旧統一教会の「コンプライアンス宣言」(2009年)とは?③(完結)
Ⅱ、「教会員が自主運営するビデオ受講施設等における教育活動等についての指導基準」
1,「正体隠し伝道」や「害悪の告知」の舞台となったビデオセンター
②からの続き。
2009年3月25日に公表された旧統一教会の「コンプライアンス(法令遵守)宣言」(3.25文書)は2本柱から成り、2本目が「教会員が自主運営するビデオ受講施設等における教育活動等についての指導基準」でした。
本シリーズの②では、ここに出てくる「ビデオ受講施設」、通称ビデオセンターとは何ぞやということについてざっと説明しました。
ビデオセンターは、いわゆる「正体隠し伝道」や教団敗訴の民事判決が指摘する「害悪の告知」の主な舞台となった場所です。
正体隠し伝道と害悪の告知のことは改めて書くとして、今回は「コンプライアンス宣言」の中身を確認して一区切りとします。
2本目の柱「教会員が自主運営するビデオ受講施設等における教育活動等についての指導基準」には、2つの内容が書かれています。
1つが「勧誘目的の開示」、もう1つが「法令遵守(コンプライアンス)」です。
(1)勧誘目的の開示
3.25文書は「勧誘目的の開示」について、次のように記しました。
教会員が自主的に運営するビデオ受講施設等における教育内容に統一原理を用いる場合、勧誘の当初からその旨明示するように指導して下さい。
また、宗教との関連性や統一教会との関連性を聞かれた際には、ビデオ受講施設等の運営形態に応じた的確な説明ができるよう、ご指導下さい。
09年3月25日付
これは「正体隠し伝道」をやめるように、という指示です。
勧誘された人は、ビデオセンターに来ても、そこが統一教会信者の運営する施設だとは知らされません。
勧誘した人やセンターのスタッフらと交流し、宗教心を啓発するビデオを見て、気に入れば継続的に通います。
本人が心を開いて喜んで通ってくるようになると、ある段階で、統一教会の教理である「統一原理」の紹介が始まります。
この教理の紹介をする前に「実はここは統一教会(の信者が運営する施設)なんです。これまで言えなくてごめんなさい」と打ち明ける場合もあれば、教理を紹介する1日セミナーや2日セミナーなどに参加してもらった後で打ち明ける場合もあったようです。
2,勧誘されて、後から統一教会と知らされた人は3つのタイプに分かれる
この時、打ち明けられた人の反応は、大きく3通りあると考えられます。
第1は、統一教会の予備知識を持たない人。
統一教会の悪評を知らず、その種の報道に関心のなかった人は、「これは統一教会の教えです」と言われても、「ああ、そうですか」で終わり。
教えに共感すればその先の7日セミナーなどに進み、しなければ通わなくなります。
第2は、予備知識を持ち、「統一教会は親泣かせだ、霊感商法だ、セックス教団だ。教祖は韓国人で、日本人信者を奴隷のように働かせ、自分は豪勢な暮らしをしている」などの悪評を知っている人。
このタイプの中には、「だまされた。なぜ最初に言ってくれなかったのか。統一教会と知っていたら来なかった」と怒り、恨みと憤りを露わにしてセンターを去って行く人がいます。
しかし、全く違う反応を示す人もいるのです。それが第3の、最初に教団名を言われなくてよかったという人です。
彼らは「聞くと見るとは大違い。うわさは本当ではなかった。統一教会と知っていたら来なかったから、むしろ知らされなくてよかった」と考えます。
このタイプの人は、教義に共感したからそう考えるわけで、7日セミナーへの参加など次の段階に進むことになります。
3,「正体隠し伝道」のメリットとデメリット
「正体隠し伝道」には、メリットとデメリットの両面があります。
まずデメリットは、第2のタイプを見れば明らかで、教団に恨みと憤りを持つ人を増やし、「統一教会は人をだまして伝道する宗教だ」という悪評が口伝えに広まってしまうことです。
勧誘した信者やビデオセンターのスタッフも、「こんな人をだますようなやり方をしてよいのだろうか?」と後ろめたい気持ちを持つかもしれません。
それが教団に不信感を募らせるきっかけとなり、脱会の動機になる可能性もあります。
メリットは、勧誘された人が先入観や偏見を一切持たずに教義を聞くことで、公平な判断ができることです。
人はしばしば先入観や偏見に左右されます。全く同じことでも、嫌いな人に言われると反発したり否定したりするのに、仲の良い人から言われると素直に受け入れたりします。こんなことは誰でも経験があるのではないでしょうか。
統一教会に反対する人は、教団を擁護する書籍・冊子が光言社や世界日報社から出版されると、(おそらく中身を読みもせず)「出版したのは統一教会系の壺企業だ。内容は推して知るべし。★1つ」などと平気でレビューしてきます。
こういう党派主義は人間の性(さが)とも言える悪弊で、極端な人は「カラスは黒い」と教団信者が言えば、「いやいや、白いカラスだっているかもしれない」などと言い出しかねません。
しかし、統一教会の関連施設と知らずに教理を聞いた人は、党派主義に惑わされることなく、純粋に自分の心と理性で教えの是非を判断できます。
その意味で、「正体隠し」は勧誘した信者にとっても、勧誘された当人にとっても大きなメリットがあるわけです。
またメリットがあるからこそ、信者たちはこの勧誘方法を続けたのでしょう。
4,「正体隠し伝道」一般を“違法で許されない”とするのは誤り
私は「正体隠し伝道」自体が違法だとは思いませんし、道義的に許されないとも思いません。「正体隠し伝道」一般を違法とするのは間違っていると考えます。
実際、「正体隠し伝道」を違法とする法律はなかったわけで、これを一般化して、あらゆる「正体隠し伝道」を違法であるかのように非難し続けた全国弁連の弁護士らの主張には同意できません。
ただ、何事も過ぎたるは及ばざるがごとしです。
「正体隠し伝道」を非難したある民事判決は、
「宗教選択の自由を奪って入信させ、(勧誘された人の)生活を侵し、自由に生きるべき時間を奪ったものといわざるを得ない」
広島高裁岡山支部判決、2000年9月14日、『判例時報』01年10月1日号
とまで書いています。
まるで糾弾文書かと思われるほどの激烈な書きっぷりです。
判決を読んで、そこで認定された事実が本当ならば、いくら何でもこれはやり過ぎだろうと、思わず考え込んでしまいました。
ただ、私から見て「いくら何でもやり過ぎ」と思えるこの事例も、1審の岡山地裁は原告の訴えを棄却していました。
1審と2審で百八十度異なる判決が出たのです。
それはやはり、担当する裁判官の宗教理解の深浅が関係していると思えてなりません。
繰り返しますが、「正体隠し伝道」一般を違法とする考え方は誤りです。
街頭で道行く人に声をかけたり、知人・友人のネットワークの中から勧誘したりするとき、最初の段階で宗教団体名を明らかにしなければ、それは「正体隠しであり違法だ」というような極論は、宗教活動の自由を奪うもの。およそ常識外れです。
こんな例を考えてみます。
ある女性を好きになった男性が、内に秘めた思いを隠したままその女性と仲良くなり、いい友人関係を築いた後で「実は……」と言って告白したところ、「相手を断り切れないようにしてから結婚を申し込む卑劣なやり方だ。婚姻の自由を奪うもので違法」と非難された。
「正体隠し伝道は違法」という主張は、現実にそんなことがあれば誰もが唖然とするであろうこの話とどこが違うのでしょうか。
本人の承諾を得ないで、あるいは本人に宗教団体名を告げないで勝手に信者名簿に登録した、というなら違法とされても仕方ありません。
しかし、街頭で勧誘したときに宗教団体名を告知しなかった程度で、これを違法だと非難するのは常軌を逸しています
宗教団体名は、遅くとも入信するか否かを決める前までに告知し、決めるにあたって一定の猶予期間を設ければ十分です。
5,民事訴訟で敗訴が続き、「正体隠し伝道はさせない」に方針転換
統一教会としては、敗訴判決がいくつも出た以上、もはや方針転換するしかない(これ以上争っても意味がない)と判断したものと思われます。
そこで、「勧誘目的の開示」という指導基準を打ち出したのでしょう。
ビデオセンターに連れてきた人に、最初のうち統一教会と関係のないビデオを見せたとしても、どこかの時点で「統一原理」のビデオを見せるのであれば、勧誘当初から信者の運営する施設だとはっきり言え、ということです。
私がよく分からないのは、「宗教との関連性や統一教会との関連性を聞かれた際には、ビデオ受講施設等の運営形態に応じた的確な説明(をしなさい)」のくだりです。
「ビデオ受講施設等の運営形態に応じた的確な説明」とは、何を意味しているのか?
はっきりしたことは分かりませんが、1つ考えられるのは、ビデオセンターでは一般的な宗教心啓発ビデオだけ見せて悩み事相談などを行い、「統一原理」を伝えるときは、その旨を話して支部教会の施設を紹介する、というやり方です。
このやり方なら、ビデオセンターは統一教会とは関係ないと言えます。
そこでは教理のことは一切話さず、「もっと学びたい」という気持ちを持った人だけに「統一教会の施設があるので、よかったらそっちへ行ってみませんか」と誘うのです。
「ビデオ受講施設等の運営形態」と言うくらいですから、運営形態にはバリエーションがあるのでしょう。
(2)法令遵守(コンプライアンス)
3.25文書は「法令遵守(コンプライアンス)」について、次のように記しています。
特定商取引法をはじめとする法令違反との批判を受けないよう配慮して下さい。
例えば、教会員が自主的に運営するビデオ受講施設等で受講料を徴収する場合には最初からその旨明示し、受講契約書等必要書類を交付しなければなりません。
また、勧誘に際しては、「威迫・困惑させた」「不実を告知した」と誤解されるような行為がないよう、注意して下さい。
09年3月25日付
もうだいぶ前のこと、信者が「◯◯が治る」などと効能をうたって高麗人参茶を販売し、薬事法違反に問われたことがありました。
これは法律をよく知らないために起きた不幸です。ビデオ受講に対価の支払いを求めるのならば、特定商取引法の適用を受けますから、法の規定に従うのは当然です。
6,「威迫・困惑」「不実の告知」とは?
「威迫・困惑」は、次のような行為のことです。
「威迫」は、脅迫に至らない程度に人に不安を感じさせるような行為
「困惑」は、文字通り、困らせたり戸惑わせたりする行為
ただ、これは主観に左右される要素が大きく、同じことを言われても「威迫・困惑」する人もいれば、しない人もいるという点で、非常に判断が難しい問題です。
「不実の告知」は、値段や支払い条件について虚偽の説明をすること。
今はインターネットで簡単に法律知識を得られますが、まだネットが未発達だった時代は、法律を確認しないまま、素人判断で行動することがあったのかもしれません。
(了)
