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第二十六章 ハノイの風景を読む(ヴェトナム、たくさんの顔をひとつひとつ見つけてゆく旅――行き当たりばったり右往左往、ヴェトナム紀行)

ハノイへ着いた私が、最初に向かったのは、Bach Ma Temple(白馬寺)だった。ハノイでもっとも古い寺院のひとつである。寺院は旧市街の一角に、つつましく建っている。

門をくぐり、薄暗い神殿へ足を踏み入れた私は、思わず立ち止まった。
そこには、つややかな白い馬が鎮座していた。
神様になった白い馬。
私は、なんとも不思議な気持ちにとらわれた。
こんな寺院は、これまで見たことがなかったから。

どうやらここでは、道教とヴェトナムの土着信仰が交じり合い、白馬ロン・ドー(龍肚)がハノイの守護神として祀られているらしい。もっとも、こういうことはヴェトナムでは、けっして珍しくないという。

しかも、この寺院にはさらに奇妙な伝説が残されている。かつて城壁の建設がうまく進まず、人々が困り果てていたところ、白馬が現れ、その足跡に沿って城を築いたところ、見事に完成したというのである。

さらに、この寺院の神は、中国支配時代の官僚である曹備の呪いを解いたとも伝えられている。いやはや、すごい。

つくづく宗教というものは、その土地土地で違った花を咲かせるものである。人々の不安や願い、抑圧や祈りが、いつしか新しい神を生み出す。そんなふうに要約してしまっても、あながち間違いではないだろう。



続いて私は、ヴェトナム女性博物館へ向かった。
ここは、ヴェトナム諸民族の衣食住や婚姻の様式を紹介するとともに、
ヴェトナム女性たちが社会や歴史のなかで果たしてきた役割を顕彰する、ジェンダー・ミュージアムである。

私は、この博物館が好きになった。文化人類学の視点が生きていて、展示がよく考えられている。

色鮮やかな民族衣装の数々は実に美しい。
もしファッション・デザインに関心のある人ならば、
ここでいくらでもインスピレーションを得られるでしょう。

ヴェトナムという国が、実は多民族国家であることもまた、
あらためて実感させられる。





そして私は、ハオ・ロー刑務所へ向かった。
フランス植民地時代、政治犯や革命家たちが収容された場所である。

薄暗い集合房。
足枷。
ギロチン台。

展示を見ているうちに、私は次第に息苦しくなってきた。

人は、こんな場所で、どうやって
希望を持ち続けることができただろう。

そして私は思う。私はもう、かつてのようには、マルグリット・デュラスの『ラマン(愛人)』を読むことができない。

その理由については、次の章で、もう少し考えてみたい。

つづく

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