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ジャームッシュ14 映画 『デッド・ドント・ダイ』 物欲社会のゾンビたち

The Dead Don't Die 2019
ジム・ジャームッシュ監督 104分

我々は、すでに消費とスマホのゾンビか

平和な田舎町センターヴィルで、地球の自転軸のズレが原因とみられる怪奇現象が発生。ある夜、内臓を食いちぎられた女性2人の変死体が発見された事を皮切りに、やがて町に溢れかえったゾンビたちは、生前に執着していた物を求め徘徊を始める。3人の頼りない警察官たちが、日本刀を操る謎の葬儀屋と共に、ゾンビたちに立ち向かうが…

The Dead Don't Die
ビル・マーレイ、クロエ・セヴィニー、アダム・ドライバー

一見すると「脱力系ゾンビ映画」だが、ジム・ジャームッシュ監督らしく、その奥には現代社会への強烈な風刺が込められている。

舞台は平和な田舎町センターヴィル。極地での資源採掘「ポーラー・フラッキング」によって地球の自転軸がズレ、異常気象や電子機器の停止、動物の異常行動が起こり、ついには墓場から死者が蘇る。この荒唐無稽な設定は、気候変動や環境破壊に対する人類の無関心、そして政府や企業が利益のために危機を否認し続ける現実へのブラックユーモア。

人々は明らかな異変を前にしても、目先の便利さや生活を優先し、破滅に向かっている現実から目を背け続ける。ゾンビたちは、ただ人間を襲うだけではなく、生前執着していた「コーヒー」「ワイン」「Wi-Fi」「iPhone」などを呟きながら徘徊。「物質やデジタルに依存し、思考を放棄した現代人は、すでに生きながらゾンビ化しているのではないか」という監督の痛烈な問い。ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』が描いた消費社会批判を、スマホと情報依存の時代にアップデートした作品とも言えるだろう。

また、登場人物が「ジムにもらったスクリプトを読んだから、結末知っている」と言ったり、主題歌についてメタ的発言も重要だ。これは観客を映画の物語に没入させるのではなく、むしろ現実へ引き戻すための仕掛けだろう。

最悪の未来が分かっているのに、行動を変えられない登場人物たちは「気候危機や社会の崩壊を知りながらも、消費をやめられない、私たち自身の写し鏡」でもある。

主題歌『The Dead Don’t Die』も、映画の核心を象徴する。穏やかなカントリー調の曲でありながら、歌詞は「生きていても、精神的には死んでいる現代人」への皮肉に満ちている。スタージル・シンプソンによるこの曲と、ジャームッシュ自身のバンドSQÜRLによる不穏なノイズ音楽の対比は、平和な日常が終末へ崩れていく違和感を音楽面からも際立たせている。

イギー・ポップやトム・ウェイツの起用にも、監督の音楽的なリスペクトが込められている。イギー・ポップは「コーヒーに飢えるゾンビとして、剥き出しの欲望を象徴」する一方、トム・ウェイツ演じる世捨て人ボブは「文明や消費社会から距離を置き、世界の崩壊を見届ける預言者のような存在」として描かれる。彼が生き残ることは、物質主義から離れた者だけが精神のゾンビ化を免れる、というメッセージでもある。

ティルダ・スウィントン演じる謎の葬儀屋ゼルダも、象徴的存在。日本刀を操る彼女は、以前の作品『ゴースト・ドッグ』に共通する、日本文化へのオマージュ&パロディ、同時にクラシックなB級SF映画への愛もまとっている。彼女がなんとかしてくれそうな雰囲気の中、終盤、地球人を救うことなく、さっさとUFOで去っていく。これは「都合よく人類を救ってくれるヒーローなど現れない」という、ハリウッド的救済の否定に見える。

ラスト、ロニー巡査とクリフ署長は、破滅が避けられないと知りながらも、ゾンビの群れへ突撃。そこにあるのは、希望ではなく、諦念を通り抜けた倫理。世界の終わりが避けられないとしても、最後まで人間らしさや誇りを失わずにいられるか。その問いなのかもしれない。

『デッド・ドント・ダイ』は、グダグダでシュールなゾンビ映画に見えて、実は消費社会、環境破壊、デジタル依存、政治的無関心への怒りに満ちた作品。美しく哀しい『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』が滅びゆく世界へのエレジーだとすれば、本作は「もう手遅れかもしれない世界」へ向けた、ジャームッシュ流の最後のブラックジョークで、不器用な人間愛の表現だと感じた。

物質主義から逃れられるのか

結局、物質主義ゾンビから免れた人物は、世捨て人のボブと、拘留所から逃げた若者3人と、仏教を崇め武士道を極めUFOに連れ去られたゼルダ。居場所を持たない者たちか。

デッド・ドント・ダイ The Dead Don't Die

主題歌「ザ・デッド・ドント・ダイ」スタージル・シンプソン
"The Dead Don't Die" Sturgill Simpson

(日本語の意訳)

ああ 死者は死なない
あなたや私と同じように 彼らはただ 夢の中の亡霊
自分のものでもない 人生という夢の中にいるだけ

彼らは時々 歩きまわる 何ひとつ気にも留めずに
私たちが送る愚かな暮らしや 自分たちで蒔いた種の刈り取りにも

どの街角にも コーヒーが一杯待っている
けれどいつか目覚めたとき
その街角ごと消えていることに気づくだろう
それでも死者たちは この古い世界をひとり歩き続ける
ああ 人生が終わったあとも
死後の世界は続いていく

懐かしい友人たちが 歩いているだろう
どこか見覚えのある町の中を
それは あなたがスマホから顔を上げたとき
一度だけ見たことのある町

誰もわざわざ「やあ」とは言わない
だから別れの言葉も取っておけばいい
みんな孤独ではないふりをするのは、もうやめよう

朝の通りは ひどく空っぽに見える
夜になっても 灯りに照らされる人影はない
それでも死者たちは この古い世界を ひとり歩き続ける
ああ、人生が終わったあとも 死後の世界は続いていく

愛する人が旅立つとき 心は張り裂ける
もう永遠に戻ってこないのだと思うから
だから私たちは 自分に言い聞かせる
彼らはいつも すぐそばにいるのだと
去ってしまったけれど 忘れられはしない
残されたのは、ただ記憶だけ

それでも死者たちは この古い世界を ひとり歩き続ける
ああ 人生が終わったあとも 死後の世界は続いていく
ああ 人生が終わったあとも 死後の世界は続いていく

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