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【読書記録 -87】組織のディスコースとコミュニケーション

ボクが、自分の本の読み方を「精読」から「乱読」にシフトして、丸4か月が経った。

精読時代は吟味に吟味を重ねて「これぞ!」という1冊を熟読していた。当時、ボクが自分にとって読むべきと判断する基準は「今の自分に役に立つか」というものだった。だから、手元にあった本のほとんどが名著と呼ばれるビジネス書だったのだ。

だけど今は違う。今は「なんだか面白そう」とか「テレビやラジオで紹介されていた」といったシンプルな基準で書籍を選んでいる。だから最近は(以前は絶対に手を出さなかった)自己啓発書も読むし、人気小説も読むようになった。そして、たまにマンガも大人買いしたりしている。

そうしていると、面白いことに自分の頭の中で雑多な知識がつながってくる。まさに『乱読・乱談のセレンディピティ』で外山滋比古氏が書いていたこと… ボクの脳が「アルファ読み」から「ベータ読み」に移行してきているように感じている。


もう1年くらい前になるだろうか…
この本は、ある人からおススメされて購入したものだ。

当時のボクは「アルファ読み」しかできなかったので、この難解な本を読み解く力がなかった。だから、ボクはこの本を書棚に置きっ放しにして(かっこよく言えば)機が熟すのを待っていた。

そして、1年越しでやっと読み解くことができるようになったのだ。それはボクが賢くなったわけではなく、ただただ乱読を続けてきたことによって「ベータ読み」ができるようになったからだと思っている。



「言葉」が現実を作っている

本書『組織のディスコースとコミュニケーション』の中心に据えられているメッセージは「社会的現実はディスコース(言葉の体系)によって構成される」という考え方だ。

言葉は単に情報を伝達する道具ではない。それはボクたちが、何を現実として認識し、どのような関係性を築くかを決定づける力を持っている。それがどんな組織であっても、それを構成する人たちの「語り(ナラティブ)」によって組織は編み上げられているのだ。

本書の著者 清宮徹は西南学院大学教授。ミシガン州立大学大学院にて博士号取得。組織コミュニケーションおよびディスコース分析の第一人者だ。彼は、1960年代以降の「言語論的転回(Linguistic Turn)」を踏襲し「CCO(Communication Constitutes Organization:コミュニケーション生成組織)」という理論を学生たちに教えている。それは、組織を「コミュニケーションのプロセスそのもの」と捉える考え方だ。

学術的に「組織」を研究する際には、客観的な因果関係や効率性を重視する(科学的管理法)が主流である。しかし、現代の複雑な社会現象は、シンプルな公式や理論だけで説明しきれない。

例えば、組織で「いじめ」や「パワーハラスメント」が起きた際、通常の研究では、それを「発生件数」や「事実の有無」という客観的事実として扱う。しかし、それではその周辺で起きている複雑なコミュニケーション過程を見落としてしまう。「いじめ」は行為そのものではなく、「いじめ」とネーミングされることで、初めて特定の社会的現実として顕現する。

このように、特定の言葉がどのような意味を持ち、その言葉の意味がどのように現実を固定化しているかという点に着目するのが「ディスコース・アプローチ」なのだ。

「パワー」と「ヘゲモニー」

組織ディスコース研究の源泉には、ミシェル・フーコーやエルネスト・ラクラウといった思想家の理論が応用されている。

フーコーは「知=パワー」という概念を用い、組織のルールや制度が「言説的装置(Discursive Apparatus)」として機能し、個人のアイデンティティを形作るプロセスを解明した人物だ。彼は(例えば)職場の「評価制度」は単なる管理ツールではなく、何が「正常な社員」であるかを規定し、私たちを自発的に律する「統治性(Governmentality)」を有していると表現している。

また、ラクラウは「アサーション(分節化)」と「ヘゲモニー」の概念によって、特定の経営ナラティヴがいかにして「常識」の地位を獲得するかを説明している。本書内で語られているのは、組織内で発せられる声や不満を一つの大きな物語(グランド・ナラティブ)に繋ぎ合わせることで、組織内の合意が形成されていくという過程だ。

レトリックとナラティブ

本書の中では「DJポリス」の例が挙げられていた。2013年6月4日、サッカーワールドカップ予選の試合後に、渋谷交差点で交通誘導を行った警察官(DJポリス)がマイクで呼びかけた内容が、成功したナラティブの例として分析されている。

彼は群衆を「取り締まり対象」ではなく「日本代表のサポーター」というアイデンティティに基づくレトリックで語りかけた。この「再コンテクスト化(Recontextualization)」によって、通行人の行動は対立から協力へと変化した。 それは、「人」と「問題」を分離し、オルタナティブ・ストーリー(新しい物語)を構築することで、人間関係を建設的なものへと変容させることが可能であることを示唆している。

目指すべきは「組織デモクラシー」の実現

組織とは、多様な利害や関心を持つ人々が、対話を通じて「意味」を生成し続ける動的なプロセスであるべきだ。決して、効率だけを追求し、そのために組織の構成員を管理・統制する場であってはならない。

本書が提唱する「組織デモクラシー」とは、単なる多数決や一部の強者による独占ではなく、継続的な問い直しと対話によって組織の「相互理解」を進め、構成員それぞれが意思決定のプロセスに参加し、それぞれが組織に対して影響力を持つ… そんな民主的な運営体制を目指すことを指しているのだ。

参考リンク集

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