見出し画像

【第10話】愛犬と歩いてきた、もうひとつの旅の話

立ち止まってしまった時間が、ほんとうは始まりだったのかもしれない。
犬と過ごした日々の中で、暮らしと仕事を静かに再構築し始めたお話しです。


― 翼をたたんだあと、寄り添ってくれていた愛犬 ―


暮らしの隙間に、そっと寄り添うぬくもり


静かな家。
暮らしの音だけが響く日々。
にぎやかだった一軒家は、今やポツンと一軒家になっていた。

──でも、完全な独りではなかった。
一頭の犬が、私のそばにいてくれたからだ。

言葉は交わせない。ただ、黙って寄り添ってくれるだけ。
嬉しい日も、疲れた日も、無気力でぼんやりとしていた日も。

その静かな存在に、どれだけ心を救われたか、数えきれない。


彼との時間が、私を地上につなぎとめた


空を飛び続けてきた私が、
コロナ禍で翼をたたみ、地上で暮らし始めたとき──
最初にしたことのひとつが、「陸を翔ぶ」ことだった。

かつて急造でDIYしたファッショントラック。
コロナで人生がひっくり返るような中、
藁にもすがる思いで飛び込み、答えを求めた無我夢中の旅。

サンプルを詰め込んで、移動型ショールームとして全国を回った。
東京に来られない顧客の元へ、商談のために走り続けたあのオンボロのキャラバン。

その車を、自分の手で車中泊仕様にDIYした。
今度は仕事ではなく、「暮らしを確かめるための旅」へ。
彼と一緒に"陸を翔び"、小さな町、大きな空、ひらけた風景をめぐった。

それは「働くため」ではなく、「ともに生きる」ための時間だった。


言葉がいらない時間の中で、私は立ち直った


焚き火の音。朝のひんやりした空気。
道の駅での休憩、菜の花畑、犬連れOKの古民家カフェ。

そんな何気ない時間の中で、私は少しずつ息を吹き返していった。
疲れきっていた心が、彼のまっすぐな瞳と、無垢な信頼に触れるたび、静かにほどけていった。

「この子のために、ごはんを用意しなきゃな」
「今度は、あそこへ行ってみようかな」

そう思えることが、自分の暮らしをまた、リズミカルに手繰り寄せる力になった。


モノと向き合うときもまた、彼が見守ってくれていた


いま私は、かつて使っていた道具や服、思い出の品を整えて、
次の誰かへリレーする準備をしている。

その作業のそばには、いつも彼がいる。
ポスターや靴をじっくり眺めて、あれこれ考えていると、少し離れた場所からじっとこちらを見ている。

でも、口も手も出さない。
気が済むと、そっと陽だまりの中へ移動して、また丸くなって眠っている。

私にとっては、「準備する時間」。
彼にとっては、「いつもの日常」。

だけどその、理由なき時間の重なりが、なんだかとても心地よかった。

きっとこういう時間の中にこそ、本当の豊かさがある気がした。


彼との暮らしが、この新たな試みの“本当の軸”


気づけば、彼の存在がこの試みの中心にあった。

届けたい世界観、noteに綴る文章、モノに込める気持ち──
そのすべてが、それまでの「新しい仕事作らなきゃ」ではなく、
「犬とともにある静かな暮らし」の実現につながっている。

この物語を読んでくれる誰かにも、
きっと、何かを失ったり、ふと立ち止まった時間、そこから少しずつ始めた何かがあるのではないかと思う。

その小さな再出発と重なったとき、このリレーはきっと意味を持つ。

そして、そう感じてもらえたのなら――
あなたへ、何かが、きっと届いたのだと思う。


つづく



いいなと思ったら応援しよう!

翼をたたんだ旅商人 よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!