木魚|毎週ショートショートnote
夜の寺は静かだった。いや、静かすぎた。
檀家の仕事で仏間の掃除を任された俺は、住職の不在中、ひとり本堂にいた。埃を払いながら、ふと視線を感じて顔を上げる。そこにあるのは、古びた木魚がある。
不気味に光る木目が、俺を睨んでいるように思えた。
――気味が悪いな……。
そう呟いた瞬間、コツ、コツ、と乾いた音が鳴った。
周りを見回して、その音の正体に気付いた。誰もいないのに、木魚が鳴っている。俺は凍りついた。風のいたずらかとも思ったが、扉は閉まっている。
音は続く。コツ、コツ、コツ……。まるで誰かが念仏を唱えているかのように、一定のリズムを刻んで。
――逃げろ。
直感がそう告げても、残念ながら足が動かない。恐怖で喉が詰まり、叫ぶことすらできなかった。
「……かえせ」
耳元で、男の声がした。低く、濁った、怨念のこもった声。
――クソッ!!
気合で恐怖を吹き飛ばし、俺は木魚を手に取る。そのまま放り投げようとすると、木魚の中からボロボロと何かが落ちた。
古びた数珠、小さな骨、そして……人の歯。
俺は一目散に逃げた。
それ以来、夜になると、どこからともなく木魚の音が聞こえてくる。
コツ、コツ、コツ……。
あの声が、今夜も言う。
「……かえせ」
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「木魚感想文」です。
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