#38 12歳の女の子の、ジャンクで無敵なパワーフード
小学六年生の娘には、
彼女だけの特別なパワーフードがある。
それはマクドナルド。
それも、お決まりの完璧な四重奏だ。
フィレオフィッシュとダブルチーズバーガー、
それからフレンチフライのポテトに、
透き通った緑色のメロンソーダ。
大人の私から見れば、
茶色くて、お腹にずっしりと
溜まりそうなラインナップ。
けれど、彼女がそれらを
目の前にしたときの、
世界で一番美しいものを
見るようなきらきらとした瞳を眺めていると、
栄養バランスだとかカロリーだとかいう
小難しくて退屈な正論は、
どこか遠くへ吹き飛んでいってしまう。
学校のこと、友達のこと。
小六の女の子の日常には、
大人には見えない小さなトゲや、
言葉にならないもやもやが、
きっとたくさん転がっている。
心がすこし縮んで、
どうしてもパワーが欲しいとき、
彼女は決まって
このお決まりのセットを欲するのだ。
彼女はまず、
フィレオフィッシュの箱をそっと開ける。
あの、なんともいえない清潔な白さと四角さ。
蒸されたバンズは
赤ちゃんの肌みたいに柔らかく、
指の跡がついてしまいそうだ。
一口齧ると、さくっとした白身魚のフライと、
酸味のあるタルタルソース、
そして心ばかりのチーズが、
完璧な調和をもって
口の中でほどけるらしい。
「これ、こんなにおいしかったっけ?」
娘は真剣な顔で呟く。
毎回同じことを呟く。
それから、おもむろに
ダブルチーズバーガーの
紙包みに手を伸ばす。
大きなお口を開けて、
思いきりかぶりつく。
二枚のお肉と、
とろけた黄色いチーズ。
娘はもぐもぐと忙しく
顎を動かしながら、
ときどき、ふふ、と嬉しそうに鼻で笑う。
美味しいものが喉を通っていくのが、
嬉しくてたまらないといった風に。
交互にぽりぽりと
口へ運ばれるポテトは、
絶妙な塩気がきいていて、
いつまでも飽きることがない。
カリカリの細いやつを選んでみたり、
わざとクタッとしたのを
嬉しそうにつまんでみたり。
そうして、からっぽになりかけた
エネルギーのタンクを、
彼女なりの愛おしいやり方で
一生懸命に満たしていく。
このマクドナルドのセットは、
いつでも変わらずに
自分を全肯定してくれる、
彼女にとって最強のお守りなのだ。
仕上げのメロンソーダを
ちゅうと吸い上げると、
プラスチックのカップの中で
氷がカラリ、と涼しい音を立てた。
お祭りの夜を思い出させるような、
あざやかな緑色の液体がストローを
駆け上がっていくのを見ていると、
なんだかこちらまで
胸がすくような気持ちになる。
お腹いっぱいにジャンクな
しあわせを詰め込んで、
「ごちそうさまでした!」と
大きく伸びをする娘。
もうすぐ中学生で、
鏡の前で前髪を気にする時間も
増えたというのに、
こうして私の前で大好きなものを
夢中で平らげる彼女は、
どこかまだ幼くて、いじらしい。
こんな風に無邪気な娘の姿を
見ていられるのも、
あとどれくらいなのだろう。
いつかお澄ましして綺麗に
ハンバーガーを食べるようになる前の、
これはきっと、神様がくれた特別な、
まぶしい季節なのだ。
すっかりご機嫌になった
娘の指先からは、
まだうっすらとポテトの塩の匂いがして、
私はそれが、たまらなく愛おしいと思う。
今日も最後まで読んでくださって
本当にありがとうございます。
この文を書いていたり、娘をぎゅっと
抱きしめたくなりました。
また覗きにきてくたさいね。
お待ちしております。
