将来使わないかもしれない手技でも、研修医にやってもらいたい話
こんにちは、東京ベイ・浦安市川医療センター(TBMC) 集中治療部門のフェローです。
この前、15年ぶりに自分でお米を炊きました。
何言ってるんだ、コイツ…
と思ったかもしれないですが、
普段は妻がやってくれるので、私は炊飯器に触れる必要はありませんでした。
が、ついに諸事情により炊飯をしないといけないことになりました。
で、釜を開けて思いました。
線と文字多いな。
なんだ銀シャリって。芸人か。
ダイヤモンドプレミアムコート…
どこかの低層マンションかい。
急に知らない学会のセッションに放り込まれた気分でした。
でも妻に聞いたら、
「米を5杯入れて、水を銀シャリの5まで入れる、以上」
それだけ。
それだけだった…
もっと面倒な思い出があったけど、なぜ。
そっかうち無洗米だから!?
研修医に手技をさせる話
手技をやりたがる研修医ありがたいですよね。
「CVやる?」
って聞いたら
「やりたいです」
その前のめりさは、見ていて清々しいです。
いずれやる可能性があるなら、大いにやってもらって結構です。
一方で、もしかしたら私にそう言わされているだけで、
本当はやりたくないという人もいるかもしれません。
「自分は将来手技科に進まないから、やる必要はない」
「正直、手技に興味がない」
これもあっても良いです。
でも、私はそれでも、ICUでは研修医に手技をやってもらいたいなーと思ったりします。
ええ、手技をやりたいだろうがやりたくないだろうが、
やらせたいと思っているということです。
初期研修医がICUをローテーションするということ
集中治療って難しいですよね。
当院では専攻医はローテーションできますが、専属にはなれません。
ICU専属として働くのは、専門医を取得したフェロー以上です。
そんな集団に所属しないといけない初期研修医、とっても大変です。
一応ICUのローテーターにも目標があり、
「地域の病院で敗血症性ショックの診療ができること」
なのですが、
いや、普通にムズイよね…
だから学んでもらわないといけないのです。
仲間にならない??
少しでも学びを深めてもらうために、我々ができること、なんだと思いますか?
質問が広すぎるので、答えは複数あると思うのですが、
ここでの私の答えは
「仲間になる」
ってことです。
見学だけのお客さん、それではダメなんです。
大げさかもしれませんが、『同じ釜の飯を食う関係』にならないと。
仲間に入れるよ、だから、うちらがやっている仕事の端っこは、君らが担ってね。
ちゃんと患者を担当してね、プレゼンしてね、オーダーしてね、考えてね、わからなかったら相談してね、
ICUという集団の端っこでいいから、比較的軽症な患者さんで良いから、きちんと責任を持って役割を担ってね、
その代わり、サポートするよ、わからないこと教えるよ、困った時助けるよ。
僕らが共有している技術や知識、価値観は、その集団に帰属して、役割を持つことで、学べるんだよ。
経験より役割を与える
だから手技をするのも役割の一つです。
今後手技が必要になる科に進むか知らないけど、手技に興味があるか知らないけど、担当はあなただよね、だからあなたが手技をするのですよ。
もちろん難易度の高い手技や難しい状況では任せません。
でも役割を持つ=責任を持つと、知識や技術じゃないところが勉強になる。
0回と1回は違いますが、1回だけで得られるほど技術は甘くない。
でもプロフェッショナリズム、コミュニケーション、チーム共同、多職種連携、それらを学ぶには、仲間にならないとダメなんです。
仲間に入るということは、役割を担うということ。
だから私が研修医に手技をしてもらいたいのは、経験そのものというより、役割を担ってほしいから。
教えるだけでは、足りない
ここで大事なのは、知識や態度を“教える”ことと、実際に“参加してもらう”ことは違う、ということです。
安全は大事ですよー。
相談は大事ですよー。
患者さんへの説明も大事ですよー。
そんなこと、講義でも言えます。
でも、実際に患者さんを担当して、プレゼンして、相談して、少し責任を持つ。
知識や技術は文脈を通して構築する。
そこに教育の本体があるのです。
そして、その積み重ねの中で、少しずつ医師としての輪郭ができていく。
ICUだけの話ではない
もちろん、これはICUだけの話ではない。
私自身、研修医、専攻医時代を振り返ると、外科ではアッペ、循環器ではCAGやテンポラリーペースメーカーの留置、消化器内科では上部消化管内視鏡、呼吸器内科では気管支鏡をやらせてもらいました。
今、ICUでちょこっとやる気管支鏡以外、日常的にやってません。
でも、あれを「将来使わないから意味がなかった」とは、あまり思わないんですよね。
……まあ、自分の過去を美化している可能性はあります。
人はだいたい過去を、
医者はだいたい自分の研修医時代を、
都合よく編集しますからね。
それでも、あのとき各科から渡されていたのは、手技の件数ではなく、その科の中での役割だったのかも。
おわりに
もし初期研修医がICUを回らない制度なら、話は違うと思います。
でも日本の初期研修は、いろいろな科を回る仕組みです。だからこそ、その科が渡すべきものは、専門家の奥義ではなく、医師として基本的能力の醸成、そのためには科の中で役割を与えることが大事。
「手技やるよね?」
あの一言は、手技のお誘いであると同時に、
「こっち側に入ってみませんか」
という声かけでもあります。
私たちが渡したいのは、経験より役割。
そして手技は、その役割を渡すための、とてもわかりやすいチケットの一つです。
15年ぶりに米を炊いた私も、別に炊飯研修医から専門医になったわけではありません。
でも研修医に手技をやってもらう意味も、ちょっと似ているかも。
上手にできるようになることだけが目的ではない。
その場の外にいる人ではなく、中に入って役割を担うこと。
でももう米は炊かないけどね、次はパックご飯たくさん買い込んでおこう。
それではまた、ICUの片隅でお会いしましょう。
さて、我々は常に一緒に働いてくれる方を募集しています。
「こっち側に入ってみませんか?」
