見出し画像

現代版ネズミ小僧、現わる


俺の名は――そうだな、仮に「次郎吉」とでもしておこうか。ご先祖は江戸の義賊・ネズミ小僧。庶民の味方として悪人の懐を狙い、盗んでは配った伝説の人物だ。

ただし俺は、屋根の上を、走ったりはしない(笑)今の時代は金庫よりも、パソコンの中のデータのほうが、よほど価値がある。つまり、俺の得物は刀でも忍び足でもなく――ハッキングだ。

世間では「ホワイトハッカー」「ブラックハッカー」と区別されている。前者は防御や解析を担う善人、後者は破壊と搾取を行う悪党。だが俺は、昔でいえば悪代官や、悪徳商人の敵になるので、ホワイトハッカーよりな。

俺が狙うのは、マフィアやギャング、あるいは違法薬物などで、莫大な利益を上げる悪徳企業。連中の裏口座に侵入し、金を吸い上げる。表には出ない金だ。その金を、貧民街と呼ばれる地区の住民へ分配する。そう、現代版のネズミ小僧だ。

口座番号を調べるなんて、朝飯前だ。市役所のサーバーに忍び込めば、給付対象世帯や、生活保護世帯の一覧が一瞬で手に入る。リストアップして、確認用の顔写真も手に入れた。そこへ一世帯あたり、百万単位で振り込んだ。

「…ご先祖様、見てますか?」俺は、モニターに映る数字を眺めてニヤリとした。これこそ、ネズミ小僧の生きる道。

すぐに騒ぎになると思った。「奇跡の給付金」だの「救世主現る」だの、マスコミが大騒ぎするだろうと。

……だが、何も起こらない。町並みは変わらず、住民たちの暮らしも、相変わらずくたびれたまま。スーパーの売り上げも、商店街の景気も変化がない。

「…なぜだ? ——借金返済にでも、消えたのか?」

首をひねった俺は、さらにもう百万を世帯分、追加で振り込んだ。二度目ならば、確実に暮らしぶりが変わるはずだ。

だが、一週間たっても、十日たっても、何の変化もない。住民たちは、以前と同じボロ家に暮らし、衣服もボロボロのまま。

「…おかしいな。美味しいものや、流行の服でも、着れるだろ」

俺はついに業を煮やし、部下に住民の動きを調べさせた。——数日後、報告が上がる。

「ボス、わかりました」

部下は、苦い顔で言った。

「奴ら…毎日毎日、競輪、競馬、パチンコしてます」

送られてきた映像は、パチンコ店。見覚えのある顔が、ずらり。…笑顔で負けている。振り込んだ金は、ギャンブルに消えていたのだ。

「……ご先祖様、すみません。庶民は庶民でも、時代が違いました」

俺は頭を抱え、ディスプレイを閉じた。

(了)

───

📖 ショートショートシリーズ

👉 現代版ネズミ小僧、現わる
👉 AI組長選考システム【本部通達】
👉 ──市役所のタイムトラベル窓口、混雑中。
👉 第一回父親試験・全国一斉テスト
👉 この駅、降りたら50年前に戻るらしいで
👉 市民寿命管理課
👉 記憶回収課ー
👉第一回父親試験・全国一斉テスト

1話完結でサクッと読める短編をまとめています。
皮肉あり、ユーモアありのショートショートをお楽しみください。

いいなと思ったら応援しよう!

カズヒロ 宜しければ応援お願いします。いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます。