標準家族のための冷蔵空間|1960年代ナショナル冷蔵庫パンフレットを読む
高度成長期のご家庭に鎮座すべきものとされた「三種の神器」。1950年代なかごろ、徐々に一般家庭に普及しはじめていた3つの耐久消費財、冷蔵庫、洗濯機、掃除機(後に白黒テレビと交代)を、天皇家に伝わる秘宝、八咫鏡・天叢雲剣・八尺瓊勾玉になぞらえての表現なのはいうまでもありません。
ところで、「三種の神器」(家電のほう)のうち一番普及が遅かったのが冷蔵庫なのだとか。最も生活に密着する「食」にかかわる家電製品が一番あとだったのは意外な感じがします。そんな家電たちがあこがれの対象だったことを今に伝えるチラシをヤフヲクで入手しました。

ちゃんと冷蔵庫も白黒テレビもあります。コピーをみると「海底の宝はあなたの手で!」とあって「海底」が「かてい(家庭)」に掛けられてるちょっと無理がある一文。とはいえ、まさに「宝」として家電製品が位置づけられていたことがわかります。

一方、こちらは三洋電機の電気冷蔵庫。工場で大量生産される冷蔵庫。ぞくぞくとつくられている光景は、最先端の製品であることだけでなく、それだけ「当然に購入すべきもの」であることもアピールしています。
さて、そんな冷蔵庫について、なんとも興味深い品をこれまたヤフヲクにて入手しました。それが松下電器の「ナショナル冷蔵庫」パンフレット。紙面に踊る「冷気ジェットサイクル・セブン」だとか「5面強力冷凍室」といったネーミングから1966~67年あたりのものと思われます。
このころになると、もう「三種の神器」は「宝」の座を次の世代へとゆずりわたしています。それが、「3C」あるいは「新・三種の神器」と呼ばれたカラーテレビ・クーラー・自動車。それゆえ、冷蔵庫を囲む家族の姿は、よりフランクなものへと変化し、家族が家族たる要、蝶番のようにみえてきます。
一般家庭への冷蔵庫普及が大いに進んだ当時、まだワンドアが主流だった冷蔵庫を囲んで登場するのは夫と妻、その子ども二人です。手元にある2種類のパンフは、それぞれにモデル家族が異なります。でも、家族構成だけでなく手に持っているもの(絵画でいうアトリビュート)がきれいに揃っているのがわかります。


パンフ1 パンフ2
夫 ビールジョッキ ビールジョッキ+BBQ
妻 サラダ料理 さざえ料理
長男 スイカ玉 スイカ(カット済)
長女 アイスクリーム 誕生日ケーキ
夫はビールジョッキ、妻は料理(サザエでございます!)、長男はスイカ、長女はスイーツ。今とはちがい60年代後半ゆえ、露骨に性別役割分担意識が反映されているのが見てとれます。
そして夫婦に子ども二人という核家族がモデル化されているのもまた時代の刻印でしょう。メインビジュアルの登場する冷蔵庫「NR-120CF型」は「3~5人の標準ご家庭に」という設定です。ラインナップをみるとこれがメイン層で、ほかに「ご新婚・少人数のご家庭に」「多人数のご家庭お買い換えに」「独身・個室・小人数のご家庭に」といった家族形態に対応した商品が紹介されています。
パンフ掲載のモデル家族が1967年時点のものだと仮定して、たとえば長男小5(12歳)・長女小3(10歳)としてみると、妻は「女性の結婚はクリスマスケーキ」だなんて言われた規範からして25歳で長男出産で1930年生まれと推察できます。夫はその数歳上でしょうか。夫婦ともにいわゆる昭和ヒトケタ世代。
昭和ヒトケタ世代が結婚して子を産む時期に急激な出生率の低下が起こり、いわゆる「二人っ子革命」が展開していきます。子どもを少なく産んで大事に育てる。子どもは農業を手伝う「生産財」ではなく、愛情注いで育てる「消費財」へと変化していった時代にこのモデル家族は重なります。
冷蔵庫が徐々に大型化するに従って、住宅もまた持ち家の普及と大型化(2階建てが増加)。長男はたらふくスイカを食べられることと引き換えに、勉学に励みよい就職先を得ることが期待されます。長女はアイスクリームやケーキを食べて、よいお嫁さんとなり母のように家庭をささえてサザエを焼くスキルを磨くのでした。
同様にビール片手にBBQな夫もまた、60年代から加速化する持ち家取得をすでにすませたのか、あるいは長男坊の進学にあわせて計画中な頃。公庫融資にあわせて当時普及しはじめた民間銀行の住宅ローンを背負うがゆえに、その笑顔には幸せをかみしめつつも「飲まずにはやっとれん」な気持ちが秘められているのかもしれません。
いわば、冷蔵庫は戦後家族を営むための兵站としての役割を担ったものであり、それゆえ60年代には新婚家庭の必需品、あるいは嫁入道具としての機能も持つことになります。
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あたらしい家庭に、あたらしい冷蔵庫を……このねがいをこめて、とくに設計した冷蔵庫が〈花束〉です。冷凍時代にふさわしい高性能設計ですから冷やす力、貯えるスペースのひろさも抜群新家庭にピッタリの冷蔵庫です。


余談ですが(そもそも全部余談ですが)、1970年代にはいるといよいよ冷蔵庫は「神器」の地位を確たるものにしたのか、三洋電機は冷蔵庫の丸型ハンドルにはめ込みできる「家紋」プレゼント企画を実施。テレビにもカバーがかけられ大事にされたように、冷蔵庫はご先祖さまからの系譜を意識する聖なるものとして機能したのかしらと思えてきます。

「ナショナル冷蔵庫」はじめ、冷蔵庫のパンフレットや広告は、その時代の社会規範や家電トレンド、住宅事情、そして家族それぞれの願いと思いが「冷気急降下」で冷蔵保存されて今に伝えてくれるのです。パンフの中にも歴史の候ぞ。
(おわり)
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