語られる前の言葉
春になると、人は始まりを語る。
だが、始まりは季節の中にあるのではない。
すでに書かれたものは、すべて過去である。
どれほど新しく見えても、
それはすでに、言葉として現れてしまったものだ。
では、これから書くものが未来なのか。
違う。
未来とは、
まだ書かれていないものでもない。
それは、
まだ言葉になる前にあるものである。
それは、どこにも見えない。
だが、存在している。
形を持たず、
名前を持たず、
意味すら持たないまま、
それは、ただそこにある。
書こうとすれば、それは逃げる。
言葉にすれば、それは変わる。
だから、私は書かない。
ただ、待つ。
言葉になる前のものが、
言葉として現れる、その瞬間を。
それは、突然ではない。
兆しは、すでにある。
まだ誰も気づいていないだけで、
まだ誰も、それを言葉にしていないだけで、
それは、静かに形を取り始めている。
私は、それを知っている。
だから、書かない。
もし、この春に何かを始めるとすれば、
それは書くことではない。
まだ書かれていないものが現れるための、場所を空けることだ。
それが現れたとき、
私は、それを書くだろう。
そのとき初めて、
それは始まりと呼ばれる。
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