【掌編小説】ちゃんと使ってね。|三題噺
今週の三題噺お題
1.泣き寝入り
2.宿題を持ってくるのを忘れたという嘘
3.眼精疲労
リュウヤの誕生日が近い。
私はこの日にプレゼントを渡して告白するんだ。
リュウヤとは保育園から高校まで、ずっと同じ学校に通っている。今は、クラスも一緒だ。気の置けない幼馴染として、気づいたら一緒にいる。
私はずっと、リュウヤが好きだ。サラサラの髪も、ごつごつした手も、低く響く声も。私の頭をポンポンとしてくれると、幸せで胸がいっぱいになる。距離が近い今の関係が崩れるのは嫌だけど、他の女子に取られるのはもっと嫌だ。
最近、同じクラスのミナミがリュウヤを狙っているらしいと耳にした。あくまで噂。でも、火のないところに煙は出ない。確かにこの前、「リュウヤくんって彼女いるの?」って聞かれたっけ。案外、本気なのかもしれない。
でも、目の前でリュウヤを奪われるなんて、どうしても受け入れられない。リュウヤがその噂を知っているかどうかもわからない。けど、ミナミはかわいいから、言い寄られたらなびいてしまうかもしれない。泣き寝入りするぐらいなら、自分の気持ちを伝えたい。
だから、リュウヤの17歳の誕生日に絶対告白するんだ。帰り道にプレゼントを渡して、そこで言う。
「アカリ!」
リュウヤの声だ。考えていたことを悟られないように、振り向く。
「なに」
「今日、一緒に帰れないわ」
「どうしたの、用事?」
「あのさ、ミナミちゃんに呼ばれてて」
心臓が、跳ね上がる。思わず体がこわばった。
「そうなんだ。なんだろうね」
「わかんない。でも遅くなるからアカリは先帰っててよ」
「わかった」
冷静なそぶりでリュウヤを見送る。本当は後をつけて行きたい。でも、怖くて足が一歩も出ない。
後をつけるのは諦めて、友達のカオリを誘ってマックに入った。
「ミナミ、リュウヤに告白するのかな」
「何それ、あんたたち付き合ってるんじゃないの」
「違うよ、幼馴染なだけだよ」
平気なフリしてコーラを飲もうとした。でも、口にストローを当てられなくて焦る。
その様子を見たカオリが呆れた。
「アカリ、リュウヤくん取られてもいいの?」
「いや、そんなんじゃないけど」
「じゃあ、さっきからの落ち着きのなさは何なのよ」
「え、フツーだよ」
「普通じゃないでしょ。今だってコーラこぼしてるの気づいてないじゃん」
コップを見ると、コーラが蓋から漏れ出している。傾けすぎたようだ。慌ててティッシュを出して拭こうとする。
「気になるなら、見に行こうよ。私、着いていくから」
カオリがけしかける。でも、勇気が出ない。リュウヤがミナミと並んでいるのを想像しただけでも、嫌になる。そんな姿を見たら、その場にいられる気がしない。怖い。
「本当はリュウヤくんのこと好きなんでしょ。見え見えだもん、わかるよ」
カオリは全部お見通しだった。観念して打ち明けることにした。
「明日、誕生日なの。リュウヤの。だから、プレゼント渡して告白しようと思ってた」
「そうだったの。それなら早く言った方がいいんじゃない」
「そうかもしれないけど、ミナミとくっついてたら言えない」
「そんなのわかんないじゃん。ホントは今日の方がいいけど、明日言うなら応援するよ」
「ありがとう」
カオリの応援が心強い。どんな結果であれ、私も白黒つける時が来たようだ。
翌日、リュウヤの誕生日。
「アカリ、今日は一緒に帰ろうぜ」
リュウヤは私の気も知らずに、呑気に声をかけてきた。ミナミとはどうなったのだろうか。気になるけど、とりあえず、リュウヤの隣に並ぶ。
「俺さ、最近目が痛くてさ。眼精疲労っていうの?どうしたらいいかな」
そんなたわいもないことを話すリュウヤ。私は正直それどころではない。バッグに忍ばせたプレゼントをいつ出そうか考えていて、話は上の空だ。
「おいおい、聞いてんのか」
リュウヤが顔を覗き込んできた。そこで私は、勇気を振り絞ることにした。
「あのさ」
「なに」
「今日、誕生日だよね」
「そうだな」
「おめでとう」
「ありがと」
「これ」
バッグからプレゼントを出すと、顔を見ずに渡した。
「やった」
リュウヤは素直に喜んでくれたようだ。早速包装を解いている。
「俺、アカリからもらうのが一番嬉しいんだよな」
━━え、なんて言った?
「タオルかー。俺、汗っかきだからな」
リュウヤは何事もなかったかのように、歩いていく。
私は、さっきのリュウヤの言葉を噛みしめた。
━━アカリからもらうのが一番嬉しい。
え、でも、ミナミとは何もなかったのかな。気になる。
「そう言えば、昨日ミナミに呼び出されたって言ってたのは何だったの」
今聞かなくてもいいかもしれないけど、気づいたら口から出ていた。
「ああ、あれね。宿題一緒にやろうって言われて、図書室に行ったんだ」
「そうなの」
「一緒に宿題やった」
「ふうん」
「あれこれ聞かれたけど、何だったっけな。思い出せないや」
「へぇ」
「何だよ、聞く気ないのかよ」
リュウヤに突っ込まれた。
「そんなことないよ。それで?」
「でもあの子、不思議だな」
「何が?」
「一緒にやったはずの宿題、今日忘れたって言ってたんだよ」
「持ってくるの忘れたんじゃない?」
「いや、ノート持ってきてたっぽい」
「どういうこと?」
「宿題を持ってくるのを忘れたっていう嘘をついてた」
「何でだろうね」
「わかんない。仕上がりが良くなかったのかな」
ミナミの奇行に、思いを馳せる。でも、どれだけ考えても、彼女が宿題を出さなかった理由が思いつかない。リュウヤのことで頭がいっぱいで、宿題をちゃんとやっていなかったのだろうか。
「あのさ、プレゼント」
「何だよ」
「ちゃんと使ってね」
それをいうのが精一杯だった。「付き合ってください」なんていうのは、ハードルが高い。
「おう、大事に使うよ。アカリがくれたタオルだからな」
リュウヤが笑った。その笑顔は、夕日よりも輝いていた。
久々に、ヤスさんの三題噺に参加しました。
お題が難しくて頭を抱えたけど、何とか形になりました。
毎週三題噺で文章論を書いているヤスさん、凄すぎ。
