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小説・ココイロ談義②

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出会って間もない頃、海月に「ハル」と呼んでほしいと頼んだにも関わらず、「晴子」と呼んできた時は、悪意に違いないと傷ついた。本人曰く「だって晴子っていい名前やん」というのだが、いっている意味が分からない。

本人が嫌がっていることを分かっていて、あえて言うような友達など晴子の周りにはいない。ただでさえ眼光鋭い海月の真顔、しかも迫力のある関西弁で褒められたとしてもピンとこない。かといって、そんな海月に反抗し続ける勇気もない。

──古賀海月、怖い

できるだけ距離を取るつもりでいたのだが、クラスの委員会や行事で一緒になる機会が多かった。

そこでは、晴子など目もくれず海月はマイペースで、一見やる気がなさそうに見えた。しかし意外に細かいところに気がつき、みんなが忘れている仕事を1人でやっている場面も見られた。会議などで意見を言い合う場面でもいつも興味がなさそうでほとんど発言しないくせに、ここぞと言う時に適格なことも言う。

自由きままに見えて、実は海月が周囲のことに気を配っているのは分かってきたが、まだ怖さが抜けた訳ではなかった。そんな晴子の考えを決定的に変える出来事があった。

ある休みの日、晴子が別の友達と3人で遊びに行こうと出かけたら、地元の地下鉄の駅の階段の入口で海月に鉢合わせた。

「あれ、海月じゃん。どうしたの?」
海月の横には小学校3,4年生くらいの女の子がいて、手を繋いでいた。

「妹と遊びに来たの?」

「妹いたんだ? かわいいね」
などこちらの友達たちが勝手に盛り上がっていると、

「違うよ。知らない子」と海月。

「え?」

3人が状況を理解できず固まっているのに、次を話そうとしない海月。しびれを切らして晴子が聞くことにした。

「じゃあ誰?」

「地下でキョロキョロしてたから声を掛けたら『出口が分からない』っていうからさ。教えてあげようと思って」

たしかにそこは小さい駅ながら少々複雑で出口も多いため、地元の人でなければ分かりにくい。女の子はお祖母ちゃんの家に初めて1人で遊びに来たのだが、今まで親と一緒だったため、どこから出ていたか注意を払っていなかったらしい。

1人で来れるくらいの土地勘はあるのだから、とりあえず適当な出口から地上に出ればわかりそうなものだが、そこはまだ子ども。少しパニックになって身動きが取れなくなっていた。周りの大人が素通りする中で、海月が声を掛けたのだった。

「明らかに困ってるのに、みんなスルーやから」

「えらいね」と晴子。

「別にエラないわ。──さ、もう分かる?」と女の子に声をかけると

「うん、ありがとう! あっ、おばあちゃん!」
女の子は、念のため駅まで迎えに来ていた祖母を見つけた。
「おねえちゃん、ありがとう! アメもありがとう! じゃあね、バイバイ」
とにっこりしていうと、祖母の方に走っていった。

「アメ……」

「あげよか?」

「いや、いい」

──親切ついでにアメって、なんか関西のおばちゃんみたい。変な子にはかわりないけど、この人にも人間くさいところあるんだ。

晴子は普段の海月とのギャップを埋めるのに少し時間がかかったが、納得するとうれしくなってきた。

この件以降、「海月はいい人なのかもしれない」と思うようになり、晴子の恐れが薄れると途端に距離が近づいた。晴子はどこかでそうなりたいという願望があり、チャンスをずっとうかがっていたのかもしれない。

海月は、大人数でいる時と2人きりのときと態度を変えることもない。自分の名前を褒めてくれたのは、悪意ではなく本音だったのだとようやく信じることができた。あいかわらず、自分には他の子よりも少々当たりが強いようにも感じてはいたが。

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ほかにもいろいろ書いてます→「図書目録(小説一覧)

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