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努力する子どもの育て方 ~ 増大理論アプローチ

この記事の情報を最も活用できるのは、子どもの教育、将来を真剣に考えている乳幼児~小学校低学年の親御さんです。
保育士、幼稚園の先生、小学校の先生が読まれても役に立つと思います。

この記事に書かれている内容の多くは、4歳前後から実践できます。
科学的な知見から、早期から始めるほど、効果が大きい可能性はありますが、就学後から始めても、遅すぎることはありません。
実践した分だけ、子どものモチベーション形成にポジティブな効果が得られるでしょう。


はじめに

常に夢や目標を持ち、それに向かって努力を続けられる子ども。
困難に直面して粘り強く、失敗を「学びの過程」と捉えられる子ども。

こうした姿勢は、才能や性格の問題ではなく、幼少期からの親と子の関わり方によって育まれる「信念」によるものだと、教育心理学の研究は示しています。

本記事では、その信念 ―「知能は鍛えることができる」という〈増大理論(増大的知能観)〉を、家庭の中でどのように育てていけばよいかを、科学的知見に基づいて体系的に解説します。

どのような言葉や行動が増大理論の形成を促し、また妨げるのか、
そして増大理論の形成を極めて効果的に促進させる状況をいかにして作り出すか、に焦点を当てます。

単に「ハウツー(How-to)」を示すだけでなく、
・なぜ、ある褒め方は子どものやる気を伸ばし
・なぜ、善意のはずの言葉が、逆に挑戦意欲を奪ってしまうのか

その理由を理解し、子どもとの日々の関わりの中で、「今、どんな言葉をかければよいか」、「どんな行動を引き出せばよいか」を、考えて実行できるようにすることを、本記事の目的としています。

子どもの学習意欲、挑戦意欲、粘り強さは、
「一貫した関わり」を通して、確実に育てていくことができます。
本記事が、そのための土台となれば幸いです。


※ この記事の文字数について
この記事の文字数は、無料部分:約5,500字+有料部分:約34,500字、合計:約40,000字ですが、有料部分には参考文献の記載が約9,000字含まれています。したがって、本文は実質31,000字程度です。

※ 本文中のカッコの数字について
本文中のカッコの数字は、参考文献のNo.です。参考文献は記事の最後に記載してあります。


Chapter1 
子どもの努力を引き出す増大理論とは

Chapter1の主な内容:

  • 増大理論とは?

  • 増大理論を保持することのメリット

  • 増大理論が形成される年齢は?

  • 子どもの潜在意識の中にどうやって増大理論を根付かせるか

子どもの将来に影響を与える二つの信念

子どもは「知能」というものに対して、通常、次のどちらかの信念を持っています。

一つは、「知能は鍛えることができる。学習すればするほど頭は良くなる」というものです。
このような信念を「増大理論(または、増大的知能観)」といいます。

もう一つは、「知能は生まれつきのものである。学習によって知識は増えても、本質的な頭の良さは変わらない」というものです。
このような信念を「実態理論(または、実体的知能観)」といいます。

このような信念の持ち方は、知能だけでなく、性格やその他の能力にも適用されます。
たとえば、増大理論家は、「性格は変えられる」と信じ、実体理論家は、「変えられない」と信じます。

ここでは、どちらが真実であるかは重要ではありません。
重要なのは、潜在意識の中に、どちらの理論が信念としてどの程度根付いているかです。
それが子どもの将来に大きな違いを生じさせる可能性があるからです。

知能観による学習行動の違い

この知能観の違いは、さまざまな場面で、子どもの行動や態度に違いを生み出します。

たとえば算数の授業で、当てられた生徒が前の黒板で出された問題を解かなければならない、という場面を思い浮かべてみましょう。

問題を解く自信のない子どもたちは、自分が当てられることに戦々恐々とするでしょう。

そんな中、「解けるかどうかわからないけど、ぜひ挑戦してみたい」と思う子どもがいます。

このような子どもは、増大理論を持っている可能性が高いです。
パフォーマンスよりも学ぶことを重視し、困難な課題は能力を向上させる機会と捉えます。
そのため、あえて難しい課題に挑戦して、学ぶ機会を得ようとします。
(たとえば、1, 2)

一方、「できなかったら恥ずかしい」と思う子どもは、実体理論に傾いている傾向があります。
学ぶことよりもパフォーマンスを重視し、困難な状況は自分の能力が試されるテストと捉えます。
そのため、失敗の恐れのある課題を、極力避けようとします。
(たとえば、1, 3)

さらに、課題がうまくできなかったときの反応にも、違いが見られます。

増大理論を持っている子どもは、自分がうまくできないのは努力が足りないせいだと考えます。
そのため、失敗が努力改善措置といったポジティブな反応につながることが多くなります。
(たとえば、3, 4)

一方、実体理論を持っている子どもは、自分がうまくできないのは能力が足りないせいだと考えます。
そのため、失敗が無力感あきらめといったネガティブな反応につながることが多くなります。
(たとえば、4, 5)

このように、知能に対する信念の持ち方は、学習に対する信念や志向、意欲、行動、態度として表れます。
これを一つの体系と見て、それぞれを「増大フレームワーク」、「実体フレームワーク」と呼んでいます。

✔増大フレームワーク

  • 「学習すればするほど頭が良くなる」と思っている。

  • 習熟、熟達を志向する。 ─  失敗や困難な状況を学習の機会ととらえる。

  • 挑戦を好む。 ─  やりがいのある難しいタスクを選択する。

  • 成功は努力しだいと考える。  ─  うまくできないのは、努力が足りないせいだと考える。

  • 失敗に対して改善措置をとる。/失敗のあとも努力が持続する。

✔実体フレームワーク

  • 「学習しても本来の頭の良さは変わらない」と思っている。

  • うまくできることを志向する。 ─  自分の能力が他人からどう見られるかが気になる。

  • 失敗を避ける。 ─  成功の保証されたタスクを選択する。

  • 成功は能力しだいと考える。 ─  うまくできないのは、能力が足りないせいだと考える。

  • 失敗に対して無力である。/失敗したらあきらめる。


増大理論を保持することは、人生に大きな利益をもたらす

増大理論を保持することで、実際に子どもの人生にどのような利益があるのでしょうか?
たくさんありますが、ここでは特に影響の大きい3つの利益について解説します。

1. 将来のキャリア形成が支えられる

ここまでの話から、知能観の傾きが子どもの学業や将来のキャリアに少なからず影響を及ぼすことは、想像に難くないでしょう。

実際に、知能観の傾きは、学業成績を予測します。(たとえば、2, 6, 7, 8)
もちろん、学力を決める要因はそれだけではないので、勉強ができるからといって、増大理論を持っているとは限りません。
その逆もしかりです。努力が勉強以外のことに向けられている場合もあります。

いずれにしても、増大理論を持っている子どもは、難しい課題に挑戦し、それに粘り強く取り組むので、学業に限らず、技能の習得・向上を積み重ねていくことができます。

また、その過程で、行き詰っては試行錯誤し、失敗しては改善に取り組むので、困難を乗り越える力が強化されます。
同時に、自己効力感も高まり、いろいろなことに自信をもって取り組むようになります。(9)

さらに、そうやって課題や目標を達成していくうちに、「何事もやればできる」という信念がより確かなものになっていきます。
すなわち、成長し続けるための動機が強化されます。

このようにして成長した子どもは、それまでに培った高い学力や技能により、職業的な可能性が広がり、自分の進みたい道に進むことができます。
また、たとえやりたいことが未知の領域にあっても、「何事もやればできる」という信念が、その挑戦を後押ししてくれます。

さらに、キャリアをスタートさせてからも、同じように挑戦と努力を続けるので、より多くの成果を手にすることができます。

このように、増大理論を保持していることは、将来のキャリアを創造する上で、大きなアドバンテージとなるのです。

2.ストレスや不安が低減される

増大理論を持っている人は、挑戦や失敗を前向きに捉えるので、ストレスや不安を感じることが少なくなります。

また、人は変わることができると思っているので、精神的な回復力も高くなります。
いじめによるうつ症状は、増大理論を承認させると大幅に低下することがわかっています。(たとえば、10, 11, 12)

3.他者との信頼関係が築きやすくなる

増大理論を持っている人は、他者の成功を脅威とは見なしません。学びの機会と捉えます。(13)
その相手にも、積極的に質問したり、フィードバックを求めたりするので、オープンで効果的なコミュニケーションが促進されます。

また、自分が学んだことも他者と共有したいと思うので、助言や支援を積極的に行います。
これにより、他者との信頼関係が深まります。

このように、増大的知能観は、学習行動のみならず、精神的健康や社会的スキルにもポジティブな効果をもたらします。

知能観の形成は幼児期からはじまる

知能観の個人差は、遅くとも小学校に入学するころまでには現れます。(たとえば、6, 14)

この段階で増大理論を保持している子どもは、ほかの子どもよりも、多くの利益を得ることができます。
なぜなら、早くから難しい課題と向き合い、より多くの試行錯誤と技能の習得・向上を積み重ねていけるからです。
特に、算数のような累積的な性質の教科では、増大理論を持っているかどうかが、学力にかなりの影響を与えます。(たとえば、6, 8, 15)

このようなことから、増大理論の形成を促す取り組みは、幼児期の比較的早い段階から始めることが推奨されます。

幼い子どもの場合は、より自然な形で潜在意識の中に根付かせられるのも利点の一つでしょう。
そのような子どもは、難しい課題に対峙したとき、「できるかどうか」よりも「どうやってやるか」に自然と意識が向かいます。

とはいえ、子どもの知能観は、成長のあらゆる段階で増大側に傾かせることが可能です。

たとえば、中学生、高校生、および大学生に、知能の可鍛性を承認させるための介入を行った実験があります。(2, 16, 17, 18)
いずれの実験でも、介入を受けた生徒の多くが知能の可鍛性を承認し、不介入の生徒よりも学業成績を向上させています。

したがって、すでに学童期にある子どもでも、増大理論の形成を促す試みが遅きに失するということはありません。

増大理論の形成を促す4つのアプローチ

ところで、子どもの知能観はどうやって形成されるのでしょうか?

少なくとも環境的な要因がその形成に強くかかわっていることが、多くの研究からわかっています。

環境的な要因とは、子どもに対する大人の言動態度教育などです。
それらのあり方が、子どもの増大フレームワーク、すなわち習熟意欲、活動の持続性、挑戦に対する心理などを一貫して予測するといいます。(19, 20)

具体的には、幼児期から小学期にかけて次の4つを実践すると、増大フレームワークの形成を効果的に促すことができます(思春期以降では、別のアプローチも必要になります)。

1.常にプロセスに目を向ける

学びの過程を重視すると、子どもは結果よりも成長に価値を置くようになります。それによって、増大フレームワークの形成が促進されます。

✔プロセスを褒める

努力や習熟に対する称賛(プロセス・プレイズ)は、子どもの意識の中で、それらの価値を高めます。
それによって、学習意欲が向上し、困難な課題に対して粘り強さを発揮させます。
また、結果として、技能が向上するので、努力に対する肯定的な信念の形成が促進されます。

✔プロセスを問う

プロセスに焦点を当てるのは、称賛に限ったことではありません。
「どうすればできるのか」、「どこを改善すればよいのか」、「(良い結果に対して)何がよかったのか」などを日ごろから問いかけることも重要です。
そのようなやり取りは、プロセスしだいで良い結果が導き出せることを子どもに教えます。

以上の内容は、Chapter2、Chapter3で解説しています。

2.挑戦を奨励する

挑戦をポジティブに捉えることは、増大フレームワークの重要な要素です。

挑戦を奨励するとは、たとえば次のようなことをいいます。

  • 「うまくできなくても平気だよ。とにかくやってみることが大事」などと言って挑戦を促す。

  • 挑戦して成功したら、「挑戦したかいがあったね」などと言って称賛する。

  • 挑戦して失敗したら、「まずは、チャレンジしたことがえらい。ここからがスタートだよ」、「失敗は学びの一部だよ」などと言って励ます。

このような言葉によって、挑戦することに前向きな信念の形成を促していきます。

以上の内容は、Chapter2、Chapter4で解説しています。

3.多くの「達成」を経験させる

課題や目標の「達成」を積み重ねることは、「何事もやればできる」、「成功には継続(努力)が不可欠である」といった信念を強化します。

これに「プロセス・プレイズ」を合わせることで、極めて効果的に増大フレームワークの発達を促すことができます。

子どもに、より多くの「達成」を経験させるためには、親が課題を用意し、その取り組みを継続的にサポートしてあげること、これを繰り返していくことが必要になります。

以上の内容は、Chapter4で解説しています。

4.算数に関する学びをしっかりやる

意外に思われるかもしれませんが、算数の能力と知能観の間には、相互作用的な関係があります。

このアプローチは、就学時に算数の能力が高い子どもは、増大フレームワークを発達させやすく、逆に低い子どもは、実体フレームワークを発達させやすい、というエビデンスにもとづきます。

そのため、就学までに算数の基礎となる数の概念をきちんと整えておくことが重要になります。

また就学後も、算数の学習を軌道にのせるためのサポートをしてあげることが必要になります。

以上の内容は、Chapter5で解説しています。


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本記事は、褒め方や声かけの例や、経験談をつづったハウツー記事ではありません。子どもの努力挑戦を支える「信念」を育成するための「考え方」と「実践方法」を、多くの教育心理学研究の結果に基づいて体系化した『実践指針』です。そのため、結果の再現性が高いと思われます。
将来に向けて自ら伸びていける子どもに育てたい」と願う保護者の方におすすめです。
指南書」として、また判断の軸として立ち返れる「参照用コンテンツ」としてお使いいただけます。
文字数は多めですが、連載ではなく読み切り型です。

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