『ビッグ・ショート』のSteve Eismanが読み解く5月第1週── K字経済・UAE OPEC離脱・AI設備投資が示す「本当の市場の健康診断」
映画『ビッグ・ショート』のモデルとなった投資家Steve Eismanが、毎週金曜に配信する「The Weekly Wrap」。Eismanは、2008年の金融危機でCDOのショートにより巨額の利益を上げたことで有名になり、Michael Lewisの著書で広く知られるようになった。2025年にはYouTubeとポッドキャストで「The Real Eisman Playbook」を開始した。
2026年5月1日終了週を対象とする今回のエピソードでは、UAE OPEC離脱、K字経済の実態、AI設備投資の継続、そして12社以上の決算を横断的に分析した。本記事では、投資家・ビジネスマンが押さえるべきEismanの見解と市場の構造を整理する。
1. Charter Communications ── 株価▲25%、それでもEismanが買い増した理由
1-1. Q1決算:ブロードバンド加入者▲12万の衝撃
Charterは、Q1でブロードバンド加入者を12万人失った。これはアナリスト予想の10万人を大きく上回り、前年同期の5.9万人損失から倍増した。売上は1%減の$136億となり、従来型ビデオ売上は9%超下落した。
Eismanは、「この四半期を美化する方法はない。良い四半期ではなかった」と率直に認めた。
1-2. Eismanの投資テーゼ ── バリュエーション×ターンアラウンド
Eismanは、1月にCharterを$223で推奨し、現在も保有を継続している。彼のテーゼは以下の通りだ。
Charterはシステム強化のために大規模な設備投資を実施してきたが、その設備投資は今終わりつつある。2026年通年の設備投資は約$114億でピークを迎え、Eismanによれば2027年に$95億、2028〜29年に$75〜80億へと低下する。設備投資の減少はフリーキャッシュフローを1ドル対1ドルで増加させ、同社はそのキャッシュフローで自社株買いを実施する見通しだ。
Eismanは「時価総額$230億の会社が、今後4〜5年で文字通り発行済み株式の50%を買い戻す可能性がある」と述べた。現在のバリュエーションは2026年PER 4倍、将来年度のフリーキャッシュフロー利回り70%に達するという。
1-3. コンバージェンス戦略での優位性
Charterのモバイル事業は、成長エンジンとなっており、Q1で36.8万のSpectrum Mobile回線を追加、合計1,210万回線に達し、前年比17%成長を記録した。
Eismanは、ケーブルとモバイルのパッケージ提供(コンバージェンス)においてCharterは月額$100で、競合の$180〜200に対して低コストプロバイダーとしての優位性があると指摘した。
1-4. 投資家へのメッセージ ── 「テーゼ・クリープ」を避けよ
Eismanは、「テーゼ・クリープ(株価が動くにつれてテーゼを変更してしまう傾向)は投資家にとって大きな問題だ」と警告。自身のテーゼは変わっておらず、金曜日にポジションを追加したと透明に語った。
2. UAE OPEC離脱 ── 「世界の同盟関係が再編される"カナリア"の瞬間」
2-1. 1967年以来の歴史的決断
UAEは2026年5月1日付でOPECおよびOPEC+から脱退した。UAEは、サウジアラビア、イラクに次ぐOPEC第3位の産油国だった。
Eismanはこれを「衝撃的な決定」であり「世界の同盟関係が変化し再編される中での"カナリア"の瞬間」と表現した。
2-2. 背景:生産制約への不満と戦時下の戦略
戦前、UAEの生産能力は日量480万バレルに達していたが、OPEC合意では日量320万バレルしか生産できなかった。UAEは、2027年までに生産能力を日量500万バレルに拡大する計画だ。
この発表は、UAEがOPEC加盟国であるイランからのミサイル・ドローン攻撃を数週間にわたり受けた後に行われた。イランによるホルムズ海峡での攻撃はUAEの石油輸出能力を著しく制約していた。
2-3. Eismanの読み
Eismanは、UAEの目標は「増産し、戦争を利用してマーケットシェアを獲得すること」だと分析した。さらに「裏の同盟関係のシフトが明らかになるのを待つ必要がある」と述べた。
イラン情勢との関連では、米国がホルムズ海峡の封鎖を維持することでイランに経済的圧力をかける戦略を取っており、Brent原油は$115を超えている。
専門家は、ホルムズ海峡が開放されれば、UAEはより多くの石油を供給し、価格の低下を促進する準備ができているとみている。
3. 3月以降のラリーとマーケット構造
3-1. S&P +5%、NASDAQ +7% ── 昨年のパターンの再現
Eismanによれば、3月末時点でS&PとNASDAQは、それぞれ年初来▲4%と▲7%だったが、4月30日木曜日時点でS&Pは+5%、NASDAQは+7%に転じた。
彼は、このラリーが昨年(2025年2月下旬〜4月9日の調整後の回復ラリー)と「ほぼ同じ日付で」類似していると指摘した。調整局面で「レジームチェンジ」(スタグフレーション到来、テック売り・エネルギー買い)を唱えたコメンテーターに対し、Eismanは「ラリーのリーダーはここ数年と同じ──テック株と銀行。エネルギーや生活必需品はラグした」と述べた。
3-2. 半導体がS&P 500の16% ── 過去最高
Eismanは、S&P 500におけるセクター構成の変化を強調した。半導体は、S&P 500の16%に達し過去最高。情報セクター全体の46%を構成する。一方、ソフトウェアは2025年8月のピーク12%から8%に低下した。
この集中度は「AI関連のポジティブまたはネガティブなニュースが市場全体を容易に揺さぶることを意味する」。実例として、OpenAIの売上目標未達というWSJ記事が、1日で半導体セクター、情報セクター、NASDAQの調整を引き起こしたと指摘した。
3-3. ゴールドの異常な動き
Eismanは「ゴールドは通常、インフレと法定通貨の衰退に対するヘッジとして機能する。戦時中にラリーするはずだが、何もしていない。何を意味するか不明だが、注視に値する」と述べた。
4. K字経済の実態 ── Domino's vs. Visa
4-1. Domino's:中低所得層の「深い不況」
Domino'sの米国既存店売上はQ1で+0.9%にとどまり、社内予想を下回った。EPSは$4.13で、予想の$4.28を下回った。経営陣は米国・海外ともに2026年通年の既存店売上ガイダンスを「低い一桁台のプラス」に引き下げた。
Eismanは「ピザ会社が弱い既存店売上を報告するということは、中間層と低所得層の消費者が苦しんでいることを意味する」と指摘。「K字の下半分の消費者は深い不況にある。市場が上昇し続けていることは、消費者と市場の動きの乖離を示している」と述べた。
4-2. Visa:消費全体はまだ強い
一方で、VisaのQ1決算は好調だった。Eismanによれば、純売上は前年比17%増(2022年以来最大の伸び率)、EPSは$3.31で予想$3.10を上回り前年比20%増。最重要の決済ボリュームは9%成長だった。
Eismanは「Visaは世界中のどの企業よりも消費者の動向を正確に映し出す」と述べ、「現時点で浮かび上がっている像は、消費者はまだ支出しているが、中間層と低所得層は苦しんでいる。だからDomino'sの結果が弱い」と結論づけた。
5. ビッグテック決算 ── AI設備投資に減速の兆しなし
5-1. 4社一斉決算の明暗
水曜夜に報告されたGoogle、Microsoft、Amazon、Metaの結果をEismanは以下のように整理した。
Google(+10%):「純粋に力強い四半期」。総売上$947億(予想$916億)、クラウド売上$200億(予想$180億)で「成長の有意な加速が見られた。それだけ知っていれば十分だ」。
Amazon(+1%):EPS $2.78(予想$1.63)で大きなビート。AWS売上は前年比28%成長(前四半期24%、予想26%を上回る)。CEOがAWSのAIチップTraniumに対する$2,250億の売上コミットメントを発表し、時間外の下落から翌日+1%に転じた。
Microsoft(▲4%):売上$545億、EPS $4.27(前年比23%成長)は好調。Azure成長率39%だが予想38%との差がわずか1ポイントで、投資家がより大きなアップサイドを期待していた。
Meta(▲8.5%):「四半期に問題はなかった。設備投資が問題だった」。2026年設備投資を$1,250億から$1,350億に引き上げ、投資家はMetaが継続的にAI設備投資予算を増やすことに疲弊。加えて$1,350億でもGoogle、Microsoft、Amazonに支出額で負けている。
5-2. Eismanの結論
「ビッグ4の結果からの最大のテイクアウェイ:AI設備投資に減速の兆しはない。AI設備投資がGDPを牽引し、堅調なGDPが株式市場を牽引している」。
6. FICO ── 「サプライヤーを怒らせるモノポリスト」のリスク
6-1. Eismanのショートポジション
Eismanは、数ヶ月間FICOをショートしていると開示した。Q2決算はビートし、ガイダンスも引き上げたが、株価は一時+10%の後、+3.4%で引けた。
6-2. 価格差の衝撃:$2,049 vs. $99
Eismanが最も注目するのは、FICOの新スコア10Tと三大信用局が提供するVantage Scoreの価格差だ。
FICOは、Score 10Tの価格をスコアあたり$0.99+融資実行あたり$65に設定した。三大信用局のVantage Scoreはスコアあたり$0.99のみ。
Eismanの計算:融資率30%と仮定すると、100件のローン申請あたり、FICO = $99 + ($65 × 30) = $2,049。Vantage Score = $99 × 100 = $99。20倍以上の価格差だ。
6-3. FHFAの最終承認が迫る
2026年4月22日、FHFAとHUDは、Fannie Mae、Freddie Mac、FHAが新たな信用スコアモデルとしてVantageScore 4.0とFICO 10Tを受け入れると発表した。これは「数十年にわたる単一モデル時代に終止符を打ち、住宅ローン市場に競争を導入する」歴史的な動きだ。
Eismanは、「FICOはモノポリストだが、スコアを生成するために三大信用局からデータを引き出している。その信用局が今やFICOの競合だ。サプライヤーを、そのサプライヤーのハードワークで儲けることで怒らせるのは一つのこと。それが別次元の問題になる」と指摘した。
7. プライベートクレジットの警告信号 ── ソフトウェアローンの時限爆弾
7-1. Ares Capital(ARCC)のソフトウェアエクスポージャー
Eismanは、Ares Management傘下の上場プライベートクレジットファンドARCC(資産$295億)の分析を共有した。外部コンサルティング会社の調査によれば、ソフトウェアローンの85%は低リスク、14%が中リスク、1%が高リスク。問題のある14%+1%はポートフォリオ全体の3.3%($10億)に相当する。
7-2. Eismanの反論 ── 「低リスク」の本当の意味
Eismanは「85%が低リスクとは何を意味するのか?おそらく企業が今は順調に業績を上げているということ。しかしそれは本当の問題ではない」と指摘。
彼はServiceNowを例に挙げた。ServiceNowは、2025年7月の$290から現在$90以下に下落(▲60%超)。「これは全てのPEソフトウェア企業の価値が購入価格の半分以下であることを意味する。業績が順調とされるARCCのローンポートフォリオのソフトウェア企業でさえ、株式価値は元の購入価格の半分以下だ。株式価値が半分以下の時、誰がローンをリファイナンスするのか?これが核心的な問題だ」。
7-3. Blue Owl ── GAAPベースではほとんど利益なし
Blue Owlも決算発表。株価は+10%(数字が「災害ではなかった」ことと19%のショート比率が背景)。しかし、Eismanは2点を指摘した。
第一に、直接融資のリターンがQ1で▲40bps。第二に、株式ベース報酬が前四半期比21%増の$1.96億(コンセンサス$1.30億の50%超)。「株価が年初来▲39%の企業の経営陣に対する大量の株式報酬」であり、GAAPベースでは「ほとんど利益が出ていない」と批判した。
8. ターンアラウンド銘柄 ── GM、Starbucksの教訓
8-1. GM ── 割安+ターンアラウンドの成功例
Eismanは、「Charterで期待しているのはGMのような展開だ」と述べた。GMは2023年11月の$27から現在$78へ。Q1はEPS $3.70(予想$2.60、前年$2.78)で全面的にビート、ガイダンスも引き上げた。売上$436億で米国自動車販売がYoY▲10%にもかかわらず予想を上回った。
8-2. Starbucks ── ようやく動き出したターンアラウンド
Starbucksは、2四半期連続のトラフィック成長を報告。EPS 50セント(予想42セント、前年41セント)、既存店売上は北米主導で+6.2%と印象的な数字。通年見通しも引き上げ、株価は水曜日終了時点で+8%超。
Eismanは「インフレクションポイントの予測は難しい。真の企業変革には時間がかかり、正確な底や天井を捉えることは非常に困難だ」とコメントした。
9. AI関連の産業セクター ── QuantaとCaterpillar
9-1. Quanta Services ── AI電力需要の受益者
Eismanが長年保有するQuantaは「ユーティリティが建設・保守に使う企業」だ。Q1はEPS $2.68(前年$1.78、予想$2.08)で大幅ビート。売上$78.7億は前年比26%増、予想$70億も上回った。「AIデータセンター建設ブームが電力需要を増大させ、その恩恵を直接受けている」。
9-2. Caterpillar ── データセンター建設が牽引
CaterpillarもAI関連ストーリーだとEismanは指摘する。EPS $5.54(前年$4.25、予想$4.63)で大幅ビート、売上$174億は前年比22%増で予想を$10億超上回った。最も重要なのは、AI設備投資に最も関連する建設部門の売上が38%成長したことだ。
10. その他の注目決算
Eli Lilly:Eismanが長年保有。「肥満薬戦争を制した」として、EPS $8.55(予想$6.66、前年$3.34)、売上$198億(予想$176億)の「ブローアウト四半期」。ガイダンスも引き上げ。
Bookings:Q1のEPS成長は15%で実績は良好だが、戦争の影響で6月四半期の売上成長見通しを4〜6%(コンセンサス11%)に引き下げ。
Enphase:ソーラー業界の不況は続く。EPS 47セント(前年68セント、▲31%)。Q2ガイダンスは$2.8〜3.1億で市場予想並みだが、ビジネス改善の兆候はなし。「テーゼがなければ、株が上がる理由を見出すのは難しい」。
Apple:「良い四半期だが素晴らしい四半期ではない」。EPS $2.01(前年$1.65、+22%)、売上成長17%でビート。ただしiPhoneの売上は3四半期中2度目の予想未達。
11. まとめ ── Eismanの今週の教訓
Eismanの分析が一貫して示しているのは、「マーケットは不道徳(immoral)だ」ということだ。中低所得層の消費者が苦しんでいる証拠(Domino's)を無視し、AI設備投資がGDP成長を牽引する限り市場は上昇を続ける。「Buy the dip(押し目買い)は、そうでないと証明されるまでマントラであり続けるだろう」。
しかし、同時に、半導体のS&P集中度16%という構造は、AIナラティブにひびが入った瞬間の下落幅が大きくなることを意味している。OpenAIの売上目標未達というニュース1本でNASDAQが1日で調整したことが、その脆弱性を端的に示した。

