【閑古鳥雑貨店のプク】あたたまるカップと、店番猫の午後
棚の下から、プクの小さな足音が近づいてきた。
朝の冷えに負けたのか、私の足もとにそっと座る。
差し出したコーヒーの湯気は、もうかすかにしか揺れない。
冬はこんなふうに、気づく前に近づいてくる。

朝の空気がいつもより冷たくて、
カウンターに置いた手のひらが、じんわりとこわばった。
コーヒーを淹れても、湯気はすぐに細くなり、
冬がすぐそこまで来ているのだと教えてくれる。
プクは棚の影で小さく伸びをして、
私のほうを確かめるように瞬きを返した。
こういう日は、温かい飲みものに救われる。
けれど雑貨店というのは、何かと立ち歩くことが多く、
気づけばカップはあっという間に冷めてしまう。
「今日くらいは、ゆっくり飲ませてほしいなあ」
そんな独り言を、プクが聞いていたかもしれない。

ふと目が留まったのは、
先日届いたばかりの木目のカップウォーマー。
丸いコースターほどの大きさで、
そっと触れると、木のぬくもりが指先に馴染む。
スイッチを入れると、「45℃」の白い灯りがぽっと広がり、
その光を、プクがじっと追った。
試しにコーヒーをのせてみる。
45℃から75℃まで選べる温度の中から、
今日はその真ん中のやわらかい熱にした。
底からじんわりと温かさがしみ込み、
木目の模様がほのかに深みを増す。

プクが、そろりと近づいてくる。
光と熱のある場所を見つけたときの、
あの“迷いのない歩き方”だ。
カップの横で丸くなり、
しばらくは動こうとしない。
まるで「今日はここで店番するよ」と言いたげだ。
午後になると、注文の確認や荷物の受け取りで慌ただしくなる。
それでもコーヒーは、温度を落とさずに私を待っていた。
ふわりと立ち上る湯気の向こうで、
プクの耳がぴくりと揺れる。
温かさが、部屋の空気までやわらかくしていく。

気がつけば、窓の外があかね色に傾いていた。
冬の日は、いつの間にか光を手放してしまう。
カップをそっと持ち上げると、まだあたたかい。
その、小さな奇跡みたいな温度が胸にしみた。
「あなたが守ってくれたんだね」
木目の輪を指でなぞりながらつぶやくと、
プクがくんくんと匂いを確かめ、
満足したように尻尾を小さく揺らした。
今日もまた、いい午後だった。
あたたかさは、思っていたより近い場所に潜んでいる。
次は、冬の支度に欠かせない、あの小さな道具のお話を。

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