Suchmosの『Marry』を東海道線で聴いたら多摩川ゆがんだ
先日、東海道本線のくだり電車に乗って、その日の仕事現場に向かっているときに、Suchmosの新EPを聞いていた。
PVが公開されている『Eye to Eye』で、成熟した音の中にギラっと光る反骨心を垣間見て胸が熱くなったあと、続く『Marry』の歌詞の第一声で固まった。
想像もできなかった。「結婚しよう」という一言で始まる曲を作るなんて。
会いたくて震える青い恋や、刺激的なラブロマンスの曲じゃない。恋を成熟させた2人が、互いの自分らしさを大切にしつつ、自我を融合させながら、2人の新たな自由を得よう、という直球のプロポーズソングだったのだ。
変わらない毎日を、変わらない相手とともに過ごし、変わりゆく季節を楽しむ日常が目に浮かぶ。
ストレートな愛のことばをのせたフォークソング風の『Marry』を不意打ちでくらい、鉄橋の真下に見える多摩川がぐにゃりと曲がった。もしかしたら、涙腺が刺激されたのかもしれない。
およそ6年ぶりの新曲を聞きながら、2010年代に思いをはせた。
当時、移動中には、Suchmosの2枚のアルバムをよく聞いていた。潮風と都会の空気がブレンドされたアルバムには、刺激と聴き心地の良さが共存していた。
知名度が飛躍的に上がっていた2019年、満を持してリリースされた「3枚目」のアルバムは、海辺から海の中にもぐり、水中から稲妻を見上げるような蠱惑(こわく)的な仕上がりだった。自我の深海に潜水して、内面に抱える孤独や苦悩と対峙する歌詞が耳に残る。
レーベル名に、最初のスタンスを大切にしたいという「FIRST STANCE LAST STANCE」を掲げていた彼らは、たびたび商業主義への反骨心を歌詞にこめていたが、バンドを取り巻く環境の激変を経験して、あのアルバムを制作したのは、必然だったのかもしれない。
翌年、パンデミックが世界を覆い、音楽活動が「不要不急」とみなされた時期に、Suchmosは活動休止を発表した。胸の張り裂けるような別れが続いた。
以後、ボーカルのYONCEが時々SNSにアップしていた投稿からは、地球の大地に足を密着させる生活を望みながらも、「売れる音楽」との距離感を探っていたようにも感じる。
メンバーは、それぞれ、別々の場所で音を鳴らし、それぞれの経験を持ち寄り、2025年6月にライブを行い、リリースした新しい4曲。
Eye to Eyeの「♪コバンザメ~オオバンザメ~」のギラついた歌詞から、Marryの「結婚しよう」への振れ幅、好きすぎる。
『Marry』に続く『Whole of Flower』は、メンバー結集のタイミングの訪れを想起させる歌詞で、耳を傾けていたら、目的の駅を通り越して茅ヶ崎まで行きそうになった。
