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IPO一択の時代は本当に終わったのか?スタートアップEXITの現在地


京都の熱気の中で感じた、静かな変化

2026年7月1日から3日間、京都で開催された「IVS2026」。今年のテーマは「Japan is Back」。会場となったみやこめっせやロームシアター京都には340社のスタートアップが集い、資金調達や事業提携の話題で例年通りの熱気に包まれていました。

ただ、今年のIVSを歩いていて感じたのは、これまでとは少し違う空気感です。オフィシャルサイドイベントのラインナップを見ると、「IPO×M&A最前線 2025→2026の変化と戦略」(株式会社ストライク×East Ventures主催)、受託系企業のM&A・アクハイアーに特化した「XDEAL」など、M&Aを正面から扱うセッションが明らかに増えていました。IVS本編のセッションでも、上場後にM&Aを活用して時価総額を伸ばした企業の経営判断が、資本市場のプロフェッショナルとともに深掘りされるなど、EXIT戦略としてのM&Aが「サブテーマ」から「メインテーマ」に格上げされた印象を受けます。

スタエム(スタートアップM&A株式会社)として、日々スタートアップの資本政策やEXIT相談に向き合っている立場から見ても、この空気感は肌感覚と完全に一致します。今回は、IVS2026を入口にしながら、「なぜ今、M&Aが現実的な選択肢になっているのか」を、制度面・市場データの両面から整理してみたいと思います。

背景①:グロース市場「上場維持基準」の厳格化

最大の構造変化は、東京証券取引所によるグロース市場の上場維持基準見直しです。これまで「上場10年後に時価総額40億円以上」だった基準が、新制度では「上場5年後に時価総額100億円以上」へと引き上げられます。適用は2030年3月1日以降ですが、達成期限が半分になり、求められる時価総額は2.5倍という、非連続的な成長を強制する内容です。

インパクトの大きさは数字にも表れています。ある試算では、現在グロース市場に上場する612社のうち423社が時価総額100億円未満とされており、新基準がそのまま適用されれば、上場企業の半数近くがスタンダード市場への移行や上場廃止のリスクに直面する計算になります。東証自身も、この見直しの狙いを「機関投資家の投資対象となり得る規模への早期の成長」に加えて、「企業間のM&Aや起業家の次なる創業などを促進する観点」だと明言しており、当局として明確にM&Aを後押しする姿勢に転じたことが分かります。

実際、IPO準備企業の間でも選択肢の再検討が進んでいます。主幹事証券との調整や新基準を見据えた成長計画づくりに難しさを感じた企業では、①事業計画・上場時期の見直し、②東京プロマーケットや地方市場への上場、③M&Aによる売却、という3つの方向性が語られるようになっており、監査法人の現場感覚としては③のM&Aが実質的に有力な選択肢になっているとの指摘もあります。2025年上半期には、東京プロマーケットの新規上場数(21社)がグロース市場(18社)を上回るという逆転現象も起きました。「グロース一択」だった構造そのものが、静かに崩れ始めています。

背景②:M&A市場そのものが過去最高水準にある

制度面の変化だけでなく、M&A市場全体の勢いも見逃せません。レコフデータの集計によれば、2025年1〜12月の日本企業のM&A件数は5,115件と初めて5,000件を突破し、2024年(4,700件)から8.8%増加、2年連続で過去最多を更新しました。取引金額ベースでは33兆円規模に達し、7年ぶりに過去最高を更新したとも報じられています。

事業承継を目的としたM&Aだけでも2025年は1,028件(前年比+11.4%)と年間最多を記録しており、経営者の高齢化や後継者不在という構造要因に加え、非公開化を選ぶ大企業の動きも重なって、M&Aは「特殊な選択肢」から「標準的な経営手段」への転換を終えつつあります。

こうした流れを受けて、経済産業省は2026年5月、「スタートアップM&Aガイダンス」を公開しました。ガイダンスの中で経産省は、スタートアップの成長手段としてこれまで主にIPOが志向されてきたものの、「今後、M&Aがスタートアップの成長手段として更に活用される余地は大きい」と明記し、売り手・買い手双方が留意すべき事項を体系的に整理しています。行政が旗を振ってM&Aの活性化に動いている点も、この数年でははっきりとした変化です。

では、IPOは「終わった」のか

ここで強調しておきたいのは、これは「IPOがオワコンになった」という単純な話ではないということです。IVS2026でも、約34億円でIPOし10年で時価総額6,000億円規模まで成長した企業の経営判断が、次の1兆円企業への戦略として議論されており、大型化・非連続成長を実現できる企業にとってIPOは依然として最強のEXIT手段です。

変わったのは、「IPOが唯一の正解ではなくなった」という前提そのものです。上場維持基準の厳格化により、「上場すれば終わり」ではなく「上場後も走り続けられる規模の企業しか生き残れない」市場に変わりつつある中で、経営者は早い段階から「自社はIPOに向いているのか、M&Aで大きな傘の下に入った方が事業を伸ばせるのか」を冷静に見極める必要に迫られています。

スタエムとしての視点

私たちスタエムは、シリーズB以降のグロースステージ企業から、シード期の技術・チーム単位の譲渡(アクハイアー)まで、幅広いフェーズのM&A助言に日々携わっています。現場で感じるのは、経営者側の意識変化のスピードです。数年前まで「M&A=事業がうまくいかなかった時の最終手段」というイメージが根強くありましたが、今は「成長を加速させるための能動的な選択肢」として、資金調達ラウンドと同じ土俵でM&Aを検討する経営者が明らかに増えています。

IVS2026で語られていた「Japan is Back」という言葉には、日本のスタートアップ・エコシステム全体が次のステージに進む意志が込められていました。その次のステージにおいて、IPOとM&Aはもはや対立する選択肢ではなく、事業の成長段階や経営者の目指す姿に応じて選び取る、並列した経営戦略の一部になっていく。それが、2026年夏時点での、スタートアップEXITの現在地だと考えています。

本記事は、スタートアップM&A株式会社(スタエム)が、M&Aによる成長戦略やEXIT戦略を検討する経営者・投資家の皆様に向けてお届けしています。自社の資本政策やEXITオプションについてのご相談は、お気軽にお問い合わせください。


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