子どもを伸ばす称賛のバリエーション ~ 直接ほめるだけが「称賛」ではない
子どもの心的成長には、より多くの称賛が必要といわれています。
心的成長とは、自己肯定感、学習意欲や挑戦意欲、粘り強さ、道徳心などが育まれていくことをいいます。
ただ、称賛は「量」以上に「質」が問われます。
今回は質の話はしませんが、称賛の質まで考慮すると、効果的にほめるチャンスというのは、実際にはそんなに多くありません(これは、家庭にもよります)。
そこで、今回の記事では、「これを知っておくと、効果的な称賛を子どもにより多く届けることができる」という知識を紹介したいと思います。
「ほめる教育」の真髄は、子どもから努力を引き出すこと、子どものしたことから努力の痕跡を見出すことにありますが、今回はそういった本質にかかわる話ではなく、どちらかというとテクニックよりの話になります。
そのポイントは二つです。
称賛の伝え方のバリエーションを増やすことで、称賛の機会を増やす
他人への称賛を聞かせることで、実質的な称賛の入力量を増やす
なお、称賛自体は、プロセス・プレイズ(プロセスほめ)を前提とします。
称賛の伝え方のバリエーションを増やす
称賛には、3つの伝達方式があります。
まずは、それぞれについて見ていきましょう。
(1)直接的な称賛
目の前にいる子どもを直接ほめるやり方です。
ほとんどの場合は、この方法で子どもをほめます。
(2)間接的な称賛・第三者経由
別の人がほめていたことを子どもに伝達するやり方です。
たとえば、
「最近積極的に発言するようになったって、先生がほめてたよ」
などと、他人がほめていたことを本人に伝えます。
(3)間接的な称賛・漏れ聞かせ
大人どうしの会話の中で、子どもをほめるやり方です。
たとえば、子どもが声の届く距離にいるときに、夫婦の会話で、
「最近、〇〇(子どもの名前)が毎日お風呂の掃除やってくれるの。本当に助かるわ」
などと話すのを、子どもに漏れ聞かせます。
(2)(3)の方式を知っておくと便利なのは、第三者からの称賛や、タイミングを逸した称賛を、自然なかたちで子どもに伝えられることです。
それによって、子どもに入力する称賛の量を増やすことができます。
もう一つの利点は、(2)(3)の方式は (1)よりも効果の確実性が高いことです。
子どもは4歳にもなると、「心の理論」が発達して、ほめられた理由を考えるようになります。
そのため、子どもに「よく頑張ったね」と言っても、状況によっては、「ほかにほめるところがないから、そう言うしかないのかな」とか、「いつもの社交辞令かな」とか、かえって疑念を抱かせてしまうことがあります。
しかし、(2)(3)のような「自分がいない場所での評価」は、「本心から言っている」と感じやすく、そのようなリスクを低減できます。
これは、「ウィンザー効果(Windsor effect)」とよばれる「人は、当事者が直接伝える情報よりも、第三者を通じた情報のほうが信じやすい」という心理現象の一種です。
さらに(3)は、「伝達の意図がゼロ」と解釈される「オーバーハード効果(Overheard effect)」が加わります。
ウィンザー効果の最も純粋で、強力な形態と言っていいでしょう。
このように、真実味の感じられやすさ、つまり効果の確実性は、
(1)→(2)→(3)の順に強くなると考えられます。
(2)(3)の方式は、いつも使えるというものではありませんが、これらを取り入れることで、子どもに効果的な称賛をより多く届けられるようになります。
上記の内容は、「オーバーハード効果」を含む「第三者による情報の信頼性」を実証したいくつかの研究結果(たとえば、Walster & Festinger, 1962; Pfeffer et al., 2006 )にもとづきます。
なお、(2) については、これと全く同じ設定の対照実験が(おそらく)なく、他の多くの研究結果から一般化された事実と考えられます。
他人への称賛を聞かせる
効果的な称賛の入力を増やすもう一つの方法は、子どもを直接褒めることに加えて、子どものいるところで、他の人の行動を評価することです。
たとえば、こんなやり方です。
(A)自分が見たことを、評価して子どもに伝える
「さっき公園の横を通ったら、○○君が逆上がりの練習をしてたよ。何度も何度もトライしていたの。感心したわ」
(B)聞いた話を、評価して子どもに伝える
「○○君は、毎日朝早く起きて、漢字の勉強しているんだって。成績がいいのは、やっぱり努力してるからなんだね」
(C)子どもが振った話題に対して、評価的コメントを返す
(子ども)「○○ちゃん、リコーダーがとっても上手なの」
(親)「きっとお家でたくさん練習しているんだよ。誰だって、はじめから上手いわけじゃないんだよ」
(D)夫婦の会話で、他の子どもを評価する(漏れ聞かせ)
「いつも公園の横を通ると、一人で黙々とサッカーの練習をやっている子がいるの。どこの子かな。ああいう子は将来絶対に伸びるよね」
このようにして、他の子どもへのプロセス・プレイズを子どもに聞かせることで、本人をほめるのと同じような効果が期待できます。
ただし、(A)(B)は運用が少し難しく、状況や言い方によっては「自分にもやらせようとしているのかな?」という疑念を抱かせてしまう可能性があります。
留意点としては、そういった「説得の意図」や評価している子どもとの「比較」のニュアンスを含ませないようにすることです。
(C)は、「発信の起点」が子ども自身にあるため、「説得の意図」を感じ
させにくく、有効性が高いです。
(D)は(A)の「漏れ聞かせ」バージョンです。
先にお話ししたオーバーハード効果によって、これも有効に作用する可能性が高いです。
なお、これについては、近年、実証研究が増えてきているので、別の記事でもう少し詳しく解説する予定です。↓↓
(仮タイトル)子どもの前で他人を称賛したり批判したりするとどうなるか? ー「評価的会話」の注意点と活用術(近日公開予定)
以上、称賛のバリエーションを増やすことで、効果的な称賛をより多く子どもに届ける方法について解説しました。
より多くの子どもが、称賛の恩恵を享受できれば幸いです。
おわりに(補足)
今回お話しした内容は、あくまでもほめ方の技術的な話です。
本質論の話をすると、
学習意欲・挑戦意欲の高い子ども、困難に直面して粘り強い子ども、失敗に負けない子どもをより確実に育てていくためには、
「努力を引き出し、達成に導く → プロセス・プレイズを贈る」
この繰り返しがとても重要になります。
子ども自身が、実際に努力して達成する、そして「増大理論」の形成に最も効果が高いとされる「達成の称賛」を受け取る、まさに黄金のサイクルです。
僕がいつも、「子どもに常に一つ以上の課題を持たせ、その取り組みをサポートしていく」ことの重要性を訴えているのは、そういう理由です。
リファレンス
Walster, E., & Festinger, L. (1962). The effectiveness of "overheard" persuasive communications. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 65(6), 395–402.
Pfeffer, J., Fong, C. T., Cialdini, R. B., & Portnoy, R. R. (2006). Overcoming the Self-Promotion Dilemma: Interpersonal Attraction and Extra Help as a Consequence of Who Sings One's Praises. Personality and Social Psychology Bulletin, 32(10), 1362–1374.
✅ 記事の紹介
プロセス・プレイズ(プロセスほめ)とその運用のしかたについては、こちらの記事(有料)で詳しく解説しています。
この記事は、子どもの努力や挑戦を支える「信念」を育成するための「考え方」と「実践方法」を、多くの教育心理学研究の結果に基づいて体系化した『実践指針』です(褒め方や声かけの例や、経験談をつづったハウツー記事ではありません)。そのため、結果の再現性が高いと思われます。
「将来に向けて自ら伸びていける子どもに育てたい」と真剣に考えている保護者の方におすすめです。
「指南書」として、また判断の軸として立ち返れる「参照用コンテンツ」としてお使いいただけます。
文字数は多めですが、連載ではなく読み切り型の有料記事です(chapter1までは無料で読めます)
本記事の内容に関連することで質問のある方は、ブログの質問フォームからお送りください。個別のご事情を含む内容でも構いません。
