見出し画像

「良い口コミを書いてください」は、なぜ言いづらいのか。多店舗企業のクチコミ施策が現場で続かない理由

「Googleクチコミをもっと増やしたい」
そう考えて、クチコミ投稿用のQRコードやカードを用意し、各店舗へ配布している企業は少なくありません。本部からクチコミの重要性を説明し、お客様への案内方法も共有する。それでも、しばらくすると案内されなくなり、クチコミが思うように増えないことがあります。

では、投稿してくださったお客様に割引やプレゼントなどの特典を付ければよいのでしょうか。しかし、Googleでは、特典と引き換えにクチコミを集めることは禁止されています。「星5を付けてください」といった評価や内容を指定する依頼もできません。
つまり、ツールや特典によって投稿を増やすのではなく、店舗スタッフが自然にお客様へ声をかけられる状態をつくる必要があります。

このような状況を見ると、つい「店舗スタッフの意識が低いのではないか」「もっと積極的に声をかけてもらう必要があるのではないか」と考えてしまいます。

しかし、本当にスタッフの意識だけが原因なのでしょうか。

私たちが多店舗企業のクチコミ施策や店舗の現場と向き合う中で感じているのは、スタッフがクチコミの重要性を理解していないのではなく、「良いクチコミを書いてください」というお願い自体が、そもそも言いづらいということです。

何を書かれるか分からない。店舗の評価を上げるためのお願いに感じる。クチコミが集まっても、自分の接客へのフィードバックとして返ってこない。

こうした心理的なハードルを残したまま、「もっと声をかけてください」と伝えても、クチコミ施策はなかなか現場に定着しません。

必要なのは、スタッフの意識を変えることではなく、スタッフが納得してお客様にお願いできるように、声を集める意味そのものを変えることです。

この記事では、なぜ店舗スタッフがクチコミをお願いしづらいのかをひもときながら、多店舗企業が顧客の声を継続的に集めるために必要な考え方を紹介します。


AIがお店を理解する時代に、クチコミの役割が変わっている

店舗を探すとき、以前は「地域名+業種」で検索し、検索結果やGoogleマップに表示された店舗を一つずつ比較する流れが中心でした。

現在は、AIやGoogleに対して、より具体的な条件を伝えながら店舗を探す場面が増え始めています。

「近くで評判のいい車検店は?」
「初めてでも相談しやすい美容サロンは?」
「子ども連れでも安心して利用できる店舗は?」

このような質問に答えるためには、営業時間、住所、料金などの公式情報だけでは十分ではありません。

初めて利用したお客様が、どのような不安を持っていたのか。スタッフがどのように対応し、なぜ安心できたのか。商品やサービスについて、どのような説明が分かりやすかったのか。

こうした具体的な顧客体験も、店舗の特徴や選ばれる理由を理解するための重要な情報になります。

Googleマップでは、Geminiがクチコミやオンライン上の情報を分析し、場所に関するヒントを表示する機能や、クチコミを要約する機能が日本でも提供されています。利用者がすべてのクチコミを一件ずつ読まなくても、AIがその店舗の特徴や評価を整理する場面が生まれています。

これからの店舗集客では、単に検索結果へ表示されるだけでなく、その店舗が「どのようなお客様に、なぜ選ばれているのか」が分かる情報を蓄積することが重要です。
そのためにも、実際のお客様の体験が伝わるクチコミや顧客の声を、継続的に集めていく必要があります。

クチコミ施策のボトルネックは、ツールではない

Googleクチコミを増やすためのツールや方法は、すでに数多く存在します。

クチコミ投稿ページにつながるQRコードを発行する。店頭にポスターやカードを設置する。来店後にメールやメッセージで案内する。複数店舗に寄せられたクチコミを本部で一括管理する。
こうしたツールや投稿導線を整えることは、もちろん大切です。
しかし、接客を伴う店舗ビジネスでは、ツールを導入しただけでクチコミが継続的に増えるとは限りません。

QRコードが用意されていても、お客様に案内されなければ読み取られません。ポスターが掲示されていても、存在に気づいてもらえなければ利用されません。

最後にお客様へ声をかけるのは、本部でもツールでもなく、店舗で接客をしているスタッフです。
誰が案内するのか。どのタイミングで伝えるのか。どのような言葉でお願いするのか。忙しい時間帯でも無理なく続けられるのか。

多店舗企業のクチコミ施策は、最終的には、このような現場の日々の行動に支えられています。

だからこそ、本当に解決すべきなのは、ツールや投稿導線の不足だけではありません。スタッフが自然に声をかけられない状態そのものです。

投稿率を高める前に、まずはお客様の声を受け取る機会を、日々の接客の中につくる必要があります。そして、そのためには「もっと声をかけてください」と指示するのではなく、スタッフ自身がお願いする意味を感じられる設計が必要です。

なぜ「良い口コミを書いてください」は言いづらいのか

現場のスタッフがクチコミを案内しづらい理由は、単に忙しいからではありません。そこには、大きく3つの心理的なハードルがあります。

1.何を書かれるか分からない

Googleクチコミは、インターネット上に公開されます。

お客様に案内した結果、ネガティブな内容を書かれたらどうしよう。自分の接客について悪く書かれたらどうしよう。店舗や本部から何か言われるかもしれない。

このような不安を持つのは、スタッフにとって自然なことです。

本部から見ると、「満足していそうなお客様にお願いすればよい」と思えるかもしれません。しかし、現場のスタッフが、お客様の感情や評価を完全に読み切ることはできません。
接客中は笑顔だったとしても、価格に少し不満があったかもしれません。説明には納得していても、待ち時間が気になっていたかもしれません。スタッフが「良い対応ができた」と思っていても、お客様が同じように感じているとは限らないのです。
結果をコントロールできない公開レビューだからこそ、スタッフは慎重になります。

2.店舗都合のお願いに感じる

「良い口コミを書いてください」という言葉は、どうしても店舗側の都合に見えやすいものです。
店舗の評価を上げるため。本部のKPIを達成するため。集客を増やすため。
スタッフ自身がそのように感じてしまうと、お客様に声をかけることに納得しづらくなります。
特に、目の前のお客様に誠実に向き合っているスタッフほど、「店舗の評価を上げるためのお願い」を接客の最後に差し込むことに抵抗を感じます。

お客様のために丁寧に接客していたはずなのに、最後だけ店舗のためのお願いに切り替わってしまう。その違和感が、声かけのハードルになります。

3.集めた声が自分に返ってこない

Googleクチコミは、基本的に店舗の評価として蓄積されます。
たとえスタッフの接客が評価されていても、その声が本人に届かなかったり、店長や本部に共有されなかったりすれば、スタッフにとってはクチコミを集める意味が見えにくくなります。

「クチコミを集めてください」と言われても、それが自分の接客へのフィードバックになるのか。お客様に喜ばれている実感につながるのか。自分の仕事を店舗や本部が見てくれるのか。
この部分が見えなければ、継続的に案内する動機は生まれにくくなります。

そもそも「良い口コミ」をお願いするべきではない

ここで、もう一つ大切なことがあります。
「良い口コミを書いてください」という言葉は、スタッフが言いづらいだけでなく、クチコミの依頼方法としても適切ではありません。

Googleマップのクチコミは、実際の体験に基づく、偽りのない公平な内容であることが求められています。特典と引き換えに投稿を促したり、肯定的なクチコミだけを選んで依頼したり、評価や書いてほしい内容を指定したりする行為は避ける必要があります。

クチコミ投稿ページにつながるリンクやQRコードを共有し、率直な感想をお願いすること自体は問題ありません。ただし、「星5を付けてください」「接客が良かったと書いてください」といった形で、評価や内容を誘導してはいけません。

目指すべきなのは、店舗にとって都合のよいクチコミを増やすことではありません。
お客様が実際の体験を振り返り、自分の意思と自分の言葉で率直な感想を残せる環境をつくること。
その結果として、現在の店舗で生まれている顧客体験が、Google上にも継続的に蓄積されていく状態をつくることです。

※Googleのポリシーは更新される可能性があります。実際に施策を行う際には、最新の公式情報をご確認ください。

スタッフは、お客様の声が嫌いなわけではない

スタッフは、お客様の声を集めたくないわけではありません。
むしろ、お客様からの感謝やお褒めの言葉は、現場で働くスタッフにとって大きな励みになります。
「丁寧に説明してもらえて安心しました」
「担当してくれた方が親身に話を聞いてくれました」
「無理に勧めず、自分に合った商品を一緒に考えてくれました」
このような言葉を直接受け取れることは、自分の仕事がお客様にどう届いたのかを知る貴重な機会です。
スタッフが避けたいのは、お客様の声そのものではありません。店舗の評価を上げるために、目の前のお客様へ協力を求めているように感じる依頼です。
つまり、問題は「声を集めること」ではなく、誰のために、どのような意味でお願いするのかにあります。

下記参照元データをもとに、社内で作成
参照元:多店舗展開の「ラストワンマイル」の課題|ABILI Clip(ClipLine)

調査方法:アンケートサービス登録モニターを対象としたWebアンケート調査 
調査期間:2023年2月7日~2023年2月16日
調査対象者:過去1年以内に、サービス業のチェーン店での就業経験のある方 
分析対象者数(回収票数):1,260

「クチコミを書いてください」から「感謝を届けませんか」へ

例えば、次の2つの案内を比べてみてください。
「よろしければ、Googleに良い口コミを書いていただけませんか」
「今日の接客で印象に残ったことがあれば、担当スタッフへメッセージを届けていただけませんか」

どちらも、お客様に声をお願いする行為です。しかし、スタッフとお客様が感じる意味は大きく異なります。

前者は、店舗の評価を上げるためのお願いに見えやすい言葉です。一方、後者は、お客様がスタッフへ感謝や応援を伝える機会になります。
スタッフにとっても、クチコミ獲得のための業務ではなく、自分たちの接客に対するフィードバックをお願いする行為に変わります。

お客様には、良くしてくれたスタッフへ感謝を伝える体験を。
スタッフには、自分の接客価値が分かるフィードバックを。
本部には、店舗ごとにどのような顧客体験が評価されているのかを知る情報を。

この三者に価値が生まれる設計にすることで、スタッフがお客様へ案内する理由が生まれます。
もちろん、スタッフへのメッセージとGoogleクチコミは、同じものではありません。
まずは、お客様が接客体験を振り返り、スタッフや店舗への率直なメッセージを残す。そのうえで、希望するお客様には、評価や内容を指定せず、今回の体験をGoogleにも投稿できる選択肢を案内する。
この順番であれば、クチコミを直接要求するのではなく、感謝やフィードバックを起点にした自然な体験を設計できます。

お願いする意味を変える仕組み「スタッフバリュー」

ここまで見てきたように、クチコミ施策を現場に定着させるためには、投稿ページへの導線を用意するだけでは十分ではありません。

必要なのは、「店舗の評価を上げるためにクチコミを書いてもらう」というお願いを、お客様が接客への感謝や率直な感想を伝える体験へ変えることです。

私たちは、こうした考え方から、スタッフへの感謝や応援メッセージを起点に顧客の声を集めるサービス「スタッフバリュー」を提供しています。

スタッフバリューでは、最初からGoogleクチコミを直接お願いするのではなく、まずお客様に、その日の接客体験を振り返っていただきます。
印象に残ったスタッフを選び、良かった対応や安心できた理由などについて、スタッフや店舗へのメッセージを残していただく仕組みです。
寄せられた声は、スタッフ本人や店舗へ届けられます。希望するお客様には、評価や記載内容を指定せず、Googleにも今回の体験を投稿できる選択肢を案内します。

スタッフバリューが目指しているのは、店舗にとって都合のよいクチコミを集めることではありません。

お客様の率直な声をスタッフへ届け、その声をスタッフの励みや接客改善につなげる。そして、実際の顧客体験が、GoogleクチコミやWebサイト、SNS、店頭掲示などを通じて、次のお客様にも伝わっていく。
この循環をつくることです。

お願いする意味が変わると、集まるクチコミの内容も変わる

スタッフへの応援や感謝の声を起点にすると、集まる声の「件数」だけでなく、「内容」にも変化が生まれます。

ある車検関連企業のクチコミを、スタッフバリューの導入前後で分析したところ、クチコミ内で次のテーマに言及される割合が増加しました。

  • 接客・対応:約42%から約80%

  • 説明・納得・透明性:約47%から約76%

  • スタッフや人への言及:約5%から約16%

  • 安心に関する言及:約11%から約24%

導入前は、「安い」「早い」「特典がある」といった価格、スピード、キャンペーンに関する内容が中心でした。
導入後は、次のような具体的な接客体験が書かれるようになりました。

「受付の方も整備スタッフの方も、丁寧に対応してくださいました」
「説明が細かく分かりやすかったので、安心してお任せできました」
「交換を強制するのではなく、納得できるように説明してくれました」
これは、単にクチコミの文章が長くなったという話ではありません。

店舗が評価される理由が、「安さや特典」だけでなく、「スタッフの対応」「説明への納得感」「安心して任せられること」といった接客体験として表れるようになったということです。

同じ車検サービスでも、「価格が安い店舗」と「車に詳しくない人にも丁寧に説明し、納得できる選択を支えてくれる店舗」では、来店前のお客様に伝わる価値がまったく異なります。

具体的な顧客体験がクチコミとして蓄積されれば、次のお客様が店舗を選ぶ判断材料になります。AIやGoogleが店舗の特徴を整理する際にも、その店舗で実際にどのような体験が生まれているのかを理解する材料になります。

良い接客が、現場だけで消えてしまうのはもったいない

店舗では、毎日たくさんの良い接客が生まれています。

お客様の不安を丁寧に聞いた。専門的な内容を分かりやすく説明した。無理に売り込まず、納得できる選択肢を提案した。忙しい中でも笑顔で対応した。長く通ってくださるお客様との関係を大切にした。
しかし、その多くは接客の現場で完結しています。

お客様がその場で「ありがとう」と言ってくださっても、記録として残らなければ、本部には見えません。次のお客様がその店舗を選ぶ理由にもなりません。スタッフ本人の励みとして蓄積されることもありません。
これは、とてももったいないことだと思います。

良い接客を、その場限りで終わらせない。お客様の言葉として残し、スタッフへ届け、店舗の接客改善や情報発信に活かす。

Googleクチコミだけでなく、Webサイト、SNS、Googleビジネスプロフィールの投稿、店頭掲示、採用活動、社内表彰など、顧客の声を活用できる場面は数多くあります。

本部にとっては、顧客の声は店舗の集客や改善に活用できる情報資産です。しかし、現場にとっては、その前に「自分たちの接客がお客様へどう届いたのか」を知るフィードバックである必要があります。

この順番があるからこそ、顧客の声を集める取り組みが、本部から押しつけられた施策ではなく、現場にも意味のある活動になります。

まとめ:「良い口コミを書いてください」をやめるところから始めよう

「良い口コミを書いてください」は、スタッフにとって言いづらい言葉です。
何を書かれるか分からない不安がある。店舗都合のお願いに感じる。集めても自分の評価や励みにつながりにくい。そして、そもそも特定の評価や内容へ誘導する依頼は、適切なクチコミの集め方ではありません。
だからこそ、多店舗企業のクチコミ施策は、投稿ページへの導線を整えるだけでは続きません。
必要なのは、クチコミ依頼を、お客様が感謝や率直な感想を伝える体験へ変えることです。
クチコミ施策が現場で続くかどうかは、最後はスタッフの気持ちにかかっています。
スタッフが自然に案内したくなる声の集め方を設計できるか。
そこから、多店舗企業のクチコミ施策は変わっていくのではないでしょうか。