしまい、結果的に消費者は「充電できなくなった」と感じるであろう。例えば耐久電圧が4.0Vだとして、高電圧のセルが3.9Vだったとしよう。耐久電圧を超えないようにするには、充電による電圧上昇を0.1Vに抑えないといけないが、3.2Vとか、3.5Vの状態のセルは僅か0.1Vしか充電できないから、3.3V, 3.6Vまでにしか電圧上昇ができない。これではせっかく耐久電圧が4.0Vになっていたとしても、低電圧充電にしかならず、掃除機を使うとバッテリーはすぐに切れてしまうだろう。

全セル検知というのは、何本かあるセルの電圧をすべてチェックする方法である。もちろん、通常はセル電圧がすべて同じ値にになっていることが想定されており、それが「正常」な状態である。単セル検知はこの状態を「前提」にした検知方法ということになる。しかし、現実には、製造過程で生じた「品質のばらつき」によってセルの性能差が生じる(まるでロケットの部品の場合と同じタイプの議論である)。

全セル検知をすれば、たとえば、3.5V, 3.5V, 3.4V, 3.3V, 3.7Vとなっていることがわかったりする。個々のセルの安全最高電圧が4.0Vだとすると、5本目のセルが3.7Vだから、充電によって0.3V以上の電圧上昇をさせてはならない、という判断ができるようになるだろう。そして、セルの間のアンバランスがあまりにもひどくなってきたら、事前に「使用不可」の判断を出してバッテリーの使用を予め止めるように警告を出すことができるようになるだろう。つまり、全セル検知は安全性の確保のために必要な手法ということになる。

さて、解説記事をみると、エネライフのマキタ互換のバッテリーは「全セル+単セル検知」だという。全セル検知だけなら「安全だ」といえるのだが、単セル検知が混在しているのだという。よくわからないが、タイミング的に、全セル検知をやるときと、単セル検知をやる場合に分かれているということではないだろうか?したがって、運悪くセルアンバランスが単セル検知時に発生してしまうと、絶縁破壊が起きて過電流が発生してしまうだろう。解説記事には「特定条件の下、セルアンバランスを見逃す」と書かれていたが、きっとその意味は上の予想のような状況のことを指しているのだと思う。どうしてこんな面倒な回路にしたのかは、全く想像できない。

しかし、以上の解説は、マキタ互換のバッテリーパックの分析であって、ダイソン互換のバッテリーパックを直接分解して調べたわけではない。AIは勝手に、この分析には普遍性があり、マキタ互換にもダイソン互換にも適用できる、と決めつけている。もちろん、その可能性が高いわけだが、決めつけてはいけない。

そこで、エネライフのHPをできる限り見渡して、どのような技術的な説明が与えられているのか調べてみることにした。それに対応する部分が見つかったので、下の図に掲示する。

エネライフのHPより

「セル一つ一つを個別にすべて監視している」というニュアンスではある。また右下の囲みは「全セル検知」を意味しているように思える。これが本当なら、エネライフの互換バッテリーがいまだに発火事故を起こしていない、という事実を裏付ける内容になっていると思う。つまり、エネライフのダイソン互換のバッテリーは「それなりに安全な設計になっている」という結論である。Google AIのコメントは「ちょっと先走りしすぎていて、嘘が多分に含まれている」感じがする。

ただ、「もっと安全」なバッテリーを目指すなら、BMS(Battery Management System)というより高度な回路を組み込むのが常識となっているようである。おそらくこの回路の分だけ純正品は値段が張るのだと思う。BMSについては、たとえば下のHPなどに解説がある。

電流や温度の監視はもちろん、バランスが悪くなったセル電圧の均一化なども制御できるそうである。エネライフの保護回路には「監視」機能はあるが、制御機能はなかったと思う。この辺りが、互換品の値段の安さと純正品の高さに関係しているのだと感じた。

リチウムデンドライトとはなにか?

過電流が流れると、発熱もあるだろうが、「リチウムデンドライト」が発生するので発火の危険性が高まる、という説明がGoogle AIのコメントにあった。最後に、この謎のカタカナについて調べてみることにした。

検索すると(i)wikipedaの解説と(ii)名古屋大学のリチウムバッテリー工学の研究室の研究紹介と、2つの資料がみつかった。それぞれ、とても興味深い内容が書かれている。

しかし、エネライフのダイソン互換バッテリーでは「過電流を防ぐ保護回路が導入されている」らしいことがとりあえずわかった。この段階で、過電流によって生じるリチウムデンドライトが引き起こす発火事故について興味が薄れ、今回の流れではあまり気にすることがないような気がしてきた。したがって、今回は考察した内容をここに書き下すのは省略することにする。

ただ、後で必要な情報になるかもしれないし、この現象自体が興味深いので、また後で再考察できるよう準備だけはしておくことにする(下の埋め込み参照)。

結局どうしたか?

結局エネライフの互換バッテリーも注文をキャンセルした。やはり、真の意味での「日本製」になっていなかった、というのが大きな理由である。

しかし、このままでは新品のダイソン掃除機を注文することになってしまう。そこで、もう一度だけ、純正品の在庫を検索してみることにしたのだ。すると、なんと!在庫があるという情報が表示されたのである!

「在庫あり」と表示されたV7バッテリー

さっそく注文した。そして2日後に配達されたのである!ダイソンは本当に素晴らしい企業だと感心した。知人の経験通りのことが再現されたのである!

それにしてもおかしい。どうして、最初は「在庫切れ」と出たのに、エネライフやAWANFIについて調べているうちに「在庫あり」に変わったのであろうか?

よくよく調べてみると、「在庫あり」だったのは、「在庫切れ」のマイナーバージョンアップの製品だったのだ。「在庫あり」のパーツ番号は968670-21、「在庫なし」のパーツ番号は968670-01だった!

ダイソンの純正バッテリーが「在庫なし」と表示されたとしても、Google検索をやり直してみれば、マイナーアップデート製品にたどり着くことができるかもしれない。諦めずにやってみれば、「新春の幸運」が待っているかもしれない(笑)。遅ればせながら、「あけましておめでとうございます」と言って、この記事を締めることにしよう。