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なぜ私たちは「理解されない」のか? 中邑真輔から学ぶ、マッチングアプリ時代の自己プロデュース


序章|観客席から見た“同じ展開”

マッチングアプリを使ったことがありません。

だから、この話は全部、外から見ているものです。
試合をしているのではなく、観客席から観戦している状態です。

ただ、人の話を聞いていると、
だんだん気づいてきます。

展開が、だいたい同じなんです。
うまくいった話もある。
最初から噛み合わなかった話もある。
でも一番多いのは、あれです。

「悪くはなかったけど、なんか違った」

この言葉、何度も聞きます。
会話は成立している。
相手も感じがいい。
特に問題はない。

それでも、次はない。
この“なんか違う”という結論が、あまりにも繰り返されると、少し疑問が出てきます。

それ、本当に相手の問題なのか。
むしろ、そういう終わり方になりやすい仕組みなんじゃないか。

プロレスでもそうです。
同じ選手同士の試合でも、シチュエーションが変われば、見せ方や意味合いがまったく違う試合になる。
その違いだけで、評価は簡単にひっくり返る。

マッチングアプリも、たぶん同じです。
アプリを開いて、
写真を見て、
短いプロフィールを読んで、
数分で会うかどうかを決める。

そして実際に会って、
一回で“あり”か“なし”かを判断する。
この一連の流れが、すでにひとつの“試合形式”になっている。

その形式の中で、
何が起きているのか。
もしかすると人は、
相手そのものを見ているのではなく、
“違和感をどれだけ早く処理できるか”で判断しているのかもしれません。

第一章|「なんか違う」は思考停止の完成形

「なんか違う」

便利な言葉です。
便利すぎて、ほとんど何も言っていない。

何が違ったのかは説明しない。
できないのかもしれない。
ただ、この言葉が出た時点で、その人との関係は終わります。

ここで起きていることは、単純です。
判断を保留しない、という判断。
良いとも言えない。
悪いとも言えない。
だったら切る。

このスピード感は、合理的です。
時間は有限だし、他にも候補はいくらでもいる。
わざわざ引っかかるものに時間をかける理由がない。

だから「なんか違う」は、評価ではありません。
処理です。

理解できないもの、
言語化できないもの、
結論が出せないもの。

それらをまとめて外に出すための、
非常に効率のいい言葉です。

ただ、その効率の良さは、
少しだけ雑でもある。


第二章|中邑真輔は、たぶん選ばれない

ここで一度、話をずらします。

中邑真輔というレスラーがいます。
強いか弱いかで言えば、強い。
華があるかないかで言えば、ある。

でも、それだけでは説明が足りない。
動きが独特です。
間の取り方も普通ではない。
何をしているのか、すぐには理解できないこともある。

初めて見ると、少し戸惑います。
「すごいのかもしれないけど、よくわからない」
だいたい、このあたりに落ち着く。

もしこのタイプの人間が、
マッチングアプリにいたらどうなるか。

低評価はつかないと思います。
感じも悪くないし、問題もない。
ただ、選ばれない。
理由はシンプルです。

判断に時間がかかるから。

そして、この仕組みの中では、時間がかかる時点で不利になる。
「なんか違う」で終わる。
ここで重要なのは、彼が劣っているわけではない、ということです。

むしろ逆です。
ただ、形式と噛み合っていない。
それだけで評価が決まる。


第三章|選ばれているのは“理解しやすさ”

ここまでを整理すると、一つの傾向が見えてきます。

残るのは、理解しやすい人です。
話がスムーズで、
反応が予測できて、
会話の流れも想像がつく。
つまり、説明可能な人間。

これは悪いことではありません。
むしろ安心ですし、大きく外すリスクも少ない。
ただ、その基準で選び続けると、選択肢が当然ながら似てきます。

会話のテンポも、
空気の温度も、
終わり方まで。

「悪くはなかったけど、なんか違った」
またこれです。
ここで少しだけ考えた方がいい。

それは本当に、“相性の問題”なのか。
それとも、
最初から理解できる範囲の中でしか選んでいないだけなのか。

理解しやすいものだけを集めれば、
当然、整ったものが並ぶ。

ただし、
そこから大きく外れるものは、最初から入ってこない。
そして往々にして、面白いのはそっち側です。


第四章|あとから効くものは、だいたい最初に切られている

少し不思議な話を聞くことがあります。

「その場では微妙だったけど、後から気になってきた人がいる」
その時は、そこまで盛り上がらなかった。
会話も普通。
特別な出来事もない。

だから、次はないと判断した。
でも、なぜか残る。
帰り道に思い出す。
次の日に、また思い出す。
理由はうまく説明できない。

ただ、消えない。
ここでようやく気づく。
あれは“外れ”だったのではなく、
処理しきれなかっただけだったのではないか、と。

最初の判断は、間違っていなかったのかもしれない。
ただ、早すぎた。
理解が追いつく前に、結論を出してしまった。

マッチングアプリの構造は、それを当たり前にする。
一回で判断する。
その場で結論を出す。
次に進む。

その中で、
あとから効いてくるものは、ほとんど残らない。
残る前に、切られる。


第五章|「もう一度会う」という発想が消えている

ここで、もう一つの特徴が見えてきます。

再戦がない。
一度会って、判断して、終わる。
良くても悪くても、それで完結する。

もちろん例外はあるでしょう。
ただ、全体としては“単発で決める”流れが強い。
これが何を意味するか。
関係が深くなる前に終わる。
一回目で噛み合わなかったものが、二回目で噛み合うことは、普通にあります。

会話の癖がわかる。
距離感が見える。
余計な力が抜ける。

でも、その“二回目”に行く前に、終わる。
理由は簡単です。
他に選択肢があるから。
わざわざ微妙だった相手に、もう一度時間を使う必要がない。

合理的です。とても現代的です。
ただ、その合理性の中で、
確実に取りこぼしているものがある。

一度ではわからない人。
時間が経って面白くなる関係。
そういうものは、この仕組みではほとんど育たない。


第六章|効率は、魅力の一部を切り捨てる

ここまで来ると、話はかなりシンプルです。

マッチングアプリは効率がいい。
時間をかけずに人を選べるし、無駄な関係も減らせる。

それ自体は間違っていません。
ただ、効率というものは、必ず何かを切り捨てる。
ここで切られているのは、すぐに理解できない魅力です。

少しズレている。
少し読めない。
少し引っかかる。

そういうものは、判断に時間がかかる。
だから切られる。
結果として残るのは、最初から理解できるものだけです。

わかりやすくて、
説明しやすくて、
予測可能なもの。

それはそれで、快適です。
ただ、少しだけ退屈でもある。


最終章|それでも、人は違和感に惹かれる

ここまでの話を全部ひっくり返すようですが、
人は、どこかで違和感に惹かれます。

完全に理解できるものだけでは、どこかで飽きる。

予定通りに進む会話。
想像通りの反応。
期待通りの展開。

安心はある。でも、引っかかりがない。
記憶にも残らない。

少しズレているもの。
少し読めないもの。
説明しきれない何か。

そういうものが、後から効いてくる。
ただ、その“効いてくる可能性”を、最初の段階で切っている。

それが、この仕組みです。

マッチングアプリを否定するつもりはありません。
便利ですし、合理的です。
それでうまくいく人が沢山いる。

ただ一つだけ言えるのは、
この形式では拾えないものがある、ということです。
一度ではわからない人。
時間をかけて意味を持つ関係。
あとから効いてくる違和感。
それらは、最初から評価の外に置かれている。

もし、次に誰かと会って、
「なんか違う」と思ったとき。
その違和感が何なのか、少しだけ考えてみる。

すぐに結論を出さない。
それだけで、見えるものが変わるかもしれません。
効率は悪いです。あまり賢い選択でもない。

でも、面白さというのは、
だいたいそういうところにあります。

あとがき

ここまで読んでおいて何ですが、
この話は別にマッチングアプリの話だけではありません。

むしろ、最初からずっとプロレスの話をしていたつもりです。

わかりやすい試合が評価されること。
違和感のある試合が置いていかれること。
そして、後から評価がひっくり返ること。

全部、リングの上で昔から起きていることです。
ただ違うのは、プロレスには“もう一回”があることです。
一度では伝わらなかったものを、
二度目、三度目で回収できる。

もしくは、後年、その試合の意味が評価されることもある。
猪木-アリ選択がその典型例ではないでしょうか?
当時は、技術的にも、評価軸そのものがなかったので、酷評の嵐でした。

そう言った意味でも、観る側にも、少しだけ粘る余地がある。

マッチングアプリには、それがあまりない。
だから、わかりやすいものが残りやすくて、
わかりにくいものは、最初からいなかったことになる。

それだけの違いです。
どちらがいいかは、わかりません。
効率を取るのか、
引っかかりを取るのか。

ただ、ひとつだけ言えるのは、
自分がどっちを見ているのかくらいは、
自覚しておいた方がいい、ということです。
それをわからないまま続けると、
ずっと同じ試合を見続けることになります。

そしてたぶん、
それが一番つまらない。

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