若者からお年寄りまで幅広い層に支持されたヒットの理由【映画「国宝」】
どうも、まろん亭奏字と申します。
子供の時分、切手を集めるのが趣味でございました。
切手のカタログ集を毎日眺め、通信販売で切手を買うことに夢中になったものです。
切手の中に「国宝シリーズ」というものがございます。
お寺とか仏像の画像が印刷された切手で私も何枚か持っておりました。
国宝とは、1950年に定められた「文化財保護法」の中で、「世界文化の見地から価値の高いもので類いない国民の宝たるものであるとして国が指定したもの」とだそうです。
今回は映画そのものが「国民の宝たるもの」と言ってもいい、「国宝」という映画についてお話したいと思います。
ソリッドな物語
長崎にヤクザの親分を父に持つ喜久雄という少年がおりました。
子供の時分に抗争で父を殺され、歌舞伎役者・花井半二郎に引き取られます。
歌舞伎に魅せられた喜久雄は、半二郎の息子・俊介と切磋琢磨しながら、芸の頂点を目指します。
雪景色から始まる物語。
喜久雄の父、権五郎に招かれ、一家の新年会に招かれた半二郎は、そこで余興の歌舞伎で女形を演じる喜久雄を見て、その才能に驚きます。
半二郎を演じるのは世界のケン・ワタナベ。
もう画面に登場した瞬間からその佇まいと纏っているオーラが違います。
劇中、半二郎が喜久雄に稽古をつけている時、「役に入っていない」的なことを言って叱責する場面があるのですが、今まで多くの映画やドラマでその役に入りきってきたケンさんだからこそ、その言葉には圧倒的な説得力を感じました。
立花親分を演じているのは永瀬正敏さん。
ドラマ「私立探偵 濱マイク」のイメージが強い永瀬さんですが、若い頃はチンピラチックな役が多かった彼が貫禄ある親分を演じているのは感慨深かったですね。
そして、少年時代の喜久雄を演じる黒川想矢君。
どこかで見た顔だなと思ったら、是枝裕和監督の「怪物」で麦野湊(みなと)を演じていた子でした。
「【推しの子】-The Final Act-」では、犯人の少年時代も演じていましたね。
この映画では、いろんな方が歌舞伎の舞台に立つシーンがあるのですが、一番最初に歌舞伎シーンを演じる想矢君は最も重要なポジションと言ってもいいでしょう。
彼の歌舞伎が観客の目に「本物」と映るかどうか、半二郎が「ほお」という顔をして嘘っぽくならないかは彼に掛かっています。
それを相当な稽古をしてきたとはいえ、サラッとやってのける想矢君はまさに「怪物」、いや「国宝級」の役者と言ってもよいのではないでしょうか。
そして、まあ、いろいろあって半二郎に引き取られるんだろうなあと思っていたら、まさかのカチ込み。
いきなり、永瀬親分が討ち死にしてしまいます。
展開はやっ!
まあ、1960年代から始まり、現在まで50年くらいに及ぶ壮大な話ですからね。ちんたらやっているヒマはありません。
その後もあっという間に半二郎に引き取られ、あっという間に初舞台。あっという間に三代目を襲名し、あっという間に放浪の旅。
そして、あっという間に喜久雄は人間国宝になります。
ただ、エピソードとエピソードの間の時間はすっとばしますが、1エピソード1エピソードは丹念に描く。
さすが、職人、李相日(リ・サンイル)監督。
この方、「フラガール」(2006年)や「悪人」(2010年)などをお撮りになっている監督で、物語をちょっと引いた視線でソリッドに描き、お決まりのセンチメンタリズムを排し、それでも情感たっぷりな映像で魅せるのがお上手なんですね。
私はこの映画を観る前に、予告編を観て、「ハイハイ、名門の血筋に生まれなかった歌舞伎役者が伝統に縛られた歌舞伎界で苦労していく話なのね」と、いわゆるベタベタの日本映画を想像しておりましたが、想像していたよりもカラッとしていて、テンポが良かったので驚きました。
他の監督ならコテコテになっちゃう、俊介が歌舞伎界を去るシーンも、舞台上の喜久雄とカットバックで見せることで、とてもソリッドに描かれています。
血筋かスキルか、みたいなもう過去何千回も擦られたネタが、「いや、そんなところで終わる話じゃないですよ」と一段上の「サーガ」にまで昇華させたのは李監督の手腕によるところが大きいと思います。
息を呑む歌舞伎のシーン
そして、重厚な物語と並び、本作のもうひとつの柱が歌舞伎のシーンです。
これが本当に素晴らしい。
「ああ、日本人に生まれてよかったな」と思わされます。
と同時に、「世界中の人に観てほしい」と思いました。
しかも、演じているのはケン・ワタナベや主演の吉沢亮さん、横浜流星さんといった、歌舞伎が本業ではない人たちだというのですから驚きです。
田中泯(みん)さんなんて、「人間国宝」を演じているわけですからね。
そのプレッシャーたるや、なかなかのものだったと想像できます。
この方、元々、舞踏家もおやりになっているそうですね。
私が初めて田中さんの演技を拝見したのは、たしか「外事警察 その男に騙されるな」という映画だったと思いますが、北朝鮮の科学者を迫真の演技で演じてらっしゃいました。
今回の小野川万菊もそうですが、憑依型の役者さんですね。
「演じる」というのはそもそも「嘘」「虚構」の世界ですからね。
その「嘘」をいかに「本当」に見せるかが、エンターテイメントの真髄と言ってもよいでしょう。
私は本物の歌舞伎を観たことはございませんが、本作で描かれる歌舞伎を観て、本物っぽい空気感を感じました。
この「っぽい」というのが実は非常に大事なのではないかと思います。
本物って意外と本物っぽく見えなかったりすることってありませんか?
これは私の想像に過ぎませんが、この映画で描かれている歌舞伎ってあくまでも、「映画『国宝』の中の歌舞伎」だと思うんです。
いわば、李監督の目というフィルターを通した歌舞伎。
本物を見せたければドキュメンタリーを撮ればいいわけですからね。
だからと言って、適当にやっていたら冷めてしまう。
嘘なんだけど、本物。
エンターテイメントなんだけど、本気。
そこに魅せられて、この映画は多くの人の心を掴み、ヒットしているんだと思います。
重厚なのにポップ
もう一つ、この映画がヒットしている理由として、ウケる年齢層が幅広いというところもあるんじゃないかと思います。
テーマが歌舞伎で、タイトルが「国宝」というところから、高齢者向けかと思いきや、吉沢さん、横浜さんといった人気のイケメンを起用し、若者にも訴求するスピーディーな展開やポップな画作り。
放課後に喜久雄と俊介が河原や橋の上で自主練するシーンは青春映画っぽい爽やかさがあり、放浪時代、喜久雄が暮れなずむ景色の中で呑んだくれるシーンは、A24のようなエモい感じや、「ジョーカー」の1シーンを彷彿とさせます。
とにかく、歌舞伎の舞台衣装のような彩りの豊かさで、観る人、観た時期によって印象が変化するような映画でした。
だから、今、20代でこの映画を観た人も、10年後、20年後観た時に、また違った印象を受けるのではないでしょうか。
また、重いエピソードも重すぎないように見せるというか、事実の重さだけを伝え、そこに必要以上に演出を載せないスマートさも良かったですね。
同じ李監督の「悪人」も凄惨な話なのになんかカラッとした味わいがあったので、彼独特のセンスなのかもしれません。
というわけで、今回は映画「国宝」についてお話させていただきました。
昨今の中国、韓国のアニメやゲームを観ていると、もはや「萌え」や「燃え」は日本の専売特許ではないと感じます。
ですが、この映画で描かれているような伝統芸能については、時代に左右されない、世界に誇れる日本の文化と言えるのではないでしょうか。
国は、アニメやゲームばかり押していないで、こういうものも「クールジャパン」としてどんどんお金をかけていくべきだと思います。
それでは、また。
「国宝」
2025年公開
日本映画
監督: 李相日
出演: 吉沢亮、横浜流星
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