短編:恋の途中
◉風まかせ文芸部【途中】参加作品
「ごめん、もう無理だと思う」
その一行を、指先でなぞって何度も読み返している。理由は書かれていない。
問い返しても、既読が静かに増えていくだけで、返事は一度も来ることはなかった。
何を間違えたのか、わからない。その日までは普通だったのに。そう思っていたのは、私だけだったのだろうか。
同じ歩幅で歩いて、同じものを食べて、同じことで笑って。未来の話だって、確かにしていた。それが、ちゃんと続いていくものだと疑いもしなかった。
思い返せば、何かが少しずつ変わっていたのかもしれない。返信の間が長くなったこと。会う約束が減っていったこと。笑顔が、ほんの少しだけ遠くなっていたこと。
でもそれを、私は気づかないふりをした。理由を知るのが、ただ怖かったから。知らなければ、壊れないままでいられる気がしていた。
たぶん、それが間違いだった。でも、どこまでが間違いだったのかは、もう分からない。
あの日、あの言葉を言わなければよかったのか。それとも、言わなかったことがいけなかったのか。
もっと優しくすればよかったのか。もっと彼の胸の内を聞いておくべきだったのか。考えるたび、全部が間違いだったような気がしてくる。
もう終わっているのに、終わってしまった実感がない。彼はもういないのに、日常のあちこちにまだ彼がいる。
スマホの中の会話。何気なく撮った写真。ふとしたときに思い出す声や癖。
消してしまえばいいのに、消せない。消してしまったら、本当に何もなかったみたいになるから。
私がここにいた証拠まで、消えてしまいそうな気がして。
だからといって、残しておいても続きはどこにもない。終わりにも辿り着けず、始まりにも戻れず、切り離された時間の中に、ただ取り残されていく。
息をするたび、胸の奥が少しずつ削れていくのを感じる。空気を吸うだけで、何かが減っていくように。
こんなふうに、理由も知らされないまま、一方的に終わらされるなんて、思ってもみなかった。
せめて、ひとつでもいいから答えがあったなら。何を間違えたのか。どこで終わってしまったのか。そうすれば、ここから抜け出せたはずなのに。
私はまだ途中にいる。終わり方すら与えられないまま。
ただ、静かに削られ続けるだけの、恋の途中に。
