本の住人|毎週ショートショートnote
本を開くたび、僕は現実を少しだけ忘れる。でも、今日の一冊は違った。ページの奥から、誰かが僕を覗き込んでいる気配がした。
「ようやく見つけた」
紙の間から声がした。文字が滲み、黒いインクが小さな人影に変わる。思わず本を閉じようとしたけど、指が動かない。
「読んでくれなきゃ、みんな消えてしまう」
人影は震える声でそう言った。
頭がおかしくなったんじゃないかと思ったけど、次の瞬間、教室のざわめきが消えていた。机も椅子もなく、僕は一面の白い空間に立っていた。手にしているのは、ただの本。そのページの中には、闇に飲み込まれかけた町と、助けを求める人々が描かれていた。
「君が読むほど、みんなは生きられる」
本の住人が必死に訴える。読むことが、彼らの命の灯なのだと。
僕は深呼吸をして、一行目に目を落とした。声を出すと、白い空間に色が差し込み、文字が踊り出す。
読書は逃避じゃない。誰かを救う扉なんだ。
そう気づいた時、僕は二度と、読書を「ただの暇つぶし」なんて言わなくなった。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「読書手術」です。
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