幻の夕焼け|掌編小説(朗読あり)
何もしなかった休日の夕方、少しでも体を動かしたくて外に出ると、河川敷の公園で絵を描いている人がいた。小さな椅子に座り、画用紙に向かって筆を動かしている。
――売れない画家ってやつかな。
後ろからそっと近づき、画用紙を覗き込むと……画用紙は真っ白だった。シャッシャと、画用紙の上を走る筆の音だけが聞こえる。
――なーんだ。描いてるフリか。
私に気づいたのか、画家は振り向いた。
「あ、すみません。何を描いてるのかなって……」
画家はにっこりと笑い、画用紙を額にはめ込んで、私に差し出した。
「どうぞ。要らなければ捨ててください」
「え? ああ、どうも……」
断ることができず、結局そのまま部屋に持ち帰った。
「こんなの、要らないって……」
絵をベッドに投げた瞬間、私は驚いた。さっきまで白紙だった画用紙に、見事な夕焼けが描かれている。
――うそ! なんで!?
絵に疎い私は、それが油絵なのか、水彩画なのか、色鉛筆画なのか分からない。でも、言葉では言い表せない、凄い迫力がある。
――本当に、画家だったんだ。
しばらく絵を見つめていると、絵はすっと消えた。
――来週、また会いに行ってみるか。
私は真っ白な画用紙を抱きしめた。
(了)
stand.fmにて、ミントさんに朗読して頂きました。
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