夫が私に似てきた日。
夫が、私に似てきたと思う時がある。
私の読書の好みが、乗り移ってきたらしいのだ。
良くも悪くもマイペースで、流行とかは一切追わない夫。流行を追うとしたら、お笑いぐらいのものだ。歴史が大好きなので、本棚には歴史関係の本が並んでいる。
対する私はミーハーなので、新しくて面白そうなものには飛びつく。特に読書に関しては、私の好きそうなジャンルで新刊が出ると聞くと、いてもたってもいられず書店へ出向いてしまうほどだ。
本のミーハーさで言えば断然私が勝っているのに、最近夫にもミーハーの片鱗が見えてきている。夫はここ数年大河ドラマにすっかりハマっているので、ドラマの公式本が出るとこっそり買い揃えている。珍しく新しいものに手を出す夫。どうもミーハー気質が芽生えたらしく、いきいきと楽しそうだ。
そんな夫が、最近、私の本棚をしきりにチェックしている。
本棚を眺める夫の姿を見て、私はまた本を増やしたことを注意されるのかと嫌な気持ちになった。以前、夫から「本買いすぎ」と何度か注意されていたから、古い本はBOOKOFFへ出して、新しい本を入れるというプラマイゼロの在庫管理をしている。確かに新しい本は入れているが、数的にはプラマイゼロだ。これで本を買っていることはバレないだなんてこれっぽちも思ってもいないが、少なくとも夫の領域まで及んでいないのだから、迷惑はかけてない自負がある。
しかし不思議なことに、夫による私の本チェックは続いている。またチクチク言われるのかと思うと、気持ちが沈む。と、急に夫の動きが止まった。私の方を向いて言う。
「あのさ、『漫才過剰考察』持ってたの?」
「うん。今年に入ってから買ったよ」
注意されると思っている私は、面倒に思いながらも返事した。すると夫は、もう1冊別の本を見つけた。
「あ、石田さんの『答え合わせ』もあるじゃん」
「ああ、セットで買ったからね」
あら、今日は注意されそうにないぞ?どうしたんだ?私はいつもと違う夫の様子に驚いた。最近は本を増やすことに小言を言うだけで、私の本棚の中身に言及することはほぼなかった。以前は勝手に私の本を読もうとして私に注意されたこともあったが、最近は全然そういう様子は見られない、なのに、また私の本に興味を持ち始めたらしい。
「『漫才過剰考察』読んでみたかったんだよね。読んでいい?『答え合わせ』も読みたいから、2冊借りていい?」
「いいよ、もう私読んだから」
許可したら、夫は嬉しそうに笑った。
「やったー!やっと読める!」
私は小言を言われなかった安堵感と共に、意外な展開に不思議な気持ちになった。お笑いは好きなのは知ってたけど、芸人の本を読むことは珍しい。理由を聞きたくなった。
「どうして読みたかったの?」
「だってさ、話題になってたでしょ。ずっと興味はあったんだよね。図書館に入りそうにないし、どうやって読もうって思ってたところだったから、うちで読めるのは嬉しいよね」
「私がミーハーなのも、たまには役に立つでしょ」
「まあね」
夫と私の読書の趣味は、かなり分かれていると思っていた。たまに夫が私の本を読む時はあったが、まさかお笑い芸人の本に興味を示すとは思わなかった。とはいえ、共通の話題が増えるのはありがたい。読み終わったら感想を聞きたいものだ。
「そういえば、ゆにちゃんが今持ってる本も、この前読んだよ」
突然、夫が告白した。
私が持っているのは、『成瀬は信じた道をいく』だ。
「あれ?読みたいって言ってたっけ?」
「言ってない。でも、本屋大賞候補作って書店で並んでるのを見たから、家にもあったなって思い出して。気になってたから勝手に読んじゃった。ごめん」
本の趣味が合って嬉しいと思っていたら、まさかの告白。別にいいけど、ちょっと引っかかる。
「読むのは構わないけど、事前に一言欲しかったな」
夫に伝えると、夫は少しシュンとした。
「うん。これからはちゃんと言うね」
これでやっと、夫との間に本の取り決めが出来た。
しかし、気がかりがある。
以前にもこんなやり取りをした気がするのだ。
確かnoteにも書いたような…
あった。
この時も、『成瀬は天下を取りにいく』をめぐって、似たようなやり取りをしている。夫が私の『成瀬~』を勝手に読もうとして、私が「一声かけてね」と言っているではないか。
私たち夫婦は、進歩がないらしい。いつかまた、似たやり取りを繰り返す可能性を感じる。でも、仕方がないのかもしれない。
なぜなら私たちは、似た者同士だから。
同じようなやり取りを繰り返しながら、夫婦の歴史を深めていくのだろう。
