風が生まれる場所へ|毎週ショートショートnote
「風が生まれる場所へ行く」
父がそう言って家を出て、4日が経った。
私が住む町は海に近く、いつも海風が吹いている。
――水と風は万物の源。
小さい頃からそう教えられて育った。でも、私が中学生になった頃からだろうか。1年のうち何日か、風が吹かない日があった。私は別に気にしなかったが、周りの大人たちは静かに騒ぎ始めた。
――風が死にかけているんだ。
時折、そんな言葉が聞こえてくる。そして、私が高校生になる頃には、風が吹く日より、風が止む日の方が多くなってしまった。
毎日のように街中の人が集まり、あれやこれやと話し合いが行われたが、解決には至らない。
ある日、夕食を囲んでいる時に、父がぼそっと言った。
「行くしかない。風が生まれる場所へ」
私は何のことか分からず、頭の中にはてなマークが浮かんだが、母は今にも泣きそうな顔になっていたのを覚えている。
父が出て行って4日。母は警察に捜索願も出さないし、町の人もいつも通りの生活を送っていた。
――おかしい。
私は母に聞いた。
「ねぇ、風が生まれる場所ってどこなの? お父さんは、そこに行って何をしようとしてるの?」
母は答えない。
「ねぇ! お父さんのこと、心配じゃないの!?」
つい、語気が荒くなる。
「知らないのよ……」
母はぽつりとこぼす。
「知らないって……どういうこと?」
「ごめんなさい。本当に詳しいことは知らないのよ」
言いたいことはたくさんあったが、下を向く母に、これ以上追及する気にはなれなかった。
――1か月後。
ふと、明け方に目が覚めた。早起きが何より苦手な私が、こんな時間に目が覚めるのは珍しい。窓からは、うっすらと白み始めた空が見える。
――え? お父さん?
寝ぼけているのか、それとも幻聴なのか。父に呼ばれたような気がして、ベッドから起き上がって窓を開けた。
――あ、風……。
部屋に、冷えた空気が流れ込む。
私は確信した。
父は、もう戻って来ないのだと。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「風を治すクスリ」です。
お題を見た瞬間、西村由紀江さんのアルバム「風が生まれる瞬間」(2000年)を連想しました。
このアルバムの1曲目の「誕生」という曲が物凄く好きで、いろんなところで弾いたな―なんて思い出しました。
録音が残っていますが、公開はしません。(゚∀゚)
こちらもどうぞ。
テーマ「創作」でCONGRATULATIONSを頂きました!

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