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【ショートショート】 Y染色体・アダム セカンド


22XX年。

人類は静かな危機に直面していた。

世界中で男性の生殖能力は低下を続け、その原因は解明されないままだった。

一部の研究者は、長い進化の果てにY染色体が限界へ近づいているのではないかと警鐘を鳴らしていた。

人工的な補修も、新たなY染色体の設計も試みられた。

しかし、どれも決定打にはならなかった。


その頃、シベリアの永久凍土で世紀の発見があった。

数万体に及ぶ未知のホモ属の遺骨。

解析の結果、彼らのY染色体は現生人類のものとは大きく異なり、X染色体に匹敵するほど豊富な遺伝情報を保持していた。

研究チームは、慎重な倫理審査を経て、そのY染色体を用いた生殖実験を開始した。

結果は成功だった。

健康な男児が誕生したのである。

彼は、やがて「アダム セカンド」と呼ばれた。


その子孫たちは驚異的だった。

学習速度。

集中力。

創造性。

危機管理能力。

どれも平均を大きく上回ったが、外見は普通の人間と変わらない。

社会は彼らを歓迎した。

企業は競って採用し、大学は奨学金を用意し、各国政府は人類の未来を託した。

数世代後。

アダム セカンドの系統は世界人口の三割に達し、主要企業、研究機関、政府機関の中核を担うようになった。

危険性を指摘する声もあった。

しかし、そのたびに反論が返ってきた。

「優秀であることの、何が問題なのか。」


異変は静かに始まった。

四十代後半を迎えたセカンドの一部に、人格の急激な変化が現れたのである。

理性は失われない。

むしろ冷徹になる。

だが、共感だけが消えていった。

やがて、暴力事件が世界各地で相次ぎ始めた。

どの事件にも、アダム セカンドが関与していた。


危険性を感じていた少数の研究者たちは、公にはされていない発掘区域で、密かに調査を続けていた。

そして永久凍土のさらに深部から、想像を絶する規模の遺跡が姿を現した。

数十万体もの遺骨。

折れた武器。

焼失した都市。

DNA解析と年代測定が示した結論は、一つだった。

彼らは疫病で滅んだのではない。

飢餓でもない。

天変地異でもない。

自らの同族同士の戦争で滅んだのである。


研究グループは、誰にも知られぬまま緊急会議を開いた。

机の上には解析結果と発掘写真が無造作に積み上げられている。

部屋を満たすのは、重苦しい沈黙だけだった。


そのとき、監視カメラの映像に、静かに建物へ向かってくる一団が映った。


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